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2.2 節 地磁気の起源 - 磁気を担う荷電粒子の運動 -

2.2.1 運動する荷電粒子が他の運動する荷電粒子に及ぼす磁気作用

  2本の導線に同じ方向に電流を流すと互いに引き合う磁気現象があります。具体例として、核融合の実験では大電流が流れるプラズマが細く収縮するピンチ効果を利用します。また、アーク溶接では棒先端の溶融金属のアークが引き伸ばされるようにくびれます。 これらは、並走する荷電粒子が磁気的に結合する現象です。従来の磁気の説明は静磁場の中では運動する荷電粒子は磁力線に巻きつくように運動するとして扱います。 ところが、運動する荷電粒子が発生する磁気的な作用は静磁場の磁力線では扱えません。磁力線は磁気作用が働く方向を示した架空の線で反作用をしません。 静電気の電気力線も実体ではないので電気力線跳ね返されるような作用はありません。 量子力学ではエネルギーで問題を扱います。運動する荷電粒子が発するベクトルポテンシャル(A)が他の荷電粒子の運動に作用するとしてエネルギーの状態を計算して 、結果の減少したエネルギーの値により相互作用して得た効果を評価します。
べクトルポテンシャルAの場にある速度v の電荷粒子の運動のエネルギー(Um)は(1)式となります。
              Um= - (qv)・A         (1).
ここで, 負の符号はvAが平行になる時に、低くなるように設定しています。
 点電荷に静電エネルギ-を与えるのは静電ポテンシャル(φ)です。電界(E)は電位φの場所による変化分です。すなわち gradφ=E です。  これに対して、点電荷の運動成分が点電荷の運動にエネルギーを与えるベクトルポテンシャル(A)考えて、A と磁束密度(B )の関係を(2)式で定義しています。
              B = rot A           (2)
(rot)の意味は微小面積の周りを周回方向のべクトル(A)を一周して加え合わせる操作で、 積分形で表現すれば点電流の場(A)を加え合わせるとその点電流の場(A)が 囲む面積を貫く磁束(Φ)が与えられる
 ベクトルポテンシャルA場において電子が受ける量子力学としてアハロノフ・ボーム効果(Aharanov-Bohm effect ) があります。この効果)は図2.2.1 に示すように、ソレノイドの外側で上下に通過する電子の物質波の位相が異なり、 干渉縞が現れる現象です。 ソレノイドの上下の磁界は同じですが、 磁界を発生する電流の方向が上下で反対です。電流に作用するベクトルポテンシャル(A)が上下で反対方向です。 そこで、並行電流がエネルギーが低くなる効果で ソレノイドの外側の上下で通過する電子の位相に相違が発生します。この効果は1986年、外村彰氏が超伝導体をソレノイドに覆った試料でこの効果の実証実験に成功しました。
         
     図2.2.1 A-B効果:ソレノイドの外の電子流とソレノイドを流れる電流の作用

2.2.2 ベクトルポテンシャルによる運動する荷電粒子間の磁気作用

 図2.2.6 にベクトルポテンシャルAと磁場Bの関係を図示します。
           
          図2.2.2 ベクトルポテンシャルAと磁場Bの関係

  べクトルポテンシャルAの場にある速度v の電荷粒子の運動のエネルギー(2)式の回転変化分(rotation)がトルクになります。
        FL = rot Um = - (qv)・rotA    (3).
(3)式は磁場Bから速度vの電荷粒子(q)が受け取るトルクであり、ビオ・ザバールの(4)式になります。  
           FL = - (qv) xB         (4)  

 次に、マクスウェルの式(5)を用い、この式のBAで表して、Aの性質を明らかにします。
          rot B0(j0E/∂t)    (5). 
(2)式と(5)式から、
         rot (rot A) =μ0(j0E/∂t)   (6). 
マックスウェルの式のB/∂t=rot E および(2)式から、A/∂t=-E が得られます。
そこで、(6)式から(7)式が得られます。
       rot (rot A) = μ0(j02A/∂t2)    (7).
ベクトル解析の公式(8)式とゲージ変換の(9)式を用いて(10)式が得られます。
          rot(rotA)=grad(divA) - △A  (8)
         div (A+ gradΛ) = 0       (9).
         △A=(μ0ε0) ∂2A/∂t2 - μ0j    (10).
           △≡∂2/∂x2+∂2/∂y2+∂2/∂z2.
ここで、(ε0)∂2A/∂t2≫- j の場合に(10)式は波動方程式(11)になります。
           △A=(μ0ε0) ∂2A/∂t2     (11).
0)∂2A/∂t2≪-j  の場合に(9)式は電荷と電位の関係を示すポアッソンの式である
(△V= -ρ/ε0) に相当する式として(12)式が得られます。
            △A= - μ0j             (12).
A は点電流の場であり、(12)式に従って電流つまり荷電粒子の密度と速度と積に比例します。点電流は接近して離脱するので時間変化します。その変化がAを時間変化させます。そこで、∂A/∂t=-E、により 瞬間的に電界 Eが荷電粒子に作用します。 荷電粒子の移動による部分電流(j)が伴うAが時間変化することにより、∂A/∂t=-E、という電界Eが荷電粒子に作用します。こうして 同じ極性を有する荷電粒子が並んで運動した瞬間に磁気的に結合する方向の引力が作用し、 極性が異なる粒子間の場合は瞬間的に磁気的な反発する方向の力が作用します。

2.2.3 地球の運動する荷電粒子と太陽風の磁気作用

  図2.2.3 に地球の地磁気に影響を及ぼす太陽風の水素イオンの流れを示します。  昼半球の赤道付近 では太陽風が正面から大氣に衝突するので、 太陽の自転による反時計回転方向の角運動量により、大氣が時計方向に移動して貿易風を駆動します。  他方、太陽風は地球の中緯度の東側の上空では反時計方向の地球の自転で移動する大気のイオンが太陽風のH+が平行電流の磁気的な結合により加速されます。 他方、西側では、地球の分子やイオンが太陽風のH+と磁気的に反発されるので太陽風の影響は弱いです。その結果、中緯度では偏西風が吹きます。
              
          図2.2.3  地球の上空の大氣の分子やイオンに及ぼす太陽風の影響

地球の荷電粒子の運動と太陽風の荷電粒子の運動の相互作用によれば並走する荷電粒子が磁気的に結合するので、「地球には地磁気があって、磁力線が地球を取り囲んでいるので、地上は太陽から飛来する荷電粒子から守られている」と いう説明は誤りです、
 

-ヴァンアレン帯と地球の地磁気を構成する運動する荷電粒子-

 地球が反時計方向に自転しているので地球の内部および上空の荷電粒子が反時計方向に周回しています。 地球内部の荷電粒子の速度は赤道付近が最も速いので、赤道付近の上空を並走するの荷電粒子の磁気的結合が強く作用します。 北極および南極領域では自転速度が消失するので地球の重力だけが作用して荷電粒子が落下します。そこで、地球を周回する荷電粒子が図2.2.2 に示すように、ドーナッツ状に分布します[1]。参考文献[1] Shinji Karasawa (2022) Effects of Solar Wind on Earth’s Climate. Geol Earth Mar Sci Volume 4(2): 1–5. DOI: 10.31038/GEMS.202242 従来のように地磁気の磁力線をドーナッツ状と仮定し、その磁力線に沿って荷電粒子が運動すると考えると 太陽風は地磁気の影響を受けません。しかし、太陽風と上空の荷電粒子は相互作用します。荷電粒子間の相互作用を先に考えます。
 地上の地磁気には地球内部の荷電粒子と上空の荷電粒子の磁気作用が作用します。両者の作用は地上で相殺するので地上の地磁気が地殻構造の変化や上空の荷電粒子の分布の影響を受けます。上空の荷電粒子の影響が強い上空では反時計方向に周回する荷電粒子の影響が強く、地磁気の磁力線は 南極から地表の北極への磁力線を発生しています。 ところが、木星では地磁気を担う運動する荷電粒子が木星の内部に多量に存在して、上空の荷電粒子の効果を凌駕しているので木星では地磁気の方向が地球と磁力線の方向が反対であると説明できます。(last modified April 1, 2023))

  

           図 2.2.3 上空のH+が地球を周回して発生する上空の地磁気


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