声劇用台本/流れる季節の中で第三話『二人で話せば』

 


西沢 和真  無気力系の男の子。根暗なわけじゃありません。


津久井 祐次 能天気で明るい男の子。良い奴だけど、どこか抜けてる。


日野 守  一見おとなしくて優しそうな雰囲気。だけど、言う事はきつい。


        自分が頭良いと思っている節がある。


笹山 唯 おとなしい子。感情がすぐ表に出る。慌てやすい。


麻田 梢 明るい子。優しくて他人を気遣うのが好き。


鈴木美希 明るくて元気のいい女の子。声が大きめ。一人称は自分の名前。





       


 放課後、学校は部活に向かうものや帰路につく生徒で騒々しくなる。



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 祐次「なー、西沢。ゲーセンでもいかねーか?」
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 和真「あー、いきたいけど俺掃除だからさ。待てる?」
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 祐次「……あ、掃除か。じゃあ俺が代わってやるよ!」
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 和真「え? いいよ。待ってるだけで」
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 祐次「いいっていいって! 西沢は先にゲーセン行ってればいいから」
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 和真「?? なんなんだ?」
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   守「まあまあ、西沢くん」
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 和真「あ、日野――」
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   守「せっかく無精者の津久井くんが働きたいっていうんだからやらせてあげなよ」
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 和真「ん? なんだよそれ? おかしいだろ」
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 祐次「細かい事気にすんなって。ここは俺に任せてくれよ」
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   守「そそ、早くゲーセン行こうよ」
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 和真「って、押すなよ。それに日野ってゲームやったっけ?」
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   守「やるよぉ、信長の野望とか三國無双とか」
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 和真「それ、ゲーセンに無いよな……」
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   守「もう細かいなあ、気にしないで行こうよ」
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 和真「ああ、もう分かったよ。掃除本当にやっておいてくれるんだよな?」
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 祐次「おう、ちゃんとやっとくぞ!」
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 和真「本当にちゃんとやっとけよー」






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   梢「ねえ、美希。これから時間空いてる?」
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 美希「うんうん、大丈夫だよーっ。何かな?」
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   梢「おいしいケーキのある喫茶店あるんだけど、一緒に行かない?」
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 美希「ほんとーっ!? 行く行く。もちろん梢ちゃんのおごりだよねっ」
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   梢「うん。おごらないよ」
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 美希「あっははー! 梢ちゃん顔すっごいこわーい」
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   梢「この前ファミレスで『好きなの食べていいからね☆』なんて優しくしたらメニューの半分食べたのが悪い」
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 美希「美希なんて、まだまだだよ! 親戚の伯父さんなんか、メニュー2周は軽いよ」
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   梢「そういう問題じゃないのっ」
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 美希「お母さんだったら、3周くらいかなあ」
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   梢「……別に聞いてない。しかも聞いて寒気がしてきたわ」
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 美希「じゃあ、行こーっ!」
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   梢「おごらないからね」
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 美希「分かってる分かってるぅ!」
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   梢「はぁ、まあいいけどさ。でさ、唯も行こうよ」
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   唯「はえっ?」
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 美希「梢ちゃんがおごってくれるから行こうよ」
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   梢「唯の分だけならいいよ。ね、行こ」
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   唯「えっとぉ、どこに?」
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 美希「ケーキ食べにいくんだよ。おいしいんだって!」
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   唯「え、いいのかな?」
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   梢「全然構わないよ。むしろ来なさいっ」
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   唯「えへへ、じゃあ……行こうかな」
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 美希「うん、行こー行こー!」
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   梢「よし、決まったわね。美希は帰り道と逆になるけど、いいよね?」
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   唯「え、いいのかな? 大丈夫なの? 美希ちゃん」
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 美希「うんうん、へーきへーき。食べた後は歩いた方がいいしね」
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   梢「……あたし、そこから家すっごく近いんだけど?」
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 美希「うーん……あははは」
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   梢「笑って誤魔化したわね……」
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   唯「ん、んーとっ……二人ともケンカしないでね?」
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   梢「だーいじょうぶよ。心配しなくても」
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 美希「ダイジョウブダイジョウブ。冗談でやってるだけだよーっ」
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   梢「うん、そーゆーことにしとこうね」
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 美希「うんうん、じゃあさっそく出発だね」
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   唯「うー、不安だなぁ……」






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 和真「あいつ、サボってそう」
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   守「ちゃんとやってるって。……あ、ねえ、あれ……麻田さんたちだよね」
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 和真「ん? ああ」
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 美希「あ、やっほー! 守くんに和真くん!」
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   梢「どもどもー。お二人とも元気?」
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   守「ぼちぼち元気だよ」
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 和真「ずいぶん楽しそうだけど、なんかあるの?」
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   梢「うん。これからケーキ食べに行くんだけど――」
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   守「へえ、ちょうど僕たちもおなかがすいてたんだ。ね、西沢くん」
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 和真「えっ、ねっ……ってゲーセン行くんだろ?」
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 美希「えぇーっ? 和真くんは行きたくないのー?」
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 和真「は? いや、そういうわけじゃないけど――」
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   梢「唯も一緒に行きたいって言ってるわよー」
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   唯「え!?」
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 和真「あ、笹山……」
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   唯「う、うん。こんにちは」
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 和真「こ、こんにちは」
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   梢「行きたいよねー? 唯」
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   唯「え、あ……うん」
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 美希「ほらほら、和真くんもいこー!」
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 和真「あ、ああ、行くよ……なんか悪者にされてないか?」
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   守「そう? 人気者なだけでしょ」
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 和真「んー……そうかぁ?」
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   梢「あー! 忘れてたっ。私たち、部活があったんじゃない?」
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   唯「え? 梢ちゃんって読書部だからやることないって……」
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   守「あ! そうだね! うっかり忘れてたね!」
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 和真「お前、部活入ってたっけ?」
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 美希「じゃあはやく行かないといけないねっ!」
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   梢「うんっ、じゃあ行ってくるね! 後で行くから先行ってて!」
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   守「ごめんねー! じゃあねー!」
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 和真「……」
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   唯「……」
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 美希「どうしたのー?」
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 和真「え……いや……なんでも……ないけど」
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   唯「う、うん……なんか変だなーって」
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 美希「気にしない気にしないっ。はりきって行こーっ!」






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 和真「で、どっち?」
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   唯「あれ? そういえば梢ちゃんしか知らないお店……だったよね?」
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 美希「ううん、美希も知ってるよっ」
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   唯「そうなの?」
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 美希「こっちだよぉ。ちゃーんとついてきてね」
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 和真「ああ……」
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 美希「んー? どしたのー?」
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 和真「あ……そういや、津久井も後から来るって言ってたな」
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 美希「祐次くんも場所知ってるから平気だよっ」
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 和真「え? あいつとはゲーセン行く話だったんだけど……?」
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 美希「え!? あっ……ええとそれは祐次くんのケータイ知ってるから!」
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 和真「そっか。あいつ携帯持ってたのか……ふうん……」
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 美希「じゃあ、ちょっとかけるねっ。ピッポッパッ……と」
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   唯「口に出して電話かけるって珍しいね。美希ちゃん」
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 美希「あはは、そかなー? あ、もしもし祐次くん、これから迎えに行くね。切るねー」
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 和真「滅茶苦茶、簡潔な電話だな……」
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 美希「じゃあ、迎えに行ってくるから、先に行っててね!」
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   唯「うん……え? 場所知らないよ?」
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 美希「この道をまっすぐ行った突き当りだから分かるよー。じゃあねー!」
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 和真「おいおい、それだけじゃ分かんないって……行っちゃったよ……」
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   唯「うん……」
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 和真「……あー……行こうか。まっすぐって行ってたよね」
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   唯「は、はい……そうですね」






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 祐次「変装して待ち伏せってのは分かるけどよ――」
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   梢「なあに? 津久井君?」
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 祐次「なんで守は半袖半ズボンにランドセルなんだ?」
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   守「……麻田さんの発案だよ」
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 祐次「俺たち3人はサングラスしてるだけなのに?」
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   梢「こうすれば顔は分からないでしょ?」
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 美希「分からないけど、なんか可愛いねー」
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   梢「ほら、全員サングラスってのも怪しいじゃない?」
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   守「絶対こっちの方が怪しいよ……」
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 祐次「つーかよ、断ればよかったじゃん」
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   守「……」
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   梢「あたしが頼み込んだら、やってくれたのよ」
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 祐次「ほー?」
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   守「制服隠されたんだよ……」
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   梢「いやだなぁ、無くしちゃっただけだって言ってるのに」
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 美希「あっ、ねえねえ二人来たよっ」
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 祐次「一緒に来た割には二人とも随分離れてるな」
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   守「気まずそうにしてるね」
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   梢「どうなるか楽しみね」






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 和真「あ、はい。二人で……いいよね?」
135
   唯「は、はい」
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 和真「ふう――」
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   唯「あれ……後から梢ちゃんたち来るはずじゃ」
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 和真「あ……ま、まあ6人席埋まってるみたいだし、いいんじゃないか?」
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   唯「そうですね」
140
 和真「……」
141
   唯「……」
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 和真「なんか……頼む?」」
143
   唯「じゃあ、紅茶でいいです」
144
 和真「ん? ケーキを食べにきたんじゃないの?」
145
   唯「そういえばそうでした。じゃあ、ショートケーキで」
146
 和真「んじゃ、俺もそれでいいや」






147
   梢「んー、硬いわねぇ」
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 美希「和真くん、押しが弱いね」
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   守「お互い嫌われてると思い込んでるしね」
150
 祐次「やっぱ、あいつら面白いよな。見てて飽きないというか」
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   守「だからさ、二人をからかって変に意識させたのは、主に津久井くんなんだから……」
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 祐次「まあ、だからこうやって協力してるんじゃんか」
153
   守「全然反省してないねえ」






154
 和真「あいつら遅いなあ」
155
   唯「あ、あの……ごめんなさい!」
156
 和真「な、何? 突然」
157
   唯「私のせいで変にからかわれたりして、恥かしい思いをさせてしまいました」
158
 和真「ああ、別にいいよ。気にしてないし」
159
   唯「でも」
160
 和真「それに、あの時遅刻したのは俺もだし」
161
   唯「でもでも、私と一緒じゃなければ」
162
 和真「それは全然気にしてないから大丈夫だって」
163
   唯「……」
164
 和真「だから、落ち込まないでいいよ」
165
   唯「じゃあ――じゃあ、何を気にしているんですか?」
166
 和真「あ……」
167
   唯「私、怖かったんです。嫌われてるんじゃないかって。」
168
 和真「なんで?」
169
   唯「私、冷やかされたりした時、恥かしくってつい一緒にいるのに逃げちゃったりしました」
170
 和真「うん。逃げられた」
171
   唯「ごめんなさい」
172
 和真「いや、いいって。俺もさ、なんか話しかけるの悪いかと思って、笹山から逃げてたと思う」
173
   唯「私も、悪いなって気持ちが強くて、西沢君と会うと……何喋ったらいいのかって」
174
 和真「んで、俺が気にしてたのは……簡単に言うと笹山に嫌がられてるんじゃないかってこと」
175
   唯「そんなこと無いです! 毎日謝ろうって思ってました」
176
 和真「そっか。安心したよ。」
177
   唯「お願いがあるんです」
178
 和真「ん?」
179
   唯「仲直り、してくれませんか」
180
 和真「仲直り?」
181
   唯「だって、高校生になってからの初めての友達ですから」
182
 和真「友達、か」
183
   唯「だめ……ですか?」
184
 和真「いや、ごめんな」
185
   唯「謝らないで下さい。悪いのは私だって分かってます」
186
 和真「あ、そうじゃなくて。俺、友達だと思ってなかったから謝ってるの」
187
   唯「はい……」
188
 和真「だから、仲直りっていうか……友達になってくれないか」
189
   唯「はい! もちろんです」
190
 和真「ありがとう」
191
   唯「こちらこそ、ありがとうございます」
192
 美希「良かったねー! 唯ちゃん!」
193
   梢「おめでとう。唯、西沢くん」
194
 祐次「良かったなぁ、仲直りできて」
195
   守「良かったねえ」
196
   唯「え!? えっえっ?」
197
 和真「あー! おまえら!」
198
   梢「あっはっは、サングラスかけただけで気づかないなんてねー」
199
 和真「どこに座ってたんだよ?」
200
   守「ちょうど西沢くんの後ろ側だね」
201
 和真「笹山……」
202
   唯「な、なに?」
203
 和真「気づかなかったの?」
204
   唯「えと……途中から。『今がチャンス!』って紙を持ってる人がいて。でも誰かは分からなくて……」
205
   梢「そそ、それあたし。でも、最後まで気づかないとはねー」
206
 和真「どうりで突然過ぎると思ったら」
207
   守「でも、笹山さんは頑張ったよね」
208
 祐次「そうそう、切り出すのって勇気いるもんな」
209
 美希「じゃあ、仲直りのお祝いしなきゃね」
210
   梢「そうね。取りあえずこっちのテーブル移らない? 二人分空いてるから」
211
 美希「梢ちゃんのおごりだからパーっといこー!」
212
   梢「だからおごらないって言ってるでしょっ」
213
 和真「まあ、これからよろしく」
214
   唯「はい、よろしく」

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