これから論文を書く若者のために
究極の大改訂版

酒井 聡樹著 共立出版

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若手研究者のお経


本書は、学術論文では何を書くべきなのかを解説した本で す。この点で、論文で用いる文章表現・英語表現を解説した本とは 異なりま す。もちろん、文章表現・英語表現の技術を身につけることは、論文を書くために必要です。しかしそれだけでは不十分です。イントロダクション・結 果・考察 などの各章で何を書くべきなのかを知らずに、良い論文を書くことはできません。
 たとえば、イントロダクションでは何を書くべきなのでしょうか。よく、こんな論理のイントロダクションを目にします。

  Aを明らかにすることを目的とする。
  なぜならば、Aが明らかになっていないからだ。

これは、こんな風に人に頼むのと同じです。

  ここに穴を掘って下さい。
  なぜなら、ここに穴が無いからです。

こう言われて穴を掘る人はいません。穴を掘ってもらうためには、どうしてそこに穴を掘るのかを説得する必要があります:

  なぜなら、徳川幕府の埋蔵金が埋まっているからです。

世の中には、穴の無い場所が無数にあります。そして、ある場所(埋蔵金が埋まっている場所など)は穴を掘る価値があり、他の場所は穴を掘る 価値があ りません。同様に世の中には、「わかっていないこと」が無数にあります。その中で研究する価値があるものは、やはり特定のものだけです。


世の中に、わかっていないことは無数にある。研究する価値があるのは、そのうちの一部だけである。

たとえば、「あん」「いろは」「うーにゃ」など名前がア行で始まる犬と、「さくら」「じゅり」「そら」などのサ行で始まる犬の平均体重を比 較することにどういう意味があるのでしょう。論文を書くとは、この論文を読んで下さいと読者に頼むことです。読者に読む気を起こさせるために は、イントロダクションで、どうして A を明らかにする必要があるのか(Aを明らかにすることにどういう価値があるのか)を 説得することです。「わかっていな いか ら」というだけで は、読者は納得してくれません。本書では、どうすれば読者を説得できるのかを解説します。
 本書のもう一つの特徴は、学術雑誌に論文を投稿してから、学術雑誌への掲載が決定するまでの各段階でするべきことも解説して いることで す。原稿を書き上げればお終いのはずがありません。学術雑誌に論文が掲載されるまでには長い道のりがあるのです。
 本書の説明は、「論文書きの歌」に沿って進みます。これは、「アルプス一万 尺」の替え歌で、歌詞が 20 番まであります。また、ベガルタ仙台に関 する架空の論 文を題材に、楽しく、かつ、どんな研究分野の 方にも理解できる説明を心がけています。本書が少しで も、「これから 論文を書く若者の ために」役立てば幸いです。


本書は 4 部構成です。

第 1 部では、なぜ、論文を書く必要があるのかということと、論文に関するいくつかの基礎知識を説明します。

第 2 部は、論文書きの実践編であり、本書の核となる部分です。前半部分は、論文のそれぞれの章で何を書くべきか、そしてそれをうまく書くためのコツの解説で す。後半部分は、原稿を書き終えてから学術雑誌に掲載されるまでの道のりの解説となっています。なお第 2 部は、「論文書きの歌」に沿って進むことになります。

第3部では、いかにして論文を書き上げるか --- 執筆に向かう姿勢 --- について助言をします。初めに、効率の良い執筆作業の進め方を説明し、次に、なかなか論文を書けない若者を叱咤激励します。

第4部では、わかりやすい論文を書くことの大切さを訴え、ついで、面白い論文の条件を紹介します。


本書が対象とする読者は、「これから論文を書く 若者」です。具体的には、次のような人たちを想定しています。

・研究の世界に入ったばかりの大学院生・学部生。実を言うと本書は、「これから研究を始める若者のために」でもあります。第1部の全部分と、 第2 部の1, 3-7, 11, 12番、第4部の全部分は研究生活に入った段階で読んで欲しい部分です。他の部分は、研究成果を挙げた後には、どういう作業が待っているのかを知る上で参 考になるます。本書を片手に、自分が論文を書く日を夢見ながら、これからの研究生活に打ち込んで欲しいです。

・初めての論文をこれから書こうとしている大学院生・学部生。本書の内容が、論文を書く上で役立つことを切に願っています。

・論文を書いたことがあるけれども、「大変だった」という実感ばかりが残り、書き方のコツがつかめていない大学院生・若手教員・若手研究員。 論文 書きを実体験した後に本書を読む方は、納得度がずいぶん違うと思います。

・学生の論文書きを指導する立場になったばかりの若手教員。教える側の理論武装の一つとして本書を役立てて欲しいです。

・卒業論文・修士論文・博士論文を書こうとしている学生。本書の内容のかなりの部分は、これらの論文の執筆にも役立つはずのものです。

論文書きの歌 2015  作詞 酒井 聡樹

「アルプス一万尺」のメロディーで歌いましょう

1 結果をまとめて結論出したら 取り組む問題決め直そう ホー!
※ ラーラララララララ ラーララララララン ラーラララララララ ラララララン
2 構想練ったら雑誌を決めよう 必ずあそこに載っけるぞ ホー!
             (※ 繰り返し)
3 タイトル短く中身を要約 書き手のねらいをわからせよう ホー!
             (※ 繰り返し)
4 イントロ大切なーにをやるのか どうしてやるのか明確に ホー!
             (※ 繰り返し)
5 マテメソきちっと情報もらさず 読み手が再現できなくちゃ ホー!
             (※ 繰り返し)
6 いよいよリザルト中身をしぼって 解釈まじえず淡々と ホー!
             (※ 繰り返し)
7 山場は考察あたまを冷やして どこまで言えるか見極めよう ホー!
             (※ 繰り返し)
8 付録を作って本文補完だ 補助的情報まとめよう ホー!
             (※ 繰り返し)
9 関連研究きちっと調べて 引用するときゃ正確に ホー!
             (※ 繰り返し)
10 本文できたらアブスト書こうよ 主要なフレーズコピーして ホー!
             (※ 繰り返し)
11 複雑怪奇な図表はいけない 情報減らしてすっきりと ホー!
             (※ 繰り返し)
12 文献集めと文献管理は 日頃の努力が大切だ ホー!
             (※ 繰り返し)
13 完成したなら誰かに見せよう 他人のコメント必要だ ホー!
             (※ 繰り返し)
14 お世話になったらお礼を言わなきゃ 一人も残さず謝辞しよう ホー!
             (※ 繰り返し)
15 最後の仕上げは英文校閲 英語を磨いて損はない ホー!
             (※ 繰り返し)
16 いよいよ投稿ファイルを確認 ネットにつなげて慎重に ホー!
             (※ 繰り返し)
17 いつまで経っても返事が来なけりゃ 控えめメールで問い合わせ ホー!
             (※ 繰り返し)
18 レフリーコメントなるべく従え できないところは反論だ ホー!
             (※ 繰り返し)
19 リジェクトされても挫けちゃいけない 修正加えて再投稿 ホー!
             (※ 繰り返し)
20 このうた歌えば必ず通るよ 自分を信じてがんばろう ホー!
             (※ 繰り返し)
アンコール 論文出たなら宣伝しなくちゃ 別刷り抱えて出かけよう ホー!
             (※ 繰り返し)

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