9 勉強法の続きと1級のための参考文献3

 前回「四字熟語」「旧字体」「熟字訓」「国字」の最初のうちの学習法を紹介した。皆さんの学習のし方と比較していかがだろうか。とにかくやればやるだけ点が取れるジャンルだから、ひたすら早い段階で取り組まなければならない。もう一度繰り返すが、漢字検定1級の学習をする際は、まず前回紹介した2冊の問題集に手を付けるのが最善手と思う。

 普通、漢字検定1級の学習、というと、一番よく紹介される問題集は「1級 漢字検定試験 問題と解説」(新星出版社)であるが、前回は敢えて紹介しないでおいた。一般に「これを1冊やりこめば合格する」という紹介のしかたが多いようだが、この問題集から手をつけるのは、実は非常に危険なことである。特にわたしのように「面倒くさがり」「いかに手を抜いて合格するかに掛ける」という心情の持ち方をしている人間が、いきなりこの問題集で勉強しようとすると、途端にうんざりして嫌になってしまう。「嫌にならない勉強法」を追究するなら、前回の2冊の問題集から手をつけるべきである、と思う。

 「1級 漢字検定試験 問題と解説」(新星出版社)の特徴を述べよう。この本は出題分野ごとにドリル形式となっている。例えば「常用漢字体と旧字体」というジャンルでは、問題が15ページにわたって記してある。旧字体の学習を一通りし終わってからこの部分をやりこめば、旧字体に関しては完璧。同じことが「国字」にも言える。「書き取り」というコーナーに国字の問題が相当数あるから、それをやりこめば完璧になっていく。それぞれのジャンルについて当該部分がチェックシートの役割を担うことになる。だから前回「チェックシートを作る必要が無い」と書いたのである。

 このように、それぞれのジャンルについて、そのジャンルの問題がきっちりできるようになれば、それで学習完成、というコンセプトでこの問題集は形成されているのだが、いくつか嫌な点がある。それがうんざりさせる大きな要因となっている。まず「出題されそうも無いジャンルが多い」ということ。これが「うんざりして嫌になる」大きな原因だ。例えば「対義語・類義語」のコーナーがある。わたしは、どうしてもこのコーナーの学習をする気が起きなかったので、全く手をつけていない。だって絶対出ないんだもの。

 また、効率の良い学習だけを考える際には、いささか無駄な労力を強いている問題形式が存在している。書き取りの問題。「次の文中の(  )に適する語句を左記の(ひらがなの選択肢)の中から選び、漢字に直して記せ。」という形式があるが、選択肢から選ぶ部分がいらない。ただでさえ難しい熟語が出題されているのに、単なる書き取りに加えて「選ぶ」という作業が、勉強をうっとうしいものにしている。

 さらに、漢字検定には出そうも無い難しい語も結構たくさん含まれている。先に述べたように、現在の漢字検定は書き取り問題の難易度が低めに設定されている。例えば「昔は(カイライ)などの病気があった」カイライは「漢検 漢字辞典」に掲載されていない。また読み取りの問題。「煕」の訓読みの問題には「ひかる」「ひろい」「よろこぶ」「たのしむ」の読みが出題されているのだが、「漢検 漢字辞典」には「ひかる」「やわらぐ」の読みが掲載されている。このギャップを意識しないで学習しまくっても、無益な労力がいたずらに増えるだけである。さらに、日本の地名の熟字訓問題は全く必要無い。

 と、さんざん扱き下ろしてしまったが、1級合格に耐え得る漢字力を付けたいと思うと、どうしてもこの問題集以上の精緻さを持つ書は見つけがたい。だから、何とか工夫をしてこの問題集を使っていくしかない。どう工夫するか。

 まず、やらなくてもいい「出題されそうも無いジャンル」の問題を「やらない」と決めてしまうこと。わたしなりに選べば、まず「読み方」問題のうち「日本の地名の熟字訓」「旧字体の読み」は要らない。「対義語・類義語」のコーナーも要らない。「常用漢字体と旧字体」の中の「旧字体→常用漢字体」のパターンの問題はやる必要が無い。「書き取り」では「誤字を指摘せよ」パターンの問題は要らない。もちろん、やりたい方はやってもいいと思うが、やらなくても合格には支障無いと思う。

 次に、「いささか無駄な労力を強いている問題形式」を、「無駄な労力の無い形式」に作りなおす作業をしてみる。「次の文中の(  )に適する語句を左記の(ひらがなの選択肢)の中から選び、漢字に直して記せ」問題について、文中の(  )に答えとなる語の読みを入れてしまえばいい。

 で、問題を解き始める。この問題集は全体的に難易度が高いため、初めても分からない問題ばかりで、すぐ嫌になってしまう可能性が高い。だから、「問題を解く」「覚えていく」という意識よりも「問題集を一通りさらってみる」というくらいの気持ちでいかないと、大変辛いと思う。気持ちをラクにするために「出そうも無い語」をどんどんチェックし、「覚える対象」から外していけばいい。使うのは「漢検 漢字辞典」。問題を見て、分からなかった語をとにかく辞典で引いてみる。辞書にその語が用例として掲載されていなければ、問題にバツを付ける。四字熟語の問題の場合は「漢検 四字熟語辞典」で引いてみて、なければバツを付ける。こうすることで、かなりの数の問題が「覚える必要ナシ」になるばずだ。

 このようにして、「1級 漢字検定試験 問題と解説」(新星出版社)を一通りやってみれば、漢字検定1級の学習の準備が出来たことになる。次回、各ジャンルの学習法を、この問題集の問題を使って説明してみたい。準1級のときとちょっと違う部分があるので。

 

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