7 1級のための参考文献1

 漢字検定が文部科学省認定にならなくなる、というニュースについていろいろ考えているうち、更新が滞ってしまった。このことについては様々考えるところがあるが、基本的にはいいことだと思う。というか、文部科学省で漢字検定を主催すれば絶対に儲かると思うんだけど。そういう経営感覚は無いのかしら。

 さて今、試験前1か月余りとなった段階であり、また当方は現在別の資格試験の勉強中であるため、10月受験の方々向けのペースでは更新できない。このことを始めにお断りしておく。当面は1月受験に間に合うような形での更新ペースとするつもりである。もっとも、このページを参考にしている人がどれだけいるのか、実に疑問であるが。

 で、1級向け文章の最初ということで、今回は「参考文献(問題集を含む)」について考えてみたい。準1級の際にも述べたとおり、漢字検定の問題集は準1級以上になると途端に少なくなる。それでも漢字検定熱の高まり(というか、余熱程度のものだけど)のためか、準1級の問題集は少しずつ増えてきた。それに対し1級の方は全然増えることが無い。なので、全部そろえるのがひとまず基本かと思われる。以下、それぞれの文献についてご紹介していきたい。

 まずは「漢字必携」(漢字能力検定協会)。漢字検定を受検する人にとって、もっとも基本的な存在と思われている本であり、これから1級を受検する人は、是非手に入れておきたいものである。とは言え、わたし自身はこの本を全く使わなかったし、持ってもいなかった。

 そもそも昨年までは「合格捷径」(漢字能力検定協会)という本があった。これは「漢字必携」の内容を膨らましたもので、「漢字必携」の方が出題範囲漢字の読みを示すにとどまっているのに対し、「合格捷径」の方はそれぞれの読みを反映した熟語や訓読みなどの用例を羅列してある。すなわち、内容の面で言えば「漢字必携」⊂「合格捷径」と言える。であれば、「漢字必携」を持っている理由など全く無い。出題漢字表を単に羅列してあるに過ぎない「漢字必携」が、この「合格捷径」に比べて学習に使いづらい本であることは間違い無い。この現状は今も変わらない。

 ところが、現在「合格捷径」が実に手に入りにくくなっている。漢字検定協会発行の参考書はたくさんあるが、そのリストからはずされてしまったからだ(漢検ホームページではまだ存在することになっている)。だから、書店で見かけることがめっきり少なくなってしまった。ごく稀に売っている場合があるから、そのときは万障繰り合わせて購入されたい。そうすれば「漢字必携」は全く必要無くなる。

 でも今後どんどん手に入りにくくなるわけだから、とりあえずバージョンアップしたばかりの「漢字必携」を購入するしかない。出題範囲を羅列した本は、他に無いからだ。とはいえやはり使いづらい本であることは変わらない。まず第一に書きこみがしづらい。わたしのように「ノートにまとめなおす」という学習法をしたくない人間にとっては、本そのものに書きこみスペースが多くあったほうが学習しやすい。それがほとんどできないというのが苦痛である。と同時に、その字を使用した無尽蔵の熟語のうち、どの語が出題される可能性があるか、どの読みに気をつけるべきか、などが、「漢字必携」では全く見えない。「合格捷径」の持っていた「熟語等の出題可能性を示す」という役割が、「漢字必携」には存在しないからだ。

 既に述べているように、漢字の学習の近道はとにかく「熟語を覚える」ことである。そういう意味で、効率良く用例を覚えていく学習をするためには、出題される可能性のある熟語・訓読みを優先的に頭に入れていくことが最も肝要になる。そのためには全く以って「漢字必携」は役立たないのだが、これしか売ってない現状を考えれば、まあ買っておくしかない。不本意ではあるが。

 というわけで、大枚弐千七百円余をはたいて購入してきた。じっくり見ると、かつての「新 漢字必携(昨年までのバージョン)」に比べれば見やすくなっているが、やはりこれを使って学習していく、という気持ちは起きない。起きないんだけれど、使っていくよりしょうがない。何かいい使い道は無いか、と考えては見るのだが、思いつかない。以後、何かいい使用法が見つかれば示していきたい。読者の方でいい使用法を発見された方は、是非ご一報いただきたい。

 で、そうなると熟語などに関する「出題可能性」を示してくれる書を併用していく学習法をとるしかない。ここで登場するのが「漢検 漢字辞典」(漢字能力検定協会)である。実はこの本が使えるかどうか、今まで述べずに進んできた。結局のわたしの結論は「非常に使える」というものである。いや、「使える」どころか、是非とも使いまくりたい本である。

 まず、何と言っても熟語の説明が詳しい。実際に出題された(若しくはされそうな)熟語に関しては、ほぼ完璧に収録されている。逆にいうと、この辞書に載っている熟語を優先的に覚えていけば良い、ということになりそうである。地名の熟字訓以外に関してはばっちりであろう。先に述べたように、1級くらいになると「どれを優先的に覚えるか」という戦略も大事になる。また、広辞苑などに比べ、熟語の解説が詳しいのも良い。今まではかなり大きな辞典を使わなければ調べのつかなかったような、1級特有の熟語について、簡単に意味を調べられる(しかも比較的引きやすい)点は、特筆ものである。

 次に揚げられる良いところは、漢字検定の出題範囲の訓読みをすべて記していないことである。実は「漢字必携」「合格捷径」による従来の学習には、「効率」という点でひとつ欠点があった。「漢字必携」「合格捷径」を見ると、とてもではないが「出題されそうも無い読み」が、多く記されてある。例えば「陬」という漢字に「かたいなか」という読みが記されている。こんなの出るか?といつも思っていた。こんな感じで「本当にこんなに広範な読みが出題されるのかい?」というわたしの疑問はずっと強かった。「漢字必携」には「(訓読みには)字義も含む」という説明があり、ということは、漢字検定協会が「読み」として出題しないことにしている「読み」も、其処には記されているということである。だからその「出題しない読み」を覚えないようにしていくことが、効率の良い学習には必要になる。

 いや、「字義」なんだから、覚えることに意味があるはずだ、という立場も存在しうる。それは確かにそうかもしれないが、先の「陬」という語でいえば、「かたいなか」という読みにはなるけれど「いなか」という読みにはならない、「緝」には「ひかりかがやく」という読みがあるが「かがやく」「ひかる」という読みはない。こういうのを気を付けながら意識して覚えることは、かなり面倒くさいことである。この手間が省ければ、漢字検定の学習は飛躍的に楽になるはずだ。

 もっとも、学習の過程で「過去問徹底主義」に徹したわたしは、過去問で見たこと無い読みは覚えないようにしたから、別に問題は無かった。しかし一般の受験者は、範囲として書いてある読みをすべて覚えようとするだろう。この辺の学習量を減らしてくれるのが「漢検 漢字辞典」である。この辞書に「陬」の「かたいなか」という読みは紹介されていない(意味には紹介してある)。ということは、この読みは漢字検定試験には出題されないのではないか、という仮定がなりたつ。出ても文句は言えないが、協会が「漢字辞典」に掲載していない読みを出題することなど、果たしてあるのだろうか? そう思って自分の受検した1級の問題を調べてみると、すべて「漢字辞典」に掲載している読みのみからの出題となっていた。

 今述べたことはまだ仮定でしかない。今後平成8年くらいからの問題を見返して調べてみるつもりだが、「訓読み」問題に就いて、概ねこの仮定はあたっているのではないかと思っている。

 「漢検 漢字辞典」のちょっと嫌なところは、「或る漢字が、なぜそういう意味の(読みの)広がりを持つのか」という疑問に答えていないこと。これに関しては一般の漢和辞典も同じである。例えば「簡」という字には「えらぶ」という読みがある(わたしの受検した試験で出題されている)。何故そういう意味があるのかは、全く書いていない。意味のところに「Bえらぶ。よりわける。『簡択』『簡抜』『簡練』」とあるから、準1級の時の学習法を使うと、「簡択」という熟語を先ず覚えることになるのだが、記憶を補強するためには「何故『えらぶ』という意味になっていくのか、という疑問について考えたほうが良かったりする。こういう疑問に答えない辞書が多いのが現状なので、「漢検 漢和辞典」ばかりを責めるわけにはいかないが、今後そういう辞書がどんどん増えればいいなあ、と思う今日この頃である。今それができるのは「字通」「字統」(白川静著)くらいなものだろうか。

 長くなりそうなので、今回はここまで。次回は「問題集とその使い方指南」としたい。

 

 

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