2 準一級をめざそう2

 ではさっそく、準一級合格のための勉強法について提案したい。世間には「準一級はいらない。いきなり一級合格したい」という方も多いようだ。そんな人も、まずは準一級を目指して勉強された方がよいと思う。準一級を高得点で合格できる力こそ、一級合格の必要条件だからである。漢字検定で上を目指そうとする場合、準一級がひとつのヤマとなると思ってほしい。

わたしが受験した1999年度第3回の合格率は、約3%だった。しかし最近は問題が繰り返し出題されるようになってきているので、最近は合格率は10%台で落ち着いている。とは言え、準一級は実は一級より合格率が低い。これは合格する確信もないまま何となく受験する人が多いことを物語っている。しかし、ちゃんと勉強すれば確実に合格できる。おそらく1か月もあれば合格ラインに持っていくことは可能だ。が、ここではあえて2〜3か月の学習サイクルを考えることで、「漢字検定特有の学習法」「漢字の効率のいい学習法」を身につけてしまいたい。と同時に、準1級の漢字なら何が出ても怖くない、というところに自分の漢字力(というか漢字検定対応力)を持っていってしまいたい。

 さて、効率の良い学習をするためには、どんな試験であろうと「過去問の分析」→「学習法の確定」という手続きが重要である。まず過去問を見て問題形式をつかむ。で、小問ごとにどのような学習が必要か、考えていく。人によって必要な勉強は違っているから、過去問を何問か解いて、自分が弱い小問・強い小問を把握することが必要だ。よく「過去問は直前に力試しするからやらないでおく」という人がいるが、それは違う。過去問は試験問題に対する、自らの対応力を知るために使うものである。

 で、過去問をやってみて得点が全然取れないことに愕然とするかも知れない。何点であっても、これから合格点まで持っていくための作戦を練りまくるからいいのだ。

 さて準1級の小問は、平成16年度だと次のようになっている。

  1. 漢字の読み(音読み15、訓読み15)…30点(1問1点)
  2. 常用漢字の表外読み…10点(1問1点)
  3. 熟語の読みと熟語中の1文字の訓読み…10点(1問1点)
  4. 常用漢字表以外の漢字を常用漢字に書きかえる…10点(1問2点)
  5. 誤字訂正…10点(1問2点)
  6. 四字熟語の書き取りと意味…30点(書き取り2点×10、意味2点×5)
  7. 漢字の書き…30点(1問2点)
  8. 対義語と類義語…20点(5つずつ。1問2点)
  9. 故事やことわざの中の漢字の書き取り…20点(1問2点)
  10. 文章中の漢字の書き取りと読み…30点(書き取り2点、読み1点、ともに10問ずつ)

 これらの攻略法として、次の方針を立てる。

  1. なるべく「同じ意味の漢字を重ねた熟語」「反対の意味の字を重ねた熟語」を用いて、新出漢字の意味や訓読みを覚えていく。
    →意味と読みを最小限の労力でマスターするには、熟語の形が一番である。
  2. 特に訓読みに関しては、「知らなかった言葉そのものを覚えていく」という姿勢で臨む。
  3. 四字熟語や故事は、意味を考えながら手当たり次第覚えていく。
  4. その上で、書き取りの練習をしまくる。

 Aについて。例えば、「改革」という熟語がある。これは「同じ意味の漢字を重ねた熟語」に相当する。ということは、「改」も「革」も同じ意味の字だと言うことになる。このことを意識しておけば、「革まる」という常用漢字表外の読みも「あらたまる」であると分かってしまう。放っておくと「革」という字は、「皮革」という意味ばかりが意識されるだろう。熟語を知れば

私の立場は、「徹底して熟語を覚えることで、漢字をものにせよ」というものである。いかに熟語が思い浮かぶか、ここにこそ漢字運用能力があると言える。漢字力のある人は、とにかく熟語が頭に入っている。だから、このページでは「効率よく漢字力を上げるための熟語」を紹介していくつもりである。

 

 

 Bについては徹底して問題を渉猟するに限る。似たような熟語が繰り返し出題されるからだ。ジャンル別問題集があればいいのだが、他の級と比べ、準1級にはそういう問題集が少ない。ここで勧めたいのは

である。これの該当部分をまずやってみるのだが、そのやり方が大事だ。まず、問題集に直接書きこむ形で解いていって、

  1. 全く書けなかったもの。
  2. 音(読み方)は浮かんだが、書けなかったもの。
  3. 書けたが、いまいち意味のわからないもの。
  4. 意味も分かるし、漢字も書けたもの。

 と分類する。1〜2にあたる問題の答えに関しては、ぜひ辞書で意味を調べ、ノートにでも控えておこう。ノートに控えるのは、後で何回も見るため、ではなく、少しだけ頭に印象付けるためである。ノートに控えても、どうせもう見やしないんだから。

大事なことは「意味と関連させて覚える」ことである。Bの分野の7「対義語と類義語」、8「故事やことわざの中の漢字の書き取り」、9「四字熟語の書き取りと意味」には、すべて「意味に繋げて覚えやすい」という共通点がある。同時に、「故事成語」「四字熟語」であれば、背景となるエピソードや絵柄も覚えてしまう。もしくは関連する熟語なども覚える。そうすることで漢字を思い出しやすくなる。

 いくつか例をあげよう。

 故事の問題で「中原に鹿をう」の「オ」をどう書くか。辞書を引くなりすれば「逐鹿(ちくろく)」という熟語が出ている。ひとつこの熟語を覚えるだけで、「逐」に「オう」という読みがあることを覚え、しかも故事をひとつ覚えたことになる。

 同じく故事の問題。「ブンボウも牛羊を走らす」という故事は、意味を調べた後に「牛羊」が虫にたかられている姿をイメージする。「ブン」と読む虫は「蚊」(旁を見れば明らか)だし、「ボウ」は「虻」となる。絵をイメージすることが、漢字の勉強にも重要であることが分かるだろう。「朝蝿暮虻」のように、「つまらぬ人物」を虫に譬えるパターンの故事成語・四字熟語は多いから、イメージをどんどんつなげていってほしい。

 四字熟語「漆身呑炭」などは、形だけでは覚えにくいが、絵を思い浮かべながら、意味と故事を覚えていく。四字熟語辞典を使って「絵を思い浮かべる」「出典となった話のストーリーに結びつける」という作業をぜひ行って欲しい。なお、四字熟語は単語カードを使った方が覚えやすい、と思う人はここを見て欲しい。

 これらに対し、先の分類の「3 書けたが、いまいち意味の分からないもの」については、書けるからと言って意味を辞書で調べない人が多いようだが、漢字の学習は「意味を覚えること」が一番大切だ。そうすることがこの後の学習に非常に意味を持つ。書ければいい、というのはごく一部の漢字だけである。

 例えば「自然トウタ」という四字熟語。かなりの人が何も見なくても書けるだろう。ところが「淘」「汰」という字のそもそもの意味はなんなのか、これを明確に答えられる人はなかなかいないだろう。そこで辞書を見る。そうすれば、ともに「よなげる」という読みがあると知る。「よなげる」とはどういう意味か、調べる。そうすることで、どんどん連想が広がっていく。「広げよう」という意識が大切。

 せっかく書けるんだから、語彙を広げるのに利用しない手はない。漢字の学習は「熟語」をたくさん覚えてしまうことがカギとなる。漢字の基本知識として熟語をたくさん知っていれば、その字の意味がわかり、ひいては訓読みも覚えやすくなる。で、語彙もぐんぐん広がっていく。面倒がらず、辞書をうまく使おう。

 ちょっと余談になるが、辞書について考えておく。辞書といっても、様々あるから何を選べばいいか悩ましいかもしれない。逆に「今まで使ってきた辞書でいいや」と悩まない人もいると思う。が、今後1級まで目指すあなたなら、辞書ならなんでもいい、と言うわけにはいかない。準1級だけの受験を考えれば「漢字源」(学研)あたりでいいのだが、1級を目指す場合、この辞書ではまずムリだ。他にも学習用の小型漢和辞典は山ほどあり、最近また増えつつあるのだが、どれを選んでも漢字の面白さを味わうことはできないし、だいいち1級の宏遠な範囲を覆えていない。ということで、わたしは「漢字源」を使いつつ、平凡社の「字通」(白川静著)に多くを負った。これは藤堂明保学説より白川静学説を好むわたしの心情的な要因もあるのだが、それ以上に熟語の用例が豊富である(且つ出典が明示されている)ことが学習に非常に有為であることが大きい。

 と思っていたら、先ごろ漢字検定協会が漢字辞典を発行した。この辞書の良いところ(本当は全然辞書としては良くないのだが)は、収録されている熟語が、漢字検定に出そうなものにしぼられていると言うことである。だから、これに収載されているものを優先して覚えていけば合格にどんどん近づいていく。熟語の意味の解説も比較的親切である。これを使えば漢字検定の勉強に国語辞典が要らなくなる。一方、この辞書の悪いところは(これが問題なのだが)、漢字の意味の広がりが何故起こるのかの解説、もしくは漢字の字源にさかのぼった意味分析がなされていないことである。だから、無味乾燥ではっきりいって面白みがない。

 さて、ひととおり問題集の該当部分をやったら、後は間違った問題をちょくちょくチェックしていく。この後問題集をたくさんこなしていくことになるが、やればやるほど「同じ問題の繰り返し」であることが見えてくるだろう。今できない問題が多くても、5月下旬からの追いこみ期間であと3冊は問題集をやっていく中で、ほとんどが頭に入っていく。

 繰り返し言うが、「意味を一緒に覚える」。これこそが漢字検定を乗りきる唯一の秘訣である。意味が覚えにくい時は、後に述べる様に「語源にうまく絡めて覚える」というワザも出てくる。そういう訓練を繰り返すと、例えば問題集では見たことが無い熟語でも、想像で当たったりする。単に問題集をくりかえすだけでは、勉強も面白くないし、だいいち頭に入っていかない。

 

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