8 1級のための参考文献2と勉強法のさわり

 前回は非常に尻切れとんぼで終わったが、漢字検定協会から出版されている基本的図書に関してわたしの思うところを述べることができた。

 そもそも漢字検定1級の出題範囲は、準1級の範囲に比して異常に広い。だから、すべての漢字を辞書で調べたり、ノートにまとめていくような学習法はあまり効率的とは言えない。細かく勉強しようと心がけていたら、時間がいくら在っても足りない。このホームページの目的は「なるべくラクに漢字検定を合格すること」である。そのためには問題集をうまく利用することが大切となる。

 そういう観点で、現在発行されている漢字検定1級の問題集を列挙し、それぞれ解説を加えてみたい。

 大学受験のときもそうだが、難易度が低く、比較的薄めの問題集から始めるのがコツだと思う。その意味では「本試験型 漢字検定1級試験問題集」(成美堂出版)を最初にするのがベストかと思う。この問題集の良いところは、読み問題が比較的易しいことである。だから実にとっつきやすい。また、故事・ことわざ問題もなかなか本番の出題傾向に沿っている。しかも安価である。巻末の資料もなかなか使いやすい。いいことづくめのように見えるが、難点を言えば熟語の書き問題が充実していないこと。どうも平成4〜6年くらいの問題を元にして問題集を作っているせいか、書き問題が実におろそかになっている。だから、この問題集自体は、勉強の取りかかりにのみ使うこととしたほうがよい。現在の傾向に、一番合っていない問題集ということができる。

 とにかく、漢字検定の問題集は、1回出版されると2度と改訂されない。一応「2002年度版」とかカバーに書いてはいるけれど、内容は全く変わらない。だから、問題の傾向が少しずつ変化する現状に、対応できていない問題集がほとんどである。前項で述べた「合格捷径」という本を見ると、平成4年度の漢字検定問題が掲載されているが、今の問題とは全然違うし(今より全然易しい)、必要な勉強法も全然違う。なのにずーっと同じ問題集が当たり前のように販売されている現状。本当に漢字検定1級合格をサポートしてくれる存在は、世に少ない。これだけ漢字検定人口が多いのに、何と言う貧相な現実だろうか。

 つい愚痴ってしまったが、次。「漢検合格ノート 1級」(一ツ橋書店)。これもやはり、書き問題があまり充実していない。ただ読み問題が先の問題集より難しめであること、地名の熟字訓がたくさん出題されていること、旧字体の問題の多さなどを考えると、やはり合格には必要な問題集である。現在の傾向に合っているとは言えないから、こっちもとにかく一気にやってしまいたい。分からない問題があろうと気にせず、どんどんやってしまおう。10日くらいでできないだろうか。21回分の模擬問題という形の問題集であるが、休日だったら5〜7回分くらいは一気に薦めると思う。普通の日でも2回分はできると思う。覚えようとしないで、とにかくやってみたい。この段階で「覚えよう」という意識をあまり強く持ちすぎると、絶対に嫌になる。嫌になると、絶対に勉強は続かない。

 さて、この問題集には、ふたつほど徹底的に気に食わない部分がある。ひとつは「1級の範囲外の漢字(書きor読み)が出題されていること」。ホームページ上でそういう漢字を再現できないが(JIS第3以上だから)例えば「TEST4」の大問7には「さんずいに景に頁」という漢字が出ている。これは出題範囲ではない。同じ問題の中には「足偏に禹」という漢字がでているが、これも範囲ではない。こういうものがちょこちょこ出てくるため、勉強の妨げになることがしばしある。少しずつチェックしてバッテンでも付けていくしかない。面倒だけど。

 もうひとつ気に食わないのは、「易しい漢字で書ける問題なのに、難しいほうしか模範解答になっていない」というところである。例えば「キョシュツ」という熟語。「拠出」と書くのが普通だと思うのだが(「漢検 漢字辞典」にもその旨は記してある)、「醵出」のみを模範解答としている。こういうことが重なると、覚えることが徒らに増えてしまう。「どっちでもいい」場合は、易しいほうを覚えるのが「効率の良い学習」の基本である

 とまぁ、あまり良いことを書かないで来てしまったが、問題集が世にほとんど存在していない中にあっては、この2冊の問題集は貴重だから、まず一気にやり終えてしまい、そこから自分の学習法を構築していくしかない。

 さて2冊をやり終えた後、皆さんが一番強く思われることは、「旧字体」「四字熟語」「故事成語」「熟字訓」があまりよく分からなかったということではないだろうか。特に「四字熟語」は、愕然とするくらい出来なかったのではなかろうか。これは準1級のときもそうだったが、今はほとんど使わない四字熟語が漢字検定でよく出題されるからである。わたしの持論として、1級の学習は、最初四字熟語から始めると良いと思う。何故なら、@一番勉強に時間がかかる、A覚えることが多い、B比較的覚えやすい、C覚えただけ点数に結びつく、D勉強するのが(以下の方法なら)それほど辛くなく、勉強している充実感に浸れる、からである。

 まず、2冊の問題集で、出来なかった四字熟語を「漢検 四字熟語辞典」で調べ、意味をイメージしながらチェックしていく。チェックの方法は人それぞれだろうが、わたしは大き目の単語カードに次のような形で書いていった。

  表 酔歩○○(酒に酔ってふらふら歩くさま)
  裏 酔歩蹣跚(すいほまんさん)←蹣跚は「よろめく」

 わたしなりの方法としては、表に読み方を書かないようにしてある。読みに頼らずに答えが導けるようにしておかないと、実戦では役立たないからである。と同時に、表には四字熟語の意味を記しておく。意味が書いてないと思い出しにくいからである。これは「意味・熟語の構造を映像などによってイメージする」という、準1級で紹介した勉強法の発想から来るものである。

 このとき大切なのは、できるだけ何回も声出して読むこと。「すいほまんさん」「すいほまんさん」と何回も読めば、頭を使わずに「すいほ」の後が「まんさん」だ、と出てくるようになる。実戦で役立つことこの上ない。

 なるべく大きな単語カードを用いるのは、少しずつ豆知識を書きこんでいったり、漢字そのものの意味を書きこんだりするためである。後はことあるごとに見返して、コツコツ覚えていけばいい。英単語を覚える作業と比べ、意味による記憶の強化がしやすいため、非常に効率良く頭に入っていく。続けているうちに完璧に頭に入った四字熟語は外していけばいいし、その後過去問などをやっていく上で新しく追加すべき四字熟語は足していけばいい。できれば試験3か月くらい前から、この作業はしておきたい。仕事の合間などに四字熟語の単語カードを見ている自分の姿は、学習の励みになるはずだ。

 それに対し、「旧字体」や「熟字訓」は、単語カードで覚えないほうがいいと思う。何故なら、あまり単語カードで覚えるのを増やすと、勉強そのものが本当に嫌になってしまうからだ。特に「熟字訓」は、単語カードで覚えようとすると、その量のあまりの膨大さに、ほとほと嫌になってしまうはずである。しかも理屈を付けづらい語句が多いため、そんなに頭に入りやすいものではない。よく、漢字の本などでは「当て字は面白い」というようなコーナーがあったりするが、漢字検定の勉強からすると「覚えにくい」以外の何者でもない。大体何で「巻柏」を「いわひば」と読むのか。「巻丹」を「おにゆり」と読むのか。理屈を付けて覚えやすくなるほど「いわひば」「おにゆり」について、我々は知識が無い。だいたい動植物の当て字は無茶し過ぎだと思う。漢字文化の奥深さ(日本の和事の融合の妙)を感じさせるから、個人的には大変好きなジャンルではあるのだが、暗記しようとは思わない。どうすればいいか?

 「熟字訓」については、繰り返し同じものが出題されている現状にある。1問1点で10問。そのうち地名が3問。過去問の復習を中心に学習すれば、あまり無理しなくても7〜8点くらいは取れると思う。地名は偶に難しいものが出るので、3問中2問正解で充分だ。平成12年第1回のように、3問中1問で充分でしょ、という場合もある。難易度は回によって違ってくるから、得点が読みにくい部分でもある。こういうのに無駄な時間をかける必要は無い。過去問に出たものを抑え、後は余力があれば覚える、という程度で良い。これは地名以外の熟字訓にも言えることである。わたしが受けたときは「浮塵子」というのが、いささか難しかった程度で、後は易しいものだった。過去問で触れたものは確実に暗記し、問題集で触れたものは一応覚えようと努力してみる。で、半分も頭に入れば御の字。その程度で良いと思う。

 「旧字体」に関しては、毎回10点分出題されているが、はっきり言って1問も間違えたくない。準1級で言う「常用漢字での書き換え」と同じで、範囲がはっきり決まっているものであるから、全部正解して当たり前。ただ、いささか覚えにくいものが多い。わたしは幸い文学部日本文学を経て国語教諭をしているから、一般の人に比べれば明治の文学などを旧字体で読む量が多く、従って新しく覚えなければならない旧字体は、ほとんどなかった。が、一般の方からすれば(年配の方は別として)、かなり勉強しづらいはずだ。

 これについては、各々の受験者の方々が「旧字体のパターン分類」をしてみれば、だいぶ覚えやすくなるだろう。例えば同じ偏や旁などは、だいたい旧字体でも同じ形であることが多い。「しめすへん」は、新字体では「ネ」だが、旧字体ではすべて「示」になる、とか、「者」という旁の漢字はすべて1つ点を附す、とか、そういうのをまとめてみること。

 パターンを探すにあたって「漢字必携」の旧字体コーナーを先ず見てみよう。部首ごとに掲載されているから、まず部首のパターンを覚える。各部首が、旧字体でどう書かれたかを覚えこむ。この作業はそれほど大変ではない。

 次は、先に紹介した「本試験型 漢字検定一級試験問題集」(成美堂出版)の巻末資料でパターンを探す。こちらは音読みの順(常用漢字表に掲載されている順)に記されているから、部首にならない「旁」などのパターンを見つけやすい。例えば「壊」「懐」の旁の部分や、「慨」「概」の旁の部分のように。

 で、そういうパターン分類に収まらない旧字体については印でも付けておいて、何回も見ることにしよう。例えば「塩」「窃」の旧字体などは、全然当てはまらない。そういうごくわずかなものに関しては、何回も書いて覚えるしかない。ただし、チェックシートのようなものを作る必要は無い。何故なら、次に紹介する問題集がチェックシートの役割を果たしてくれるからだ。

 で、次の問題集に進めばいいのだが、それは次項に譲ることにして、ここでは「国字」について触れておしまいにする。

 「国字」は準1級でも得点源となっていたところだが、範囲がかなり広くなる。しかもすべて書き問題であるから、書けるようになる必要がある。もちろん、既に知っている「鱇」「鱚」のような字もあるだろうが、ほとんどは見なれないもの。まず既に紹介した2冊の問題集の、国字についての部分を繰り返し行うことと同時に、出てきた国字の意味や成り立ちを確実に抑えていくことが学習の中心となる。

 その際に是非参考にしてほしいのは「本試験型 漢字検定一級試験問題集」(成美堂出版)である。漢字の成り立ちに就いてはほとんど触れていないが、なにより意味が分かりやすく書いてあるから便利だ。これでそれぞれの国字の意味と読みを確実にしていく。覚えにくいものは成り立ちを調べて、そこに書きこんでいく。例えばわたしのには「宗鳥」(1字で「キクイタダキ」)という欄に「宗は天皇家」と書きこみがある。天皇家の紋章は菊。それを戴いているから「キクイタダキ」、という連想のつなげ方になる。こういうのは案外漢和辞典に載ってないことが多いが、「漢字に必ず強くなる本」(村石利夫・三笠書房)に、かなりきちんと書いてある。是非ご一読されたい、というか、買ったほうがいい。

 余談だが、この本をわたしは小学校6年のときで購入し、何度も何度も読みまくった。この本がわたしに「漢字に強くなる」イコール「漢字を普段から意識している」なのだ、ということを教えてくれた。漢字に強い弱いの違いは、要は「意識しているかどうか」だけの違いなのだ。村石氏はたくさん漢字の本を書かれているが、漢字好きを唸らせる本はこれ1冊、他はむしろ一般の人向けの本だと思う。ただ、なにぶん昔(13年前)の本なので、絶版になっていなければいいのだが。なお、「熟語は片割れが鍵」というコーナーは、常用漢字の表外読みの勉強に役立つ。

 とりあえず、今回紹介した「四字熟語」「旧字体」「熟字訓」「国字」は、勉強すべき範囲がある程度決まっているから、早く取りかかって、ゆっくりモノにしていきたい。ここは(熟字訓を除いて)正攻法しかない。少しでも「勉強嫌だな―」という気持ちが薄らげばいいなあ、と思っている。

 

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