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現代文 標準問題精講
老舗の問題集「旺文社の問題精講」の現代文版です。 大学の入試問題素材文から、高校生にぜひ、読んでほ しい、40編を厳選し、骨太の記述式問題に改題しました。 受験生のみならず、大人の方にとっても、読んで楽しん でいただけるような、「現代の知の総合書(の入門編)」に仕 上がっていると思います。 ・言語と思考 ・日本文化を考える ・現代社会を生きる ・近代的思考のかたち ・人間を洞察する ・人生について ・芸術/思想と人間 ・文学 の八章に分けて、それぞれ五編ずつ掲載されています。 |
問題集ではありますが、設問を解くための解説というより、文章を読み込むための 解説・発展知識・教養のための解説などに重点を置きました。 以下に、「はじめに」を転載します。『現代文 標準問題精講』の雰囲気のようなもの を感じていただけると幸いです。 |
はじめに …思考の往復運動のために…
1995,Edward H.Adelson
チェック柄のボードの上に、太い柱が一本、右上から光が射して、薄い影が出来て いる。 さて、にわかには信じられないと思うが、このボードのAのマスとBのマスの色は、実 は同じ色である。 4頁の右肩に、同じ色が印刷してあるので、試しに上図のAとBのマス目に合わせて みてほしい。二つのマスの色が同じであることが確認できるはずだ。 なんと、僕たちの知覚がいい加減なことか。 なんと、僕たちの状況認識が文脈依存的である(周囲の状況に左右される)こ とか。
「これは、二色柄のチェックボードであり、そこに影が射している」という固定的な認識 から、僕たちはまったく自由になれない。 「これはこういうもの」という「結論ありき」の断定的な考え方、決まりきった文脈から、 どのように離れて自分自身の頭で考えるか……そんなことを教室ではよく話すのだ が、その飛躍がいかに難しいかを、生理的にも思い知らされる図である。 僕たちの周りは、決まりきった文脈だらけだ。例えば「常識」とか、「伝統」とか、「同調 圧力(周囲がそうだと、自分もそのように考えて、行動しなければならないと思うような 無言の重圧感)」とか、いずれも、ときに僕たちの思考を決定的に縛ってしまう「周囲の 文脈」である。
その呪縛から、離れることは出来るのか。もしも離れる可能性の小さな矢があるとし たら、それは、「知ること」だと思う。「人間は、このような場面では、このように考えがち であり、それが思わぬ誤謬を生む」と、一つ知るだけでも、わずかに文脈の罠から離 脱できる可能性があるかもしれない。 もしくは、「問題意識を持つこと」だと思う。「よく言われるこれは、本当にそうなのか」 と、問題意識を持って、社会や人間や人生に立ち向かう。これが罠にかからない知恵 となる。
一方で、本当にAとBとの色は、同じ色なのだろうか。 思えば、僕たちのすべての知覚・認識は、状況の中にしかあり得ない。周囲の状況 の中で、比較し、秩序立て、枠組み化しながら、生活の利便とする。周囲の状況をすべ て取り払って、単体としてのAとBとを比べることは、もしかしたら不毛な作業ではない か。右の図から、二色柄のチェックボードを認識するのは、生きていく上で、必要で有 効な類推力だろう。
いったい、どっちが言いたいんだ……そう思ったかもしれない。 いま、僕は「AとBとは同じ色である」という、新たな決まりきった認識に対して、再度、 「本当にそうなのか」と問題意識を持って、疑問をぶつけてみたわけだ。 実は、そのような往復運動の中でこそ、「自分自身の考え方」が、生まれてくるのだと 思う。
この『現代文 標準問題精義』の中で、社会や人間や人生について、君自身の頭と心 で読み解いていく往復運動をたくさんしてほしい。 その往復運動が、これからの人生の様々な場面で、より色濃い時間や、より充実し た感動や、場合によっては、重い荷物を軽やかに捨てて、颯爽と明日を生きる力にな るとしたら、望外の喜びである。
開成学園 国語科教諭 神田邦彦
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*本 冊/ 336ページ / 2色刷 *別 冊/ 48ページ / 2色刷
*ISBNコード: 978-4010339701 *定価:1300円(+税)
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