苺畑の午前五時



新幹線が生まれ故郷の小倉まで開通した小学校6年の頃だったと思うのだけど、初めてロッキング・オンを買った。当時夢中だったディープ・パープルを巻頭特集でこけおろしていた(私にはそう思えた)雑誌がロッキング・オンだった。当時よく買っていたミュージック・ライフなんかに比べると、カラー写真もなく、やたらと難しい文章ばかり書かれているペラペラの暗~い雑誌という第一印象だったが、なぜか気になって買ってしまった。こうして、ロッキング・オンは愛読誌へとなっていくのだが、その中で、毎回楽しみなのが、松村雄策の文章だった。

当時本などほとんど読んでいなかった私に賞賛されても本人は嬉しくないとは思うが、私は松村雄策の文章が大好きである。「自然体で」「どこかクールで」「男くさい」点が良い。もう少し頑張って一言で言うなら、松村雄策の文を読むと「人生捨てたもんじゃない」と思えてくる。つまり、どこかに希望を感じる。ポジティブなところがすばらしい。

「アビーロードからの裏通り」は、松村雄策の処女作のエッセイ集で、ビートルズへの熱き思いが、実に男らしく綴られている。70年代の文章が中心で、1981年にロッキング・オン社から出版されている。なんと言っても、巻頭の「イントロダクション」からしてすばらしい。私は、ビートルズ同時体験世代ではないので、松村雄策ほどビートルズに対する思い入れも愛着もないのだけれど、読んでいて実に楽しい。ワクワクして、つい文中に出てくるレコードを買って聞きたくなる。続くエッセイ「岩石生活入門」は、ビートルズ以外についての音楽に対する思いが書かれており、中でもドアーズ、ジャックス、バッドフィンガーへの文章が熱い。1983年の出版。

1987年に出版された三作目の「苺畑の午前五時」は、松村雄策初の小説で、私はこの本が大好きだ。1963年から1970年にかけての少年「亮二」の物語である。時代背景は、ビートルズを中心に描かれている。多分に、松村雄策自身の体験が「亮二」へ投影されていると思うが、少年から青年へと変化する主人公の感性描写が心にしみる作品。私の好きな小説には、必ずイカした女の子が出てくるんだけれど、この本に出てくる「みどり」と「久美子」も素敵だ。どっちかを選べと言われたら、困ってしまう(知ったこっちゃないか)。