ソラシド



先日見た小芝風花主演のドラマ「波よ聞いてくれ」での一場面。「次はラジオネーム『犬も歩けば、俺も歩く』さんからのメールです。」おおぅ、なんちゅぅ、イケメンネームやんけ!感動すると同時に学生時代の苦い思い出がよみがえった。

希代のナンパ師フジちゃんの紹介で、KBS京都ラジオのある企画コーナーに生出演することになった。その企画とは、毎回いろんな大学のサークル活動を紹介し、最後になにか面白いことやってみてや、といったものだった。前半のサークル紹介は、我らが頬ずりトミーが分厚い人望と唇で難なく乗り切り、いよいよ一夜漬けで考えたネタを披露する番となった。

今日は、皆で何か面白いことをやってくれるんやって?「僕ら日頃からおもろいことわざ遊びをやってるんです」ほほぅ。例えば?「犬も歩けば棒に当たりまくり!」・・・「溺れる者はわらわは姫じゃ!くっ」・・・「のれんに腕押しまくり!ぷりっ」「壁に耳ありわたしはメアリー ひゃっ」・・・おい!「月とスッポンポン よっ!」「覆水盆に返りまくり!それ来た!」「なんなら河童も川流れまくり!」「可愛い子には旅させまくり!はいさ!」「立つ鳥跡を濁しまくり!いやん〜」おい!ええ加減にせんかい!!!「へ?」その後パーソナリティーからのさしたるフォローもなく、記念品のボールペンを押しつけられるように渡され、我々4人は放送局を追い出された。

吉田篤弘さんの本を初めて手にしたのは、出張帰りに立ち寄った都内書店の推薦コーナーに飾られていた「つむじ風食堂の夜」。読んだときの印象は、淡々としたストーリーとどこか曖昧模糊とした寓話感だった。そして、今回読んだ「ソラシド」。随分とストーリー、登場人物とも輪郭がくっきりとして、ダイレクトに胸に刺さる秀作だった。

作品で描かれている時代は1986年。あのKBS京都を木枯らしとともに去った年から2年後に当たる。ストーリーのテーマは冬の音楽。ジョージ・ハリスン推しのギターのソラとダブルベースのカオルからなる女性二人組ソラシド。好きな曲が「Old Brown Shoe」に「Savoy Truffle」。迂闊に「俺は、ソロになってからの『You』が、ジョージの中では一番好きだな。」などと気軽に声をかけると、「へっ」と一蹴されそうなクールで骨太な感じが、二人の描写から伝わってくる。ところで、1986年と言えば、あのR.E.M.が名作「Lifes Rich Pageant」をリリースした年だ。それまでのモコモコしたサウンドから、くっきりとダイレクトに胸に刺さるサウンドに大変身し、メジャーバンドに大化けするきっかけとなった作品だ。このあたりの作品の質感の変化が、吉田さんの著作群の中の「ソラシド」にリンクする。

話が行ったり来たりになってしまうが、「Lifes Rich Pageant」のレコードを買ったのは、当時京都の岩倉にあった小さなレコード屋の閉店セールだった。この店は、軽音部の先輩で現在もBOUNDで活躍されているゴンベさんの店だったと記憶している。レジ会計の際、カウンターの女性に「俺ゴンベさんの後輩なんです。」と言ったら、どうやらその女性は奥様だったようで、「あら!じゃあ安くしとくわ〜」と素敵な笑みとともに大幅にまけてくれた。その年の冬、徹夜明けの白川通を幾度となく「Lifes Rich Pageant」を爆音でかけながら愛車ギャランマグマで疾走した。当時この愛車を譲ってくれた先輩の玄さんは、すでに天国に召されたが、車を譲ってくれた際のはにかんだ一言が今でも鮮やかに思い出される。「なあ車やるから、1回合コンセットしてくれへん?」