しりとり名人



常磐線には、いわゆる青電車、白電車と呼ばれるものがある。実際には、千代田線も入るため3種類になるが、通常はJRの青と白の2種類を指す。さらに書くと、青電車は、実際には緑電車と言うべきで、上野から取手までを結ぶ快速電車のことである。一方、白電車は、まさに白い電車であり、土浦やいわき方面まで延びている普通電車を指す。ただし、快速、普通とも、上野-取手間の時間はほぼ同じで、列車によっては普通電車の方が停車駅が少なかったりする。と、そんなことはどうでも良いが、一般的に常磐線=ワンカップというイメージがあるのか、西の住民には、すこぶる印象・評判とも悪い。

さて先日、その白電車に乗って、お茶の水までバンドの練習に出かけたときのこと。取手から乗ると、向かいの3人がけの席に、今風の茶髪兄ちゃんがすでに2人座っていて、しりとりをやっていた。そう、しりとりを、である。「スイス」短髪の方が楽しそうに言った。「く~、またスかあ~」「スイカ!」ロン毛の方がすかさず返す。「か...か...か...カイ!」「イ?い..い...い...イリコ!」ぷっ...(笑うとまずいか?)しかし、幸いなことに電車がちょうど利根川の橋を渡るタイミングだったため、2人には聞こえなかったらしい。

「こ...こ...こ...コートジボアール!」「え?...何それぇ?喰いもん?」「ばーか、そんなことも知らねーのか!」とは、短髪は言わない。「国だよ。国の名前」「コートジボール?どこにあんべよ?」「...アフリカだよ、確か。」「へー、行ったことねーなあ俺は(俺もねーよ!とは突っ込めない)。」「う~、ルかぁ...る...る...ルイ2世!」うぐっ(有名なのか2世はあ?)..当のロン毛は外国つながりで返せたことで、上機嫌だ。「はあ?誰よそれ?」「ガイジンだよ。ガイジン」うぐっ..(そりゃガイジンだろーよ!と返したいが、返せない)「2世...イかあ...い...い...い...イラク...和平共同条約」「は~?いきなり難しいべえ。」「条約のクだよ。」「く..く...く...クリスマス共同声明!」くっくっっくるじい...私は腹がよじれて爆発寸前まで行き、大慌てで文庫本を取り出した。

「そんなの、ないっぺ!」とは短髪は言わない。「ひっひっひ..なーんだよ、それ。まあ、いいけど。声明のい...い..い...インドネシア熱狂国」「ぷひひひひひ...なんだべよ、それは?」「インドネシアで、暴動があったべよ。」地理に明るい短髪は、少しムキになったようだ。「インドネシアかあ。列強国だっけ?」「熱狂国だよ」またも、短髪は押し切ったようだ。「クかあ~く...く...くりせんべい!ひゃはははは...」ぷぅ~。私は、ついに吹いてしまった。「くりせんべえかあ?まーた、喰いもんだっぺ」「うめーぞ、くりせんべえ」「センベイのイかあ..い...い...い..イリノビッチ和平条約」ぷりっ!もう駄目だ...口に当てていた手を慌てて尻にまわす。「まーた、条約だっぺ!すっきだなあー」ロン毛の方も、今度はちゃかさない。「いりのびっちわへーじょうやくぅ?くぅ...くぅ...くぅって、待てよ。何だべ?イリノビッチって?」ようやく疑いを持ったようだ。「ソ連の国王さ」もう...駄目だ。私は、必死に活字を目で追った。そのとき、初めて本が逆さまであることに気づき、慌てて本を回転させた。(ブックカバーをつけているため、彼らから見えるはずもなかったのだが)

それから先は、もうネタ収集を忘れ、ひたすら彼らのやりとりを楽しんだ。もはや、彼らにとっても私にウケていることが嬉しいようだ。しかし、あんなに楽しいしりとりは、初めてだったなあ。電車を降りて思ったんだけど、短髪の方は、確信犯だったに違いない。ロン毛くんは、すこしやばいかもしれないが。しかし、西の住民には、わかんねーっぺなあ。この粋がよ~。そんな常磐線で7月から大手町に通うことになった。2003年の話。