尻啖え孫市



私は、40歳近くになるまで、歴史というものが大嫌いだった。人の業績や過去の時代を振り返って、なんになるんやろう?という単純、稚拙な考えに加え、中身を掘り下げることなく、次から次へと年号やらキーワードのみを羅列された不幸な学校教育の影響も大きかったと思う。そんな私が、歴史を好きになったきっかけは、DoggieなJoeが出演した劇団「め組」の公演を見てからである。Joeは今でも適役だったと思える大久保一蔵に扮し、"愛しの汗かきじじい"今井さん扮する西郷吉之助一派との複雑な友情を見事に演じていた。公演を見た後、Joeに勧められたのが、司馬遼太郎の本だった。

「十一番目の志士」「項羽と劉邦」「世に棲む日日」「人斬り以蔵」「殉死」「尻啖え孫市」「翔ぶが如く」「義経」「関ヶ原」「龍馬がゆく」「坂の上の雲」「燃えよ剣」「花神」「菜の花の沖」...こんなに夢中になって本を読んだのは初めてだった。歴史という学問は、人が生き様を探す学問だったのかあ!歴史の授業なんかより、司馬遼太郎さんの本を読んだ方が、よっぽど本質に触れることができると思う。

このように、ええ歳こいてようやく司馬遼太郎に出会ったわけだが、嬉しいことに松本清張同様、司馬遼太郎の作品はものすごい数で、まだまだ読んでいない本がたくさん残っている。そう言えば、Joeには、もう1つ楽しみを教えてもらった。トム・ウェイツである。彼のデビュー作「Closing Time」は、間違いなくここ数年で、一番聞き込んだアルバムである。おそらくジャズを聞いた後なので、すんなりと身体に入ってきたのだろう。「Rain Dogs」や「Bone Machine」もすばらしい。「Nighthawks At The Diner 」なんて、最高に楽しいライブ・アルバムだし、「The Heart of Saturday Night」は、聞いているだけで、うるるんもんである。

話が逸れたが、司馬遼太郎が取り上げた人物の中で、私が最も好きなのは、なんと言っても高杉晋作である。動かば雷電の如く、発すれば風雨の如し。私は、偶然にも高杉晋作に攻略された小倉城近くの出身だが、そんなことはどうでもよく、彼の生きざまには、とことん惚れてしまった。なんとも小気味よく、爽快、痛烈、クールである(あくまで司馬遼太郎が描く晋作像ではあるが)。功山寺決起のくだりなどは、何度読んでも鳥肌が立つ。ここ数年の初詣は、山口の赤間宮から北九州の街を望むことに決めている。

話はまた逸れるが、私の友人にアイフル犬のような目をしたサイカちゃんという犬、いや男がいる。聞くところによると、彼は「尻啖え孫市」が率いた一族の末裔だそうだ。残念ながら彼の尻をかいだことはなく、またそんな趣味もないのだが、彼の学生時代の指導教官マ〇ヲ先生の屁が臭かったことは、トップシークレットとして蓋をされている。ぷぅ~