マクベス



皆さんは、ジャケ買いをしたことはあるだろうか?普通は、レコードとかCDのジャケットに魅せられて衝動買いすることを指すのだが、稀に文庫本でもジャケ買いをしてしまうことがある。例えば、高校生の頃に買った柳生弦一郎のイラストが表紙の「青年は荒野をめざす/五木寛之」や、本人のリトグラフ作品が表紙の「楼閣に向って/池田満寿夫」、最近では素敵な写真がカバーの「午前三時のルースター/垣根涼介」などがそれに当たる。

そして、同じように思わず洒落たイラストで1回読んでみるか、と重い腰を上げたのが(変な言い回しだけれど)、ちくま文庫から出ている安野光雅のイラストによるウィリアム・シェークスピア全集だった。とりあえず有名所の「ハムレット」を読んでみた。シェークスピアは難解で敷居が高すぎる、と勝手な先入観で敬遠していたのだが、読んでみるととんでもなく面白い!とにかく台詞と展開が奇想天外で右脳が刺激される。ちくま文庫のシェークスピア全集は、訳者松岡和子の丁寧な解説も魅力だ。

その後も、オセロー、マクベス。リア王の四大悲劇にはじまり、テンペスト、ヴェニスの商人、十二夜、恋の骨折り損などを読んでみたが、やはりどれもとても面白かった。中でも一番のお気に入りは、三人の魔女の囁きがテンポを刻む「マクベス」だ。「きれいは汚い、汚いはきれい。」人間の本質を、ユーモアとウィットの効いたセルフで紡いでいくシェークスピアの頭の中(想像力)は、驚くばかりだ。

そんなマクベスを題材にした小説に「未必のマクベス/早瀬耕」がある。こちらも、最近ジャケ買いした本なのだが、なかなか面白かった。登場人物に「バンクォー」こと伴浩輔が出てくるのだが、なんとなくセリフや言い回しが、学生時代に同じ下宿に居た「ハラ」に似ている。小説を読んでいると、滅多に無いのだが、自分の知っている誰かに似た登場人物が出てくることがある。「ハラ」にとってはいい迷惑かもしれないけど、もしかすると『意図的に実現を図るものではないが、実現されたらされたで構わないとする心情や態度を指す表現』という意味の「未必」と捉えてくれるだろうか?