村八分



大学入学を機に九州から上洛し、クラスメートを誘ってバンドを始めた。松田聖子が好きなボーカリスト、オフコースが好きなベーシスト、山下久美子が好きなドラマーに、めんたいロック命のギタリスト。最初はルースターズの中でもポップな「One More Kiss」や「Lipstick On Your Collar(カバー曲)」「Girlfriend」なんかで練習を始めたのだが、貧乏学生にはスタジオ代が馬鹿にならない。で、入学して3ヶ月も持たず辞めたサッカー部時代の友人(彼も半年で辞めた)から、「軽音部に入ればええやん」と誘われた。だが、「軽音」という情けない名称への反発と、バンドやるのになんで部に所属せんといけんと?そらロックじゃなかろうもん!という青臭い矜持を持っていたため、最初は抵抗したのだが、部費の安さに負け、スタコラサッサと入部した。

すぐに気づいたのだが、先輩達のレベルが高い!演奏力もさることながら、そのオリジナリティーの高さだ。演奏している姿も同じ学生なのかと思うほどかっこいい。そんなこんなでいろいろ仲間が増え、ある先輩から借りたレコードが京大西部講堂で録音された村八分の「ライブ!」。それまでめんたいロックこそが、日本の音楽界を変える!と確信していためんたい魂が、ぷちぷちと崩れ落ちた。世界も広いが、日本も広いのだ(自分の了見が狭いだけ、とも言う)。声量があって歌声を響かせるタイプとは真逆で、詩のような歌詞をシャウトだけで歌いきってしまうチャー坊と、最もかっこよかった70年代のストーンズを彷彿させる冨士夫ちゃんのギター。やっぱ性根の入った不良の音はかっこいい。

実はそんな富士夫ちゃんにハグしてもらったことがある。おっさんずラヴではない。2004年9月17日、当時やっていたDoggie Joe & the Bonesというバンドのライブを高円寺の稲生座でやった日だ。リハーサルを終えたとき、ドラムのシライシ師匠とベースのうがやんが、「あれ富士夫ちゃんだよね」となにやら慌てている。話に入っていくと、げっ、本物の山口冨士夫がカウンターで飲んでいるではないか!私もさすがに慌てた。もちろん感激であそこも縮み上がったが、実はその日のオープニングナンバーが、村八分の代表曲「夢うつつ」だったのだ。ボーカルのJoeにそれを告げると、迷わず「ガツンとやりましょう!」と即答。

そんな訳で、本人の前で「夢うつつ」をやり、なんとか40分のステージを終えた。富士夫ちゃんも、時々ステージを振り向いて、聴いてくれていたようだ。まさに、これぞ夢かうつつかの感激の夜だったのだが、演奏を終えておそるおそる挨拶に行くと、富士夫ちゃんは一人一人に声をかけてくれた。しかも、私には「兄ちゃん、一生懸命に弾いていたスライドが良かったよ」と笑顔でハグしてくれたのだ。あんなへたっぴなスライドなのに、と男泣きしそうになったが、気持ち悪がられると思ったので、泣くのはやめた。そんな富士夫ちゃんが、2013年7月14日に亡くなった。タクシー乗り場で遭遇した喧嘩の仲裁に入り、殴っていたどこの「馬の骨」ともつかぬ輩に突き飛ばされて後頭部を打ったのが原因だそうだ。本当に悔しい。享年64歳。ご冥福を祈ります。