鬼にチョコ棒とミルクティー



コロナ禍の小倉で2年ぶりに正月を迎え、チャチャタウンのミュゼドモーツァルトで買ったばかりの「鬼にチョコ棒(エクレア)」をひとり頬張りながら、今朝一足先に東京へ戻った息子との会話を思い出していた。しかし、この鬼にチョコ棒、めっちゃ旨い!そのネーミングに惹かれて洒落で買ってみたのだが、シューの中に入っている硬めのチョコが上品なクリームとよくマッチしており、ふざけた名前からは想像も出来ない絶品で、良い意味で裏切られた。と、そんな話を書こうと思ったわけではない。

昨夜、実家の母に「最近あまり名前を聞かないんで朝本くんのこと調べたら、どうもずいぶん前に自転車の怪我が原因で亡くなったらしいんよ」と伝えたことが発端だった。高校の同級生である朝本くんとは在学中にしゃべったことはほぼ無いのだが、彼が当時バンドでやっていた音源、確かStonesのMiss Youを、別の友達から聴かせてもらった記憶がある。当時の彼との縁はこの程度しか無いんだけど、なぜか母親同士が書道のつながりで年賀状のやりとりをするような仲だった。大学時代に、彼が東京でプロミュージシャンとして活動を始めたことも、母親経由で伝え聞いた。彼が参加してデビューしたMute Beatは、名前程度しか知らなかったが、彼を大きく意識し始めたのは、Roosterzのセッションメンバーとして活躍し始めた頃からだった(まっこと羨ましかー!)。その後、UAのプロデューサーとして数々の名曲と共に一世を風靡した頃には、もはや雲の上の存在となっていた。

そんな偉人を惜しむ会話を聞いていた息子が、「その人有名なん?」と聞くので、「UAのプロデューサーで『情熱』を作曲した人や」と教えてやると、「うーあ?」と素っ気ない返答。こりゃいけん、と急ぎYouTubeで「情熱」を聞かせると、「あ、これ知ってる」とまずまずの反応。次に、UAが歌う姿が素晴らしい名曲「甘い運命」のPVを見せると、「うーん、知らん」とつれない返答に逆戻り。「よっしゃ、じゃあミルクティーは知っとるやろ?」と聞くと、「フクヤマ?」「はぁ?フクヤマ?!」とこっちがあんぐり。もはや「ミルクティー」と言えばUA、とはならんとやね。あー寂しかー。が、改めて聴いてみたが、やっぱとーちゃんは断然UAの方が好っきやで。

現代の使い捨ての音楽業界にあって、ちょっとブランクがあるだけで、こんなに素晴らしい歌と曲が忘れて行かれるもんなんだろうか。「そういえば、息子は俳優の村上虹郎やぞ」と言うと、「へえ」と息子は息子のことは知っていた。「シブヤから遠く離れて」という小泉今日子主演の舞台を観たときに、当時20際の虹郎くんが出ていた。声の通りも良く、演劇ではありがちな変な気負いも感じられず、挑戦的な目が魅力の俳優だった。そういえば、生前の朝本くんも音楽番組のインタビューで言っていたな。「なんか今の音楽業界には、不満というか。。。俺はもっと挑戦していきたいですね」柔和な印象の彼だが、目は本気だった。

今となっては遺された彼の挑戦を聴くことしかできないが、ざっと調べただけで、すごい量である。流石売れっ子プロデューサーだけあって、次から次へと曲が出てくる。そんな中に編曲として携わった「バラ色の日々」があった。イエモンもポケモンも個人的には馴染みが薄かったのだが、以前会社のビアパーティーで演奏して、かっこいい曲だと思った。さらに調べていくと、なんと朝本くんはあの吉田修一の代表作「パレード」の映画音楽もやっていたのか!ダブやR&Bに造詣が深いだけあって、どの曲もとにかくベースラインがかっこいい。静かに律動するリズムを聴いていると、曲の中で彼が遊びながら息づいていることを感じる。ご冥福を!