ミックとカルガモ



私は、毎朝利根川の土手沿いの農道を車で通勤する。片道、25分。よって、往復で日に1枚のCDを車で聞くことができる。農道も年1回の農薬散布の日を除けば、いつも快適である。自分でも、なんとすばらしい通勤事情かと思う。

その日は、見事な夏晴れで、お盆前ということもあって車は少なかった。2010年から無料化になった新大利根道路を渡りきって、農道に入る。すぐにS字カーブとなるが、それを抜けるとしばらくの間は直進路となるため、いつもはそこでアクセルを踏み込む。しかし、その日は陽気が良かったせいもあるが、かかっていた曲がミディアムテンポだったので、気持ち良くゆっくりと走っていた。対向車もなく、また後続の車も来ていなかったせいもあるけど。

とその時、突然目の前にカルガモ一家が現れた。慌ててブレーキを踏むと、ようやくこちらの存在に気づいたのか、先頭の母(に違いない)カルガモがびっくりして飛び上がり、一旦後ずさりしたかと思うと、こちらが止まっていることに気づいて、S字を描きながら急ぎ足で道路を横断した。滑稽だったのは、続く8~9匹くらいはいたであろう子カルガモ達も母親と同じ動きをして、まさしく一列縦隊となって、慌てて道路を横断した。よくテレビのニュースとかで道路を渡るカルガモ一家が出てくるが、まったく同じ光景だった。

しかし、いつものスピードで走っていたらと思うと、ぞっとしてしまう。彼らを救ってくれたのは、悪魔をも憐れむミック・ジャガーの歌声である。今更どうでもよいことではあるが、私がストーンズを好きなのは、ミックの歌い方、声が大好きだからだ。もちろん、一生テレキャスターで行こうと決めたのは、キースの影響だが、やはりストーンズはミックだ。アニマルズのエリック・バートンやゼムのヴァン・モリスンもすばらしいボーカリストだが、ミックが放つ毒が一番効きが早くてたちが悪い。

その日は、米国盤のAftermathを聞いていた。1曲目が、「Mother's Little Helper」ではなく「Paint It Black」で始まる方である。ちょうど新大利根道路に入った辺りで、5曲目の「Doncha Bother Me」になっていた。滑稽なスライドギターが特徴のシンプルな3コードナンバーだ。その日の気分にぴったりで、その日から私のお気に入りとなった。「俺は有名人だけど、皆俺のまねをするのはもうよしてくれ。俺の後を付けるのも、もういい加減に勘弁しちくれないか。俺の服装なんかまねして一体なんになるんだい?俺はもううんざりだ。だから、俺の後をつけ回すのはやめちくり~」という歌である。

カルガモの親というのは、いつも子育てに熱心で面倒見の良い親という視点で映像が流されるが、実はミックが歌うように「もう、うちの後をつけ回すのはいい加減やめてくれへんやろか?」と子育てにうんざり気分で先頭を逃げ回っているのかもしれない。そう言えば、なんとなく後に続く子カルガモたちが、ロンドン・グルーピーにも見えた(映画「ナック」に出てくるような)。So Cute!