それ行け!突貫小僧



33歳の頃、ずーっと好きだったロックに興味を失った。大好きなルースターズでさえ、聴こうという気が起こらなくなった。そんなある日、レコード屋のジャズブースからふと流れて来たサックスの音色とリズムに心惹かれ、ブースの中へ入っていった。これが、本格的なジャズとの出会いとなった。

学生の頃、よく軽音部のボックス(部室)の周りで、ジャズ系の人たちが、プ~~~とか、パァ~~~とか、朝から晩までトランペットやサックスの基礎練習をしていた。ドラマーは、メトロノームに合わせて、単調なリズムを何度も反復していた。あんなアドリブだらけのジャズなのに、こんな単調な練習が必要なんだと感心するとともに、なんか根気がいる面倒くさい音楽だなあと、スリーコードを潔しとする単なる世間知らずの私は、そう思っていた。1~2度、彼らの定期演奏会を見に行ったことがあるが、演奏される音楽自体、何かダイナミックさに欠けると感じ、あまり興味が持てなかった。

さて、何気に入っていったジャズブースで流れていたアルバムが、アート・ペッパーの「モダン・アート」である。ブースの「ただ今演奏中」に立てかけられていたジャケットデザイン、ミュージシャンの名前、さらにアルバムタイトルと、どれをとっても文句のつけようがないほどかっこよく、迷わず同じCDを手にして購入した。当時は、アルトサックスとテナーサックスの音色の違いも分からなかったが、小洒落て小粋な曲がふんだんにフィーチャーされたこのアルバムにノックアウトされた。そして、この後3年くらいは、ガイド本を片手に、初々しいモダンジャズとの出会いの日々を過ごした。

マイルス・デイヴィス、ジョン・コルトレーン、ソニー・ロリンズなどは、さすがにすばらしく、ハンク・モブレイやクリフォード・ブラウン、ビル・エヴァンスにも魅了された。そんな数ある名プレイヤーの中で、一番のお気に入りは、アート・ブレイキー・ジャズ・メッセンジャーズにいたことでも知られる天性の突貫小僧リー・モーガンである。"The Sidewinder"は有名なので、どこかで聴いたことがある方も多いと思うが、私は、Blue Note時代の「Candy」が最も好きだ。これは1957年の作品で、わずか18歳でリーダー作を発表してから1年後の同名タイトルのアルバムに収録されている。アルバムとしては、他にVee Jay時代の「Expoobident」や「Here's Lee Morgan」も実にすばらしい。

コルトレーンの「Blue Train」をはじめ、共演でも多くの名演奏を残した彼だが、33歳のとき、別れ話のもつれで、愛人ヘレンにピストルで殺害されてしまう。つやつけ男として、かっこいいといえば、かっこよすぎる死である。ポール・ウェラー、ロリー・ギャラガー、そしてリー・モーガン。突っ込んでいく男気のかっこよさ。子供には、これだけは、伝えたい。