アンヌ隊員



「万華鏡の女」。表紙の写真があまりにも魅力的だったので、思わず手に取った。やはり紛れもなくアンヌ隊員だ。井の頭公園での気取らないショット。この写真にひし美ゆり子の魅力が全て詰まっていると、本を読み終えて確信した。映画監督・評論家で著者である樋口尚文の文章構成力と時代背景の描写が的確なことで、単なるインタビュー主体の回顧録に留まっておらず、昭和の映画全盛期からテレビへの移行期の状況も丁寧に描写されており、映画好きにとっては大変興味深いドキュメンタリーに仕上がっている。同じ太秦を背景にした浅田次郎の「活動寫眞の女」を読んだ後だっただけに、この本は自分にとってタイムリーだった。

肩肘張らぬ彼女の話も面白いのだが、著者の切り口通り、時代に流され続けていた女優が、ネット時代の到来とともに見事に蘇ったのも、彼女の人となりがあってこそなのだろう。だいたいにして、昭和少年の憧れであったアンヌ隊員の役自体、彼女にとってはたまたま代役が回ってきたのでやったのよん、というのだから、人生は面白い。「流される」ことは一件悪いことのように捉えられるが、流され続けられること自体、多くの監督、脚本家、プロデューサー等から愛されていた証であり、彼女の魅力だったことがわかる。そんな中、彼女もいろいろと悩み、考え、時代に身を任せていったのだろう。

もちろん、私も多くの昭和少年同様、アンヌ隊員のファンなんだけど、実はどちらかというと、ウルトラセブンよりはウルトラマン派である。ウルトラマン自身もかっこいいし、何より出てくる怪獣が好きなのだ(セブンはなんとか星人が多い)。ただ、かつてバンド仲間だったジョン・ポールが、セブンのストーリーは深いのだ!と絶賛していたので、機会があればもう一度見直してみたいと思う。

素人ながら、バンドで曲なんかを作っていると、稀に過去の感銘を受けた体験からイメージが膨らみ(妄想が破裂し、とも言う)、すらすらと歌詞が出来ることがある。近年ライブでよく演奏している「アンヌとディナー」は、そんな曲の一つだ。アンヌ隊員が、可愛いスザンヌ隊員やシャルロット隊員をディナーに誘い、抑えきれない女心と葛藤する愛おしさを切々と綴った、まあどうでもよい妄想曲である。交響曲や協奏曲は全くお手上げだが、妄想曲分野では、なんとか頑張っていきたいと、心新たに決意を固めるコロナ自粛の日々である。