周波数依存インダクター
周波数依存性のあるインダクターを SPICE でシミュレートしてみました。 コイルメーカーが自社製品
の SPICE モデルを公開していても、使い方はそれほど単純ではありません。 LTspice を使っています。
● まずは理想インダクターに直列抵抗、並列抵抗をつけたものをシミュレーション測定しておきます。
10μH + 0.6263Ω
10μH // 6263Ω
グラフは上から順に、インピーダンスの絶対値と位相角、インダクタンス (虚数部/(2*pi*freq))、
実数部、インダクタンスの Q になっています。 10uH のインピーダンスは 1MHz で 62.83Ωですから、
1MHz 時の Q はどちらも 100 になります。
asc.zip Draft1, Draft2
● 次に周波数依存抵抗と周波数依存インダクターをシミュレーションで確認します。 実際の
インダクターをシミュレートする際に使われる素子である、周波数の平方根に比例する抵抗と、
対数グラフで直線的に減少するインダクターです。
周波数依存抵抗 R = k * sqrt(freq)
次は周波数依存インダクターです。 k3 は基準となるインダクタンスの値 (μH)、k4 は
インダクタンス減少率、k5 は基準とする周波数の逆数です。 なおこれは Coilcraft 社
が使っている表現方法です。
asc.zip Draft3, Draft4
● 実際のインダクターをシミュレーション測定してみました。 Coilcraft 社の
製品に LPO3310-103ML という型番の 10uH インダクターがあります。 次の
等価回路を使っています。 LPO3310
データシート
SPICE モデル
これを SPICE の書式に直してシミュレートします。 (Draft5)
周波数が低い領域のインピーダンスが見にくいので、グラフ縦軸の目盛りを dB 表記
に変えます。
こう見ると、なかなか立派なものです。
虚数部すなわちインダクタンスは次のように見えます。1MHz でのインダクタンスは 9.33uH です。
なお、このモデルの適用範囲は 0.1 〜 80MHz となっています。
● 実は LTspice のライブラリーモデルとして LPO3310-103MX が登録されています。 これと
同じでしょうか。 (Draft6)
いや、大幅に違いますね。 どうやら付属ライブラリー lib/cmp/standard.ind の LPO3310-103MX は
モデルが異なるようです。 その中身を推測して両者を比較してみました。 下記
回路図の破線で囲んだ部分が推測したモデルです (V2 は電流プローブ)。 (Draft7)
推測は当たりました。 つまり、LTspice の作者は「全ての非理想インダクターについて周波数依存
抵抗や周波数依存インダクターを組み合わせたモデルを使うのは、シミュレーション速度の面から、
またモデルの取り扱いの面から見て適切とは言えない。 普段は簡単なモデルを使い、どうしても
精密さが必要な場合だけ詳細なモデルを使うのがいいだろう。」と考えているので
しょう。 もっともなことです。
● それでは、理想インダクターに直並列抵抗を加えた程度のモデルを使って、どの程度まで合わせ
られるのか、という疑問が出てきます。 コイルメーカー発表の詳細なモデルと、簡略モデルを
比較してみました。 (Draft8)
R3 はメーカー発表の R2 の値にならって 0.52Ωにしてあります。 比較はインダクター
としての Q 値の比を目安にしました。 R4 を 1kΩにすると下記グラフの
ように ±3dB (0.707 〜 1.414) に収まる範囲が求まります。 (縦軸の上限・下限は手動で設定)
DC 〜 110kHz, 450kHz 〜 1.3MHz の範囲はよく一致しています。
R4 = 2k にすると、次のようになりました。 DC 〜 100kHz, 1MHz 〜 3MHz の範囲
はよく一致しています。
ほかに、位相角 (損失角) の差を目安にする方法などもあり得ます。
LPO3310-103ML はパワーインダクターと分類される製品ですし、LTC は SW レギュレーター IC を製造販売
しています。 そうすると、1MHz くらいまで合えばいいや、という割り切り方もできますよね。
Coilcraft 発表の R2 = 0.52 という値にちょっと不審な点があります。 データシート
での DCR max が 0.52、SPICE モデルの R2 が 0.52 (0.1 〜 80MHz)。 何か変です。 役人の
自己保身口上みたいにも思えてしまいます。 SPICE モデルには標準値を使って下さいね。 きっと
偶然ですよね。
もどる