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 DC 動作点の安定

DC 動作点が安定しないことには AC 解析結果や FFT を利用した歪み率の評価が信用でき ません。 とある回路の .ac 解析ができないので、なぜかと調べていくうちに DC 動作点 が定まらないためとわかりました。

 後日談があります

DC 動作点の安定問題で少してこずった回路を紹介 します。 オーディオパワーアンプの一部ですが、鬼のような回路だとの御感想を お持ちの方もいらっしゃることでしょう。 まあそれはともかく。

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この回路のカソード自己バイアス版はそれほど大きな問題はなかったのですが、上記の ような固定バイアス版?はなかなか動作点が定まりません。 結局は .savebias と .loadbias を 使いました。 その手順を説明します。

(1) R6 は大きい値 (1T とか) にして U2 の利得を 1 にします。 なお U2 は 2-pole 型 で、GBW 10MHz, SR 10MV/s, 位相余裕 45°とけっこう高性能です。 積分方法は Gear で ないとうまくシミュレートできませんでした。

(2) L1 の時定数のために1秒くらい経たないと動作点が安定しません。 .ic もしっかり 指定しました。 入力信号はまだ加えません。 .loadbias はコメントアウトしておきます。
 .lib ./doclib/ExcemTubesOK.lib
 .options method=Gear
 .param tstep=100m/8192
 .param ampl=0
 .ic V(a)=-12.5
 * .loadbias dstrb-6V6.bias
 .tran 0 1 0 {tstep} uic
 .savebias dstrb-6V6.bias time=1

(3) 結果がよければ .loadbias を生かし、.ic はコメントアウト、.tran の uic は除外します。
 ・・・
 * .ic V(a)=-12.5
 .loadbias dstrb-6V6.bias
 .tran 0 1 0 {tstep}
 .savebias dstrb-6V6.bias time=1

見かけ上、すぐに DC 動作点が安定するようになりました。 これでシュミレーションの 所要時間が節約できます。

(4) U2 の利得は 10 〜 30 くらいとするつもりなので R6=680 にして .savebias をコメントアウト します。 これで実行して DC バイアス点が妙に変動したりしなければ次に進めます。

(5) AC 解析をします。I1 の AC 振幅は 0.5m としてあります。
 ・・・
 .loadbias dstrb-6V6.bias
 .ac oct 50 1 100e6

10MHz あたりの V(p) の周波数応答に「コブ」が見えるのですが、この件は別に検討します。

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(6) 過渡解析を行って FFT で 1kHz の歪み率を調べます。 まずは信号振幅が適切かどう か、妙な応答をしていないかどうか確かめます。 (FFT 関連のオプション等について は「FFT を利用した歪の評価」を参照してください。)
 .lib ./doclib/ExcemTubesOK.lib
 .options method=Gear
 .option plotwinsize=0
 .save I(V3) V(a) V(g) V(k) V(p) I(V4)
 .param tstep=100m/65536
 .param ampl=0.5m
 .loadbias dstrb-6V6.bias
 .tran 0 100m 0m {tstep}
 * .four 1k 7 I(V3) V(p)

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(7) 問題なければ .tran コマンドを変更し、.four を生かします。 データの 区間は 20ms 〜 220ms としました。
 .lib ./doclib/ExcemTubesOK.lib
 .options method=Gear
 .option plotwinsize=0
 .save I(V3) V(a) V(g) V(k) V(p) I(V4)
 .param tstep=100m/65536
 .param ampl=0.5m
 .loadbias dstrb-6V6.bias
 .tran 0 220m 20m {tstep}
 .four 1k 7 I(V3) V(p)

ここで手動で I(V3), V(p) の FFT 結果を見て確認します。 FFT 点数は 65536 と し、End Time が妙な値になっていないかを確かめておくとよいでしょう。 グラフ縦軸の 倍率は 1kHz 信号が 0dB になるように手動で設定しました。

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エラーログファイルを見ると、全高調波歪率は 0.002877% であることが分かり ます。 高調波の次数別の歪み値も記録されています。



この後は .step を使用して振幅と歪み率の関係や、他の周波数でのふるまいを調べることができ ます。 なお U2 出力がクリップすると、シミュレーションがハングする傾向があるようです。

ちょっと LTSpice/SwitcherCAD III の動作が不審なのですが、.tran の Stop Time を 221ms に 変更して手動で FFT を実行し、Specify a time range の End Time を 200ms に 設定し直すと、下記のようなグラフが得られます。 こちらのほうがもっともらしいような気もします。

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この場合のエラーログファイルの歪率値は .tran の Stop Time が 220ms の場合と 変わりありませんでした。

 dstrb1.asc  ExcemTubesOk.lib

(ExcemTubesOk.lib は http://groups.yahoo.com/group/LTspice/ の files/Lib/cmp/ か ら入手しました。)



この回路は大型真空管などのバイアス電流安定化回路の 動作シミュレーションのための準備です。 普通の安定化方法では動作安定までに長い時間が かかったり、安定化までの所要時間を短くしようとすると回路本来の動作に悪影響を 及ぼすことがあります。



後日談です。 このような回路だったら .savebias や .loadbias を 使うより次のようにしたほうがいいだろう、と Helmut Sennewald さんに教えていただきました。

L1 の電流初期値を SYMATTR Value2 ic=0.045 で指定すれば、すぐに DC 動作点が安定する。(*.asc ファイルを edit する。)

.nodeset で V(a), V(g) の初期値ヒントを指定するとよい。

.op で DC 安定化後の動作点を確認できる。このとき .ac はコメントアウトしておく。

L1 の並列キャパシタンスを指定したほうがいいだろう。(LTC は、部品に備わっている寄生素子の利用を奨めています。)

U2 の高周波帯域での利得を抑えたほうが負帰還ループが安定する。

実際上 6V6GT の control grid に 1kΩくらいの直列抵抗を入れたほうがいいだろう。

V8 (-12.5, AC 1) を g 点に接続し、U2 出力を g 点から切り離すとオープンループ AC 試験ができる。

元回路にあった I1 の電流を計測する電圧源は不要。(回路を修正しているうちに、残ってしまっただけです。)


Helmut Sennewald 様、どうもありがとうございました。 ファイル は "http://groups.yahoo.com/group/LTspice/files/temp/DC Operating Point" に あります。無くなってしまったり、読み出せない場合は Guest Book で請求して下さい。



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