まだ 11 月だというのに、どうも今朝から「The Christmas Song」のメロディが
頭の中で回って回ってしょうがない。
この、「頭の中で同じメロディが繰り返し流れてしまう」という経験、 あなたにもないだろうか。私には良くある。 流れるメロディが、それこそ「The Christmas Song」のように比較的 シンプルで静かなものならまだ我慢もするが、例えば フランク・ザッパの 「Tryin' to Grow a Chin」だったりした時にはテリー・ボジオのヘンなヴォーカルと 「たかたかどこどこたかたかどこどこ」、というこれ見よがしのドラムフレーズが、 ワンセットになって頭の中を駆け巡ってしまうわけである。 東横線で吊革にぶら下がりながら 苦悶の表情を浮かべつつ「たかたかどこどこ」とか「あーいわなびーでーっど」とか 「うっ!」とか、かすかに口ずさんでいる人間がいたらそれは私である。 英語とはいえ、歌詞は「死んでしまいたい」である。 そんな奴の隣に偶々居合わせてしまった方、あなたは今日、アンラッキーデイです。 家で静かにしていましょう。 巡っている曲が、強烈な転調などを含んでいて歌いにくい場合。これも困る。 坂本龍一氏初期の傑作「千のナイフ」の中間部とか、 あるいはアントニオ・カルロス・ジョビン氏の曲(は転調含みの歌いにくい展開が 中間部にあることが多い)、例えば「ディサフィナード」など。 気持ち良く口笛で吹いていて、問題の個所に来るとすーっとボリュームがダウンし、 誰も聞いていないかどうか、こっそり前後左右を確認し、おもむろにもう一度 A メロを吹き始めたりする。情けない。 そういう難しい曲が巡り始めてしまった場合は、別の印象的なメロディを強引に 歌い始めて頭の中を洗い清めてしまう、という手段も有効である。 私はビートルズなどを愛用している。 私が突然「Penny Lane」や「In my life」などを口笛で吹き始めたら、あ、こいつ 今なんか頭の中回ってやがんな、と七割方判断して頂いて間違いない。 残り三割は、そもそもビートルズが回っちゃってるのである。 さらに困るのは、ほんの断片だけが巡っているのだが、それが何の曲だか 分からない時。これはつらい。俺は一曲通して歌いたいのだっ。 しかし無理にメロディを続けようとすると違う曲になっちゃったりする。 もっとひどいとほんの一瞬の和音だけとか、楽器の音色 だけとか、そんなものだけが頭の中できらきら光っていたりする。 そういえば、J-Wave で平日夕方に放送している Groove Line という番組に、 「なんとなくメロディはわかってるんだけど曲名が分からない」という一般リスナーが ラジオ局に電話をかけ、電話口でその覚えているメロディを口で歌って、 ラジオ側はそのメロディを頼りになんとかその曲を検索する、 という「ミュージック・レスキュー」なる一コーナーがある。ちょっとコーナー名は あやふや。今でもあるのかな。 リスナーの歌がとんでもなく下手だったり、 「らららーらー、こんな感じなんですけど」 「それだけかいっ!」みたいなやりとりがあったりしてなかなか笑えるのだ。 この時間に悩んでしまった場合は、このようにピストン西沢氏に助けてもらえる わけだが、時間外にはやっぱり悩み続けねばならぬ。 24 時間営業のこういうサービス、どこかにないだろうか。 これらの症状の亜種として、「頭の中で流れている曲の演奏を、CD でもラジオでも なんでも良いから今すぐ聞きたい病」がある。 をを、いつのまにか病気になってしまった。 もうばんばん歌っちゃっているのである。ヘタすると歌詞も覚えているのである。 「せーいせーいせーい、わっちゅーうぉーん」。もう気分はポール・マッカートニー。 さらに B メロでは声色まで変えて「おーらろーん!」 マイケル・ジャクソンと二役なのである。「だっ」とか言っておるのである。 言いながら狂ったように部屋中ひっくり返して Pipes of Peace のカセットを 探す私。馬鹿である。 だいたい聞きたいだけなら静かに探せばいいではないか。 なぜミュージシャンを降臨させねばならんのだ。 しかし無情にも、額に青筋立ててグラハム・ボネットになりながらレインボーを 探したり、両手をだらーっと下げて低い位置でギターを構えている格好をしながら エアロスミスを探したり、西城秀樹の真似をしながらBOφWYを探したり、という 謎の行動を起こしてしまう私である。
この病が外出中に発病するとかなりやっかいなこととなる。発病してしまい、
雑踏の中ミュージシャンを降臨させるわけにもいかず、しかしぐるぐると頭の中を
メロディは回り続け、そのうち手足の震え、冷や汗、腰痛などの禁断症状が出てきて
止む無く CD 屋に駆け込み、
その一曲が聞きたいがために CD 一枚買ってしまったことが、私はある。
「Sara」が聞きたくて買ってしまった Starship の
「Knee Deep In The Hoopla」なんてそのクチだ。 ちなみに、CD 屋で「らららーらー、こんな感じなんですけど」などという ことはやったことがない。ないってば。 頭にメロディが浮かぶと、それを実際に音にしてみたくなる。そんなわけで、 会社からの帰り道を駅から家まで一人歩く時、「Stella by Starlight」とか 「Waltz for Debby」といったスタンダードや、 あるいは、口笛といえば!という感じの、John Lennon の「Jealous Guy」や Billy Joel の「Stranger」などを思い付くまま吹きながら てくてく歩き、すれ違う犬にしっぽを振られたり吠えられたりしている 私であった。 夜に口笛を吹いちゃいけない、という言い伝えが あったと記憶しているんですが、あれ、何故駄目なんですかね? 静かな街に消えて行く口笛の響きはなかなか良いものなんだけれど。
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