チロルの蒸気機関車 |
Jenbach / Austria |
撮影: 1995/7, 制作: 2015/2, 改訂: 2023/9 |
オーストリア・インスブルックの近郊にイエンバッハ(Jenbach)という町があります。トーマスクック(Thomas Cook)の時刻表を見ると、ここからアーヘン湖に向かうローカル鉄道があって、蒸気機関車が走っていることが分かりました。そこで、「欧州トラム紀行」の途中に立ち寄って見ました。「煙の出るアルバム」の撮影からすでに四半世紀が経過しており、久しぶりに石炭の香りにふれることができました。 |
インスブルックからイエンバッハまでは、インターシティーでわずか20分です。1044形の交流機関車が牽引していました。車両番号の数字は、形式(1044)-製造追番(269)-チェックディジット(7)の順です。 |
イエンバッハで見かけた4020形の近郊電車です。ウィーンのSバーンでは同形の電車が多数走っています。斜めにカットされた前面のデザインが、シャープな印象を与えています。 |
アーヘンゼー鉄道、イェンバッハの機関庫です。1号機と2号機の機関車が待機中でした。2号機はこれから始業準備に入るようです。 |
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機関庫の外ではすでに3号機が準備中でした。ボイラーの横にあるサイドタンクに水を供給しています。蒸気の圧力も十分上がってきた模様です。 出発地イエンバッハと終点アーヘン湖との距離はわずか6.8kmですが、高低差が400m以上もあります。このため最大16%にも達する急勾配を登る必要があり、ラックレールに歯車を噛み合わせて登坂するコグ式機関車が使われています。 |
コグ式機関車2号機のサイドビューです。最大勾配に合わせて、平地で見るとこのように車体が傾いています。 通常の蒸気機関車では、シリンダーから伸びるメインロッドが駆動輪に繋がっていますが、この機関車では車体中央にあるフライホイールに繋がっていることが最大の特徴です。 下掲に、コグ式機関車のメカが分かるように動力部分を拡大してみました。 |
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フライホイールの回転は、内部にある歯車を介して、ラックレールに噛み合う車体下部の歯車に伝わります。これら2つの歯車は同軸になっていて、さらにサイドロッドを通じて動力が駆動輪に伝えられます。 平地に於いては、この駆動輪によって機関車が動きます。一方、ラックレール区間での駆動輪の役割は、車体を支えるだけです。また、ブレーキはフライホイールを締め付ける構造になっています。 |
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さて、準備の出来た3号機が動き出しました。これから客車を連結します。 | ||
3号機がオープンデッキのカラフルな客車を連結しました。 |
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運転台が見える角度から逆光で撮影しました。機関車は1889年製で、もう100年以上も現役で走っています。尚、軌間は1,000mm のメーターゲージです。 |
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2両の客車に満員の乗客を乗せて、これから発車するところです。推進運転なので、画面手前に走って行きます。 アーヘンゼー鉄道は、観光用に保存されている蒸気鉄道で、95年当時の運転は1日6往復でした。 |
客車の側面に、細長いラン・ボードがあります。車掌さんは走行中ずっとこの板の上で、切符のチェックや案内をします。 乗客の皆さん、大変楽しそうにしています。 次の便で、小生railbusも終点まで往復しました。 |
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チロルの風景を愛でながら、ラック区間の急坂を列車が登っていきます。真夏でしたので、残念ながら煙はほとんど出ませんでした。 もう少し近くに寄って、ラックレールを写し込むべきでした |
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終点、アーヘン湖畔の機回り線で機関車を付け替えているところです。ここは高地ですがフラットな場所なので、ラックレールはありません。線路の間に写っている線はオイルの跡だと思われます。 返す返すもラックレールを写さなかったことが悔やまれます。 |
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終点からは遊覧船に乗り換えて、アーヘン湖のクルーズを楽しむことが出来ます。 |
イエンバッハには蒸気機関車を保存しているもう一つの鉄道、Zillertalbahn(ツィラータル)鉄道があります。こちらは観光用というよりも地元の足として、イェンバッハとマイヤーホーフェン(Mayrhofen)の間、32kmを結んでいます。当時は1日17往復の列車があり、そのうちの2往復が蒸気機関車で運転されていました。 この4号機は、1909年、クラウス(Krauss)のリンツ工場製、全長13.5mのテンダー機関車です。煙突の上に大きな円筒形のチムニートップを装備、前照灯が3つもあります。 |
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こちらは全長8mのC型タンク機関車、5号機です。1930年に同じくクラウス・リンツで製造されました。 ツィラータル鉄道には全部で5両の蒸気機関車が保存されています。ちなみに軌間は、760mm(メートル規格)のナローゲージです。 ※まことに細かい話ですが、インチ規格の設計では、30インチ=762mmになります。 |
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国鉄イエンバッハ駅の南側に接しているツィラータル鉄道の駅です。駅といってもプラットホームはありません。 5号機に牽引された列車が、発車を待っています。 |
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陳腐な例えですが、いわゆるマッチ箱のような客車を何両も連ねて、列車が出発していきます。 |
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斜め後ろから出発を見送りました。残念ながら時間の関係で、この鉄道には乗車せずにイエンバッハを後にしました。 同社のホームページによると、両鉄道とも今なお健在で、これらの珍しい形をした蒸気機関車に会うことが出来ます。 |