海外トラム紀行

カーン (1)
仏蘭西国旗
 Caen / France
 
撮影: 2014/7, 制作: 2016/4, 改訂: 2019/12

フランスには不思議な交通機関が沢山あります。1本のレールによって案内されるゴムタイヤトラムは、その代表例です。ゴムタイヤトラムには、トランスロールとTVRの2つの方式があります。前者はパリT5系統で既にご紹介しました。もう一つの方式、ボンバルディア社が開発したTVRは、世界でたった2例、カーンとナンシーで実用化されています。
珍しいTVR方式のゴムタイヤトラムに乗るために、ノルマンディー地方の中心都市、カーンを訪問しました。

カーンのトラムカーン城 
Quatrans, Caen

フランス国鉄Z27500系
カーンへはパリのサン・ラザール駅から2時間弱で到着しま
す。直通列車もありますが、当日は途中の Bernay Lisieux
でローカル列車に乗り換えました。車両は仏国鉄の地域輸送
を担当するTERの交直流電車、Z27500系です。

  フランス国鉄Z27500系
Z27500系は、2010年にボンバルディアで造られた4車体
の連接車です。乗降口付近が低床構造になっていて、中2
階にも眺めの良い座席が配置されています。
カーンのトラム駅前   Gare SNCF

国鉄(SNCF)のカーン駅前です。お目当てのゴムタイヤトラムが停車しています。
3両編成で、屋根上にパンタグラフがあり、1本レールに乗った姿は、トランスロールとよく似ています。但し、片運転台なのでリアの形状はトラムと言うよりもバスのイメージです。
カーンのトラム   先頭の車輪のみひときわ大きく、円形のタイヤハウスが口を開けています。この外観はまさにバスそのものです。一方、その他の車輪は小型で、スカートの中に隠れています。
TVRとトランスロールの違いは、あとで詳述します。
まずは、美しい風景の中を走る姿をご覧下さい

カーンのトラム路線図見易くするために、各終点と国鉄駅を黒字で書き込みました。
[A] Campus 2 ~ Gare SNCF ~ Jean Vilar (Campus 3)

[B] Saint-Clair ~ Gare SNCF ~ Grâce de Dieu
  ← カーンのトラムにはA,B2本の系統があります。北側と南側にそれぞれ分岐線があって、合計4箇所から来る2本の系統が市の中心部で合流しています。
この案内図は各電停に掲示されているもので、市内の主要な施設と最寄りの電停名、系統名が書かれています。
カーンの交通機関は民間の運輸会社、ケオリスグループのTWISTOが運営しています。トラムの導入は2002年です。
  カーン城中世の征服王と言われたノルマン公が造ったカーン城
砦です。城壁の上から市内を一望することができます

 
  カーン城 城内の風景です。家族連れの観光客の姿がありました
。背景にサン・ピエール寺院の尖塔が聳えています。


カーンのトラムカーン城   Quatrans

カーン城の最寄り電停です。城壁に沿って、線路が敷かれています。線路の脇には、芝生の細長い広場が続いています。
 
カーンのトラムカーン城   上掲のすぐ左側です。城砦の西半分を取り囲むように長い坂道があり、トラムが駆け上がって行きます。芝生越しに3両編成の全体を真横から捉えることが出来る場所です。
カーンのトラムカーン城   城壁に登って、上から俯瞰してみました。左の建物には、外壁に柱を露出させた装飾があります。欧州各地で良く見られる建築様式です。
カーンのトラムカーン城   城砦の西側全体を俯瞰しています。眼下に落ち着いた雰囲気の美しい街並が広がっています。
冒頭の写真は右奥のカーブで撮影しました。
1944年6月、第2次大戦を決着させたノルマンディー上陸作戦の時に、カーンの町は激戦地となって徹底的に破壊されました。その修復には1962年までかかったそうです。

カーンのトラムカーン城   空濠をまたぐ通路の上から、観光客がトラムを眺めています。お気に入りのショットが撮れました。
 
カーンのトラム   Pierre Heuzé

城砦の北側にある丘陵は、新興住宅地になっています。整備された大通りの中央にトラムの専用軌道が設けられています。
カーンのトラム   Copernic

北側の分岐点、コペルニクスの電停です。有名な天文学者の名前が付けられています。ここからA系統が 分岐して終点の Campus 2 に向かいます。
カーンのトラム   Maréchal Juin

カーンには1432年からの歴史があるカーン大学があり、5つのキャンパスが市内に分散しています。 これらのキャンパスを結ぶ形でトラムの路線が設定されました。この付近には、キャンパス2, 4, 5があります。
カーンのトラム   Maréchal Juin

A系統の北の終点は Campus 2 ですが、その一つ手前のマレシャル・ジュアンにもループ線があって、乗車した時はここで折返し運転になっていました。
周囲には大学の施設が 建ち並び、緑の深い落ち着いた場所です。

カーンのトラム   TVRの車内です。壁と天井、それに座席が落ち着いた水色で統一されています。手前にある黒い機器が改札機です。
上掲のループ区間で撮影しましたので、ガラス越しに先頭車が写っています。
 
カーンのトラムリレーラ 軌道に車両を出し入れする装置です。Y字の交差部を使って、案内車輪を1輪ずつレールに乗せます。鉄道模型の車両をレールに載せる時に使うリレーラという器具がありますが、これは本物のリレーラです。

架線及びレールをはずれた車両は、付属のディーゼルエンジンで公道を走ります。そのためのステアリング装置(ハンドル)を装備しています。ナンバープレートも付いています。つまり、通常のバスと何ら変わりがありません。トラムと言うよりは、ガイドウェイバス
と呼ぶのがふさわしいかも知れません。但しカーンでは、全区間ガイドレールによる走行なので、バスモードは回送時のみです。

カーンのトラムレール
レールが交差する部分です。レールの断面が見えます。
  TVSの構造
TVR方式の案内車輪には両側にフランジが付いていて、
垂直に上からレールに乗って、レールを挟む仕組みに
なっています。案内車輪を上に移動させると、レールか
ら解放されてバスモードになります。

※2枚の図はWikipediaより転載し、着色を変更しました。
トランスロールの構造   ←(参考) トランスロールの構造
トランスロールでは、レールの断面が六角形で、左右45°の方向から案内車輪がレールをつかむ構造になっています。
簡単に着脱することはできないので、バスモードでの走行は出来ませんが、
脱線しにくい構造が評価されて、多くのユーザーを獲得しています。
 
          「カーン (2)」へ続きます。


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