炎に包まれ、焼け崩れゆく、白亜の神殿-----。
紅く染まる空の彼方に、不吉な黒い影が見える。
その影が、急速にその巨大さを増し、瞬く間に国土を覆いつくしてゆく-----。
*
「……ッ!」
ビクリと大きく身体を震わせ、彼女は目を覚ました。
大きな青玉色(サファイアブルー)の瞳に映ったのは、見慣れた自室の天井-----上質の夜着に包まれた胸をしばらく大きく上下させながら、彼女はやがて、ゆっくりと半身を起こした。
全身に冷たい汗をかいていた。
首筋や頬にまとわりつく長い鳶(とび)色の髪をかきあげながら、彼女はひとつ、息を吐き出した。
また、あの夢-----……。
蒼白い月明りに映し出された部屋の中で、その余韻を思い出し、彼女は細い肩をそっと震わせた。
豪奢(ごうしゃ)な窓の外に見えるのは、いつもと変わらぬ、平穏な夜の風景-----かすかに見える街の灯りが、彼女の心を落ち着かせる。
彼女は近頃、毎晩のように見る同じ夢に不吉なものを覚えていた。
それは、真っ赤に燃え上がる、白亜の神殿の夢-----怖ろしいことに、その映像が夜毎鮮明になってくる。
夢というにはあまりにも生々しくおぞましい、言葉では言い表せない切迫感が、彼女の胸に不吉な思いを募らせる。
これは、本当にただの夢、なのだろうか。
何者かが自分に伝える、警鐘なのではないのだろうか。
不安に思い父に伝えてみたものの、疲れているだけだと、まともに受け止めてはもらえなかった。
「お母様……」
今は亡き母を呼びながら、彼女は右の人差し指にはめたブラックオニキスの指輪に触れた。
母の形見に触れながら、心から祈る-----これが、自分の杞憂(きゆう)で終わることを……。