WizardryONE〜乙女たちの試練場

 

 

 

第4話

 

 

 

 ブルーリボンを手に入れた浩平たちは地下五階から捜索を開始した。

ある程度の情報は冒険者間流れることもあるが核心に迫った情報は自分で手に入れるしかないからだ。

それにダンジョン捜索は非常に危険を伴う。

いきなり地下九階に挑むなど全滅しに行くようなものであったからである。

というわけで浩平たちは地道に各フロアをすべて虱潰しにあたっていった。

 

 

 

 翌日、地下五階にて・・・

瑞佳:「うわっ!?ここ何なんだよ。呪文が使えないよ。」

繭:「みゅ〜!!本当に呪文がつかえないの・・・」

茜:「・・・ここは呪文封じのフロアですから。」

浩平:「・・・それはつまりお前たちが戦力として使えなくなったということか?」

みさき:「私は魔法使わないから関係ないけどね。」

七瀬:「侍は刀と魔法の二刀流が使えるから格好良いのに・・・」

茜:「・・・いったんこのフロアを出れば元のように魔法は使えるようになりますから。」

瑞佳:「里村さん、何で知っているんだよ?」

茜:「・・・私は地下十階まできちんと捜索したことがありますから。」

浩平:「・・・それなら俺らに教えてくれればいいのに・・・」

みさき:「ずるは駄目だよ、浩平くん。」

 

 

 二週間後、地下六階にて・・・

浩平:「・・・ここは一体何処だ?」

七瀬:「ちょっと折原、ちゃんとマッピングしているんでしょうね?」

浩平:「当たり前だ!!しかしここのフロア、似たような構造で方向感覚がわかりにくいんだ。」

みさき:「大丈夫だよ。私がしっかり覚えているからね。」

繭:「みゅ〜、凄いの。」

 

 

 四週間後、地下七階にて・・・

浩平:「うがぁー!!ここは地下六階よりも分かりにくいぞ!!」

七瀬:「ちょっと折原、本当に大丈夫でしょうね?」

浩平:「そ、それは・・・」

みさき:「大丈夫、ここも私がしっかり覚えているよ。」

瑞佳:「・・・浩平、マッピングみさき先輩に代わってもらったら?」

繭:「みゅ〜、同感なの。」

茜:「・・・その方がよろしいようですね。」

 

 

 六週間後、地下八階にて・・・

浩平:「ようやく実力で此処まで来ることが出来るようになったな。」

七瀬:「本当よね。この前は絶望的な状況で此処まで来たけど今回は安心していられるわ。」

瑞佳:「本当だよ。それにしてももうずいぶんと経つよね。」

繭:「みゅ〜、何だか懐かしいの。」

みさき:「やっぱり普通に来た方がいつでも帰られるから安心できるよね。」

茜:「・・・もう私がマラーでみなさんをお連れする必要はありませんね。」

浩平:「よし。あの時はかろうじて逃げるだけだったが今回はしっかり捜索するぞ。」

茜を除くみんな:「「「「応!!!」」」」

 

だがそうは上手くいかなかった。

 

 「うわぁー!!」

足下がふわりと動いた感じと共に浩平は大声をあげるとその場でこけた。

すると浩平の身につけていた鎧がぶつかり合い、周囲に金属音が鳴り響く。

「何やっているのよ、折原。」

馬鹿にしきったような表情で七瀬は浩平を見下ろし、一歩踏み出した。

すると七瀬も同じようにその場でひっくり返った。

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・な、何よ、文句でもあるの?」

地面にひっくり返った無言のまま浩平がじっと七瀬の顔を見つめていると七瀬はプイと横を向いた。

「二人とも大丈夫?」

心配そうに瑞佳は声を掛ける。

そこで浩平は頼んだ。

「・・・大丈夫だが起きあがるのが大変だから手を貸してくれ。」

身につけたプレートメイルが重いので起きあがるのが面倒なのだ。

「わかったよ。それじゃあみさき先輩に里村さんに繭も手伝ってよ。」

浩平と七瀬の二人はみんなの手を借りて起きあがったのであった。

 

 「それにしても一体何だったんだ?」

浩平はあちこち痛む打ち身を撫でながら言った。

すると七瀬もうんうんとばかりに頷く。

それに対して床を調べていた盗賊のみさきは言った。

「ここは回転床だよ。」

「「回転床!?」」

みさきの言葉に浩平と七瀬の二人の声は思わずはもった。

回天床は今までにも幾つかあったのだが転倒するようなことはなかったからである。

だからそのことを浩平は言ってみたのだがみさきは決して自説を曲げようとはしなかった。

 

 「絶対にこれは回転床だよ。もし違っていたらご飯一食抜いても良いよ。」

その言葉にパーティー全員はみさきの言葉を信じた。

なんせ違っていたら一食抜くとみさきが言うぐらいなのだ。

これはつまり相当自信がある、ということなのだろう。

だが回転床ぐらいで熟練した冒険者が転倒するであろうか?

否、そのようなことはまずあり得ない。

そこで浩平は瑞佳に頼んでロミルア(増光魔法)を唱えさせた。

これで一気に視界が広がる。

そしてそこで目にした光景に四人は息をのんだ。

なんと部屋一面に回転床がびっしりと敷き詰められていたのだ。

今までは通路に一カ所、ポツンと置かれているだけであったのにいきなりこれである。

まさに圧巻といわんばかりの光景であった。

 

 

 「だから転けたんだな。」

浩平は目の前の光景に納得したように頷いた。

これでは方向感覚を失い、転倒するのは当たり前のように思えたからである。

だが種も分かってしまえばそれほどのことではない。

浩平たちは慎重に足場を確認しつつ地下八階の捜索を続け、また現れたダークゾーンに悩まされつつも何とか地下八階の捜索を終えたのであった。

 

 

 

 「いよいよ九階だな・・・。」

浩平は緊張した面もちでパーティーのメンバーたちにそう言った。

すると瑞佳と七瀬の二人だけがうんうんとばかりに首を縦に振った。

だが緊張しているのはっその三人だけであった。

みさき先輩と繭の二人はいつものようにマイペース、茜は地下十階まで行ったことがあると言ったようにすっかり落ち着き払っている。

そんな三人を見た浩平は緊張しているのがばかばかしく感じ、いつもの平常心へと戻った。

「それじゃあ地下九階に下りるぞ!!」

浩平はそう叫ぶと『ポチっとな』とばかりにエレベーターの一番下のボタンを押したのであった。

 

 

 地下九階へと足を踏み入れたパーティーはとりあえず右側から探索することにした。

特に理由など無いのだがこれは浩平たちにとってはいつものパターンである。

セオリー通りにやることこそが安全、という訳だ。

と言うわけで浩平たちは地下九階の探索を開始した。

 

 

 

 地下九階のモンスターは格別なほど強いものではなかった。

大抵出てくるのは他のフロアでも出てくるお馴染みのモンスターばかり。

たとえばエナジードレイン能力を持つヴァンパイアや低級悪魔レッサーデーモン、前にはだいぶ苦戦したワイバーンや魔法も使えるオーガロードに強靱な回復能力を誇るトロルなどなど。

昔に比べてすっかり腕前も上がり、強力な武器や魔法を使えるようようになったパーティーの敵ではなかったのだ。

次々と炸裂するラハリトやマダルト、ロルト(僧侶系攻撃魔法)が次々とモンスターをまとめて痛めつけ、そこに浩平のカシナートの剣、七瀬の乙女丸、みさき先輩のダガーが切り刻むのだ。

ちなみに最初の頃は手助けしてくれなかった茜も今は普通に参加してくれる。

どうやら浩平たちのレベルが充分なところまで達したと認めてくれたらしい。

だから浩平たちパーティーは楽々と地下九階を攻略していった。

 

 

 

 「・・・一体どこから進めばいいんだ?」

浩平は困ったようにつぶやいた。

なぜならば階段やエレベーターを全く見つけることが出来なかったのだ。

どんなに捜しても有るのは普通の部屋と通路だけ。

それ以外の所は全てワープゾーン。

まったく地下十階に進むべき術が分からなかったのである。

するとみさき先輩が手を挙げた。

「浩平くん、ちょっと良いかな?」

「はい、どうぞ。」

浩平は即座に頷いた。

こういったときのみさき先輩の直感は凄いものがある。

だから浩平はみさきの言葉を即座に受け入れることにしたのだ。

 

 

 「あのさっきそこで見つけたシュート(落とし穴)から飛び降りてみたら?」

みさき先輩の言葉に浩平は成る程と頷いた。

たしかにそれなら間違いなく地下十階には下りられるであろう。

しかし戻る術も持たずに地下十階に下りるのは正直言えば気が進まなかったのだ。

だが階段やエレベーターが無ければそうも言ってはいられない。

それに今やマラー・ロクフェイトの使い手は何人もいるのだ。

いざとなれば帰還出来る手段は確かにある。

そこで浩平はみさき先輩の進言通りにすることにした。

「わかった、そうしてみよう。」

浩平は頷くとさっそくシュートへと足を進めようとした。

すると誰かが浩平の歩みを止めさせた。

何事かと思い振り返るとそれは瑞佳であった。

 

 「・・・何だ、長森?」

浩平の言葉に瑞佳はいつもの笑顔のまま言った。

「今日はいったん街に戻ろうよ。私も繭も里村さんも魔法のストック、半分きっているんだよ。」

「なるほど。」

瑞佳のもっともな進言に浩平はまたまた頷いた。

確かに始めの所に行くのに万全の準備をしておくのは基本である。

そこで浩平たちはとりあえず今日の所は街に戻り、体を休めて明日挑戦することにしたのだ。

 

 

 「それじゃあ帰るとするか。」

そう言うと浩平はエレベーターまで直行になっている部屋の扉を無造作に開けた。

思えば帰ると言うことで気がゆるんでいたのであろう。

いきなりモンスターが現れたのだ。

しかもパーティー全員が全く戦闘準備をしていないところである。

いきなり先制攻撃を食らってしまった。

 

 

 「バディアル!!」

敵であるレベル8プリーストの唱えた魔法によって発せられた呪いの言葉が浩平たちを襲う。

たちまちパーティー全員が傷だらけになってしまった。

そしてレベル10ファイターはいきなり剣で斬りつけてくる。

不意を付かれた浩平と七瀬はその攻撃を避けきれずに受けてしまう。

「痛て!!」

「やったわね!!」

思わず呻き声を上げてしまうがすぐに二人は立ち直った。

すぐに武器と盾を構えて敵に反撃体制を整える。

ちなみにみさき先輩はひょいひょい攻撃を交わしてはダガーで敵に傷を負わせている。

そして浩平たちの反撃が始まった。

 

 

 「ティルトウェイト( 熱核攻撃魔法)!!!」

茜の唱えた魔法一発で勝負は付いた。

 

 

 「・・・私に傷つけるなんて許せません(怒)。」

呆然としている浩平たちを後目に茜はそうつぶやくと自らに治癒魔法をかける。

意外な展開に浩平たちはただ黙っているしかない。

そしてふと我に返ると五人は茜に聞こえないように小声で話し始めた。

 

 「里村さんてああいう人だったんだね・・・」

「ああ、俺も知らなかった。外見からはちょっと想像できないな。」

「みゅ〜、怖いの。」

「・・・真の乙女ってやはりそうそういないのね。ほっとしたわ。」

「何々?一体何があったの?」

 

 そうこうしているうちに治癒魔法がかけ終わったらしい。

茜は振り返るとみさき先輩に言った。

「・・・宝箱があるみたいですけどよろしいのですか?」

その口調からはさっきまでの怒りというか何というか。

まあそう言った気配は全く感じられずにいつもの茜に戻っていた。

「ああ、そうだね。分かった、調べるよ。」

みさき先輩はてこてこと炎で焼けてすっかり黒ずんだ宝箱の前に屈んだ。

そして盗賊七つ道具を手に取ると調べ始める。

やがて罠を解除して宝箱の中からアイテムを数点取り出した。

「茜ちゃん、鑑定よろしくね。」

そう言うとみさき先輩はいつものように茜にアイテムを手渡す。

すると茜もいつものようにアイテム鑑定を始めた。

 

 

 「・・・今回は随分時間がかかるな。」

茜の鑑定を見ていた浩平はそうつぶやいた。

すると七瀬が頷いた。

「もしかするととんでもないアイテムが入っていたんじゃないの?たとえばムラマサとかね。」

「馬鹿言え。どう見てもムラマサらしき刀なんぞ入っていなかったぞ。」

「それはそうだけど。」

二人が話していると鑑定が終わったらしい。

茜は瞑想をとくと大きく息を付いた。

 

 

 「今回はどんなアイテムが入っていたんだ?」

浩平がそう尋ねると茜は言った。

「・・・ヘルム+1にマカニトの護符、ディアルの薬に盗賊の短刀です。」

「「「「「盗賊の短刀!?」」」」」

茜の鑑定結果に五人は思わず喜びの声を上げた。

 

 

 盗賊の短刀。

それは盗賊が装備できる最強の武器である。

それと同時に悪の属性に所属した者でなければ転職できない忍者にも、何ら身体的能力を落とすことなく転職できるという非常にすばらしいアイテムなのだ。

それゆえにボルタック商店では50000GPという大金で取り引きされているのである。

だがその特質故に店先に並ぶことはなく、発見次第その力を使って転職するのが常なのであった。

 

 

 というわけで盗賊の短刀は即座にみさき先輩に手渡された。

そして受け取ったみさき先輩は担当を鞘から抜き払う。

そして目をつぶると(別に目をつぶる必要はないのだが)瞑想しているかのように構える。

 

 (いよいよ転職か・・・?)

その時みさき先輩は目を開けると茜に尋ねた。

「茜ちゃん、忍者に転職するにはどうしたらいいのかな?」

その言葉に浩平たちは思わずずっこけた。

「「「先輩〜!!」」」

「ごめんね、みんな。期待させちゃって。でもやり方分からないから。」

「・・・わかりました。おれではやり方を教えます。」

茜はそう言うと盗賊の短刀の使い方をみさきに説明し始めた。

 

 「短刀をしっかり握って心から忍者になりたいと念じてください。そうすれば短刀に封じ込められた魔力が解放されますから。」

「わかったよ。」

みさきは言われたとおりに心から念じた。

すると短刀が突然光を放った。と思うまもなく短刀の刃がどす黒く代わり、そして音もなく崩れ去った。

「これで私も忍者だね♪」

こうして浩平たちのパーティーは戦士系3人に魔法使い系3人というバランスの非常によいパーティーになった。

 

 

 「良いな、みさき先輩。私も転職しようかな・・・。」

今やすっかり熟練した僧侶となり、全ての魔法を拾得済みの瑞佳がそうつぶやくとやはり同じく全ての魔法を拾得した魔術師である繭も同調した。

「みゅ〜♪繭も転職したいの。」

そこで浩平はふむふむと頷きながら答えた。

「別に構わんぞ。5歳年齢が上がってパーティーの最年長者になるを気にしないと言うのならな。」

その言葉に瑞佳と繭は即座に反応した。

「やっぱりいいよ!!今転職するとみんなの迷惑になるもん。」

「みゅ〜!!浩平お兄ちゃんがお兄ちゃんじゃなくなるのは嫌〜!!」

結局二人は僧侶と魔術師のまま、と言うことになった。

 

 

 「ところで私は何を装備したら良いのかな?」

なりたて忍者のみさき先輩の言葉に浩平は言った。

「別に裸で良いんじゃないか。」

すると音も立てずに迫り来た五本の腕が浩平を襲いかかった。

そしてズシャ!!という見事な音とともに浩平の首が吹っ飛んだ。

 

 「わっ!浩平が死んじゃったよ!!」

「みゅ〜!!どうしたらいいの?」

「一体何事なのよ?」

「・・・これって私のせい?」

みさきは浩平の首を見事に吹き飛ばした手首を見ながら(どうやって?)つぶやいた。

すると茜が頷いた。

「・・・みさき先輩は今や忍者なんですからつっこみは注意してください。クリティカルが出たらこのように死んでしまいますので。」

「わかったよ、今度からは注意するね。ところで浩平くん、どうしようか?」

「私が生き返らせるんだもん。一度カドルド(蘇生魔法)使ってみたかったし。」

そう言うと瑞佳はカドルドの魔法を唱えた。

だが浩平は生き返らず灰になってしまった。

 

 「わっ!どうしよう。次失敗したら浩平、ロストしちゃうよ。」

すっかり瑞佳はあわてふためいている。

そこでこういう状況には慣れてる茜が言った。

「・・・とりあえず街に戻りましょう。そしてカント寺院で蘇生して貰えばいいのですから。」

「そ、そうだね。それじゃあ早く戻ろうよ。」

そこで五人の少女たちは灰になった浩平を回収してリルガミンの街へと戻ったのであった。

 

 

 そしてようやくと浩平は生き返させてもらえたのであった。

無論その後は皆に奢らされたのはいうまでもない。

 

 

 

ただいまのパーティーの構成

 

 

 

七瀬留美         侍      LV.14    中立

折原浩平         戦士     LV.16    善?

川名みさき        忍者     LV.20    中立

長森瑞佳         僧侶     LV.15    善

椎名繭          魔術師    LV.15    善

里村茜          司祭     LV.36    善

 

 

 

あとがき

休みの間にちょこちょこっと書きつづっていますが本当に暇がない。

本当にお仕事は大変です。

 

2001.06.10

 

 

感想のメールはこちらから



第05話へ続く