WizardryONE〜乙女たちの試練場

 

 

 

第5話

 

 

 

 「はぁ〜、それにしても昨日は酷い目にあったぜ。」

地下九階へのエレベーターの中で浩平は昨日はねとばされた首を撫でながらそうつぶやいた。

するとみさき先輩が顔を真っ赤にして叫んだ。

「あれは浩平くんがいけないんだよ。裸なんていうから・・・」

だが浩平はその意見に反論した。

「でもよ先輩、忍者の醍醐味ってそういうもんだろう。」

浩平は忍者の力について話し始めた。

 

 忍者。

原則的には悪の属性専門の上級職である。

無論例外はあり盗賊の短刀を使えば他の性格の持ち主でもなることはできるが。

まあ忍者というのはかなり特別な職業なのだ。

それはクリテイカルヒットの存在である。

クリティカルヒットはどんなに体力があろうとも急所を突くことで一撃で敵を仕留める。

これだけ聞くと非常に良いことずくめのように聞こえるが無論制約はある。

すなわち忍者がこの力を発揮するにはいかなる武器や防具に頼ってはいけないのだ。

自分自身の力を完全に引き出すことが出来る者だけが出来る技なのだ。

昨日浩平が食らったようにみさき先輩はなりたて忍者のくせにクリティカルを放つことが出来る。

これはみさき先輩の能力の高さを表している。

だから浩平は裸を薦めたのだ。

ちなみに高位の忍者はふんどし一丁が基本装備なのは珍しくない光景である。

 

 

 だがそんな浩平の力説もむなしくみさき先輩は決してそのような格好になろうとはしなかった。

力を込めてめいいっぱい拒絶する。

「やっぱり嫌だよ。裸なんて恥ずかしいもん。」

「みさき先輩!!恥ずかしいなんて言っていられないんだぞ。リルガミンの街を守るためなんだから!!!」

「で、でも・・・・浩平くんの目がいやらしいし・・・・」

「はっ!!」

浩平は慌てて表情を引き締めた。

どうやらみさき先輩の裸を脳裏で描いていたのが顔にも出てしまっていたらしい。

って一体どうやってみさき先輩は浩平の顔つきを知ったんだ!?

 

 浩平はあらためてみさき先輩の奥深さを知ると共に声をトーンダウンさせた。

「別に下着だけになれ、っていっているんじゃないだ。まあ武器と防具を身につけにだけの話だよ。」

「・・・それなら良いけど・・・」

とりあえずそこで話はまとまり、みさき先輩の裸はお預けとなった。

 

 

 九階に着くと浩平たちはエレベーターを出てすぐの左側の扉を開けた。

するとモンスターが襲いかかってくるがそれはもう計算済み。

たちまち浩平たちに切り刻まれて死に絶えた。

 

 「それじゃあ行くぞ。」

見た目には分からないが間違いなくそこにあるシュートの前で浩平がそう言うとみんなは頷いた。

そこで浩平はシュートにめがけてジャンプする。

すると足下の感覚が無くなり、そのまま一気に落下していった。

 

 

 

 地下十階。

そこは恐ろしいモンスターで溢れていた。

無論地下十階以外にも登場するモンスターだがその数が半端ではなかった。

とにかく地下九階までならば一匹か二匹で出てきたモンスターが徒党を組んで現れるのだ。

その驚異たるや半端ではなかったのである。

 

 ほとんどの魔法を無効化させ強力な魔法の使い手である上級悪魔のグレーターデーモン。

ピエロのような不気味な外見とドレイン以外の全ての能力を兼ね備えたフラック。

極めて高位な魔法を使うハイウィザード。

魔術師と僧侶の魔法を使いこなす最強の戦士レイバーロード。

その昔滅ぼされたという神の分身であるマイルフィック。

強力な冷気を身にまとった巨人であるフロストジャイアント。

全身が腐りきり、強力な毒をその身にため込んだポイズンジャイアント。

他にも今までならばトップクラスの強敵であったヴァンパイアやレッサーデーモン、ドラゴンゾンビにマスターニンジャなどなど。

 

 

 その強力さ故に浩平たちは二三回戦闘を行ってはワープゾーンでリルガミンの街へと戻る生活を強いられることとなったのであった。

むろんその分経験値も豊富なのでレベルアップに拍車がかかる。

さらに強力なアイテムも手に入るようになる。

パーティー全員のことを考えれば決して悪い話ではなかった。

 

 銀の小手・ドラゴンスレイヤー・ワースレイヤーカシナートの剣・シールド+1・シールド+2・氷の鎖かたぴら・中立の鎧などなど。

こういった素晴らしいアイテムが次々と手にはいるのだ。

むろんこれだけではなく手裏剣・悪の鎧+3・悪のシールド+3・悪の兜+2など悪属性専門のアイテムも入手していた。

非常に素晴らしい武器・防具なのだが残念ながら異なる属性の者が身につけると呪われてしまうので戦力とはなり得なかった。

それでも浩平たちは新しく手に入れたこれらを装備することで着実に戦力アップしていった。

 

 

 そしてそんな事を繰り返していたある日のこと。

いつものように強力なモンスターを倒したパーティーはその残した宝箱からとてつもなく素晴らしいアイテムを見つけた。

君主の法衣である。

それは侍のムラマサに匹敵する超伝説級の最高アイテムの一つであり君主専用のアイテムだ。

純白の生地で作られた豪奢な法衣は神聖な力を秘めており、正しい心を持つ君主が装備すれば完全なる防御力を発揮し、またその秘められた力は非常に優れており身につけた者の傷を癒し続けるのだ。

また魔法への抵抗力も非常に高く、さらにクリティカル能力を装備者は得ることが出来る。

攻守にわたって非常に優れたアイテムであり、それだけに君主にとってはまさにあこがれの的なのであった。

 

 

 「・・・君主の法衣・・・やっぱり凄いんだよ。」

その圧倒的なまでの存在感に瑞佳がそう漏らすと七瀬は頷いた。

「確かにその通りよね。私も中立でなければ君主を目指したかも知れないんだけど。」

その時、今まで黙り込んでいた浩平が叫んだ。

「俺は君主に転職する!!」

その言葉に皆は「やはりか」と言わんばかりに溜息をつくと頷いた。

「やはり折原はそう言うと思っていたわ。」

「うんうん、私も七瀬さんと同感なんだよ。」

「みゅ〜、浩平格好いいの。」

「良いんじゃないかな。回復魔法の使い手が増えるのは喜ばしいことだしね♪」

「・・・それでしたらこれをどうぞ。」

浩平の言葉に茜は一つの指輪を取り出した。

 

 

 「・・・これは?」

浩平の言葉に茜は言った。

「・・・これは変化の指輪と言いまして君主に転職するためのアイテムです。」

「・・・そんな便利なアイテムがあったんならもっと早く出してくれ!!」

浩平は思わず叫んでしまった、がこれは無理もあるまい。

たとえ君主の法衣がなくても戦士が君主になるだけでも十分な戦力アップに繋がるからだ。

すると茜はあっさりと受け流して言った。

「・・・この物語は一応TをベースにしていますからUのアイテムを気軽に出すわけには行かなかったのです。」

「・・・あっそ。もう良いから変化の指輪をくれ。」

その言葉に茜は指輪を手渡したので浩平は受け取った。

 

 「使い方は盗賊の短刀と同じだよな。」

浩平がそう言うと茜は頷いた。

そこで浩平はみさき先輩が忍者に転職した時の姿を思い浮かべながら君主になりたい、と心から念じた。

すると指輪からまばゆい光が解き放たれ、浩平は君主へと転職した。

ちなみに今や変化の指輪はその存在を一切残していなかった。

 

 

 「これで俺も君主になったわけだ。」

浩平は君主の法衣を着込みながら満足げにつぶやいた。

そしてそんな様子を見ている瑞佳と七瀬はひそひそと囁きあった。

「・・・わたし浩平が君主の法衣を着られるなんて思ってもいなかったよ。」

「私もそう。というよりも何で折原の奴は善な訳?」

「よくわからないんだよ。でも訓練所で浩平、そう言われたし何より今ああして君主の法衣を着ているわけだし。」

「世も末よね。あいつが君主になれるなんて絶対にどうにかしているわ。」

 

 

 こうして君主がパーティーに加わったことで戦力は大幅に増加された。

しかしだからといって戦闘が無茶苦茶楽になったと言うことはなかった。

ようはそれだけ地下十階に出てくるモンスターが強いわけだ。

それでも浩平たちは毎日のように地下十階に通い詰め、一歩一歩確実にゴールへと近づきつつあるのであった。

 

 そして二週間が経過した・・・。

 

 

 いつものように強力なモンスターを始末した浩平たちはある宝箱を発見した。

外見そのものは何ら平凡な代物。

しかし中からにじみ出てくる独特の気配・・・、これがただ者ではなかったのだ。

そこでみさきもいつもよりも慎重に罠解除を行う。

やがて罠は解除され宝箱は開け放たれた。

すると中から一振りの日本刀が出てきた。

浩平たちは今までに七瀬の乙女丸を初めとして様々な日本刀を見てきた。

しかしこの刀はあきらかに別格の代物であった。

蒼白く輝く刀身、圧倒的なまでの存在感・・・。

 

 「・・・ムラマサですね。」

茜の鑑定結果に五人は身震いした。

「これがムラマサか・・・。さすがに凄いな・・・。」

「みゅ〜、怖いぐらいなの。」

「ふ〜ん、何だかよく分からないけど凄いね。」

「ふふふふふっ、これで私もムラマサ使いなのね・・・。ああ!!早くモンスターを斬り刻みたい!!!」

「な、七瀬さん・・・発言内容が乙女らしくないんだよ。」

 

 

 鬼に金棒、七瀬にムラマサというわけでこうしてパーティーの戦闘力は飛躍的に増大したのであった。

 

 ちなみに現在のパーティーの装備は以下の通り。

七瀬の装備はムラマサ、中立の鎧、シールド+3、ヘルム+1,銀の小手。

浩平の装備はカシナートの剣、君主の法衣、シールド+2、ヘルム+1,銀の小手。

みさき先輩は無装備。

瑞佳の装備はメイス+2、ブレストプレート+3,シールド+2,マラーの冠。

繭の装備はモンティノの杖、ローブ、マラーの冠、回復の指輪。

茜の装備は前と代わらずメイス+2,レザーアーマー+2,スモールシールド、マラーの冠である。

完璧とまでは言わないが殆ど完全装備状態。

他のパーティーなどとは比較にならない状況だ。

しかも浩平たちは着実に経験を積み、しかも魔法も完全に習得済み。

もはや浩平たちに勝てるようなモンスターは存在しなくなったのだ。

そこで浩平たちはとうとう最終決戦目指してダンジョンに突入することにした。

 

 

 

 「いよいよ最終決戦だな。」

ラスボスであるワードナーがいるはずの部屋の前の扉で浩平がそうつぶやくと皆は頷いた。

「いよいよ私の名前を天下に知らしめるときが来たのね。うふふふ。」

不気味に笑ったのは七瀬である。

自分の名前がリルガミン中に知らしめることが出来るのを真の乙女になれるとでも勘違いしているのであろう。

そして繭はいつものように「みゅ〜」「みゅ〜」言っている。

そして瑞佳はそんな繭を母親のように抱きしめては

「大丈夫だよ、繭。今の私たちに敵うモンスターなんかいなんだよ。」

と慰めている。

そしてみさき先輩は褒美としてもらえるであろう大金に妄想をふくらませていた。

「ああ、楽しみだよ。賞金を貰ったらリルガミンだけでなくて世界中の料理を食べ歩こ♪」

そして茜はいつものように無口のまま、しかしやはり顔つきがちょっとだけ違う。

心の内では何かやはり妄想を考えているのであろう。

 

 

 「・・・みんな、準備は良いか?」

カシナートの剣を構えながら言った浩平の言葉にみんなは頷いた。

そして七瀬はムラマサを抜くと右肩に担ぐ。

茜と瑞佳の二人はメイス+2でいつでもモンスターを殴れるよう腰から外す。

繭はモンティノの杖を体の正面で構える。

ただ一人みさき先輩だけは何も持たずに身構える。

そして六人は顔を見合わせると頷くと六人は一斉に扉の中へとなだれ込んだのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これで今回の物語は終了である。

彼、彼女たちは見事に悪の魔術師ワードナーを討ち取った。

そして魔法の護符を見事に奪い返したのである。

この魔法の護符はこの後数奇な運命をたどり、ここリルガミンに事件を再び巻き起こしたがそれはまた別の話である。

 

 冒険者たちに幸いあれ!!

 






 

 

 

あとがき

 「WizardryONE〜乙女たちの試練場」は今回で完結です。

初めは全10話ぐらいの話を用意していました。

茜がなぜ一人でダンジョン内に潜り込んでいる?、とか雪見&澪はなぜ酒場を経営しているの?とか住井は何故出てこない?とか詩子は?由起子さんは?とか。

一応予定してはいたのですが良いネタが思いつかないのでオミットしてしまいました。

 実はこの話はWIZ−SSとして書くつもり(特にUを)予定だったんですが合体させてしまいました。

個人的に設定は良かったと思います。

ストーリーに反映できなかったのは残念ですが。

次回からはまた「機動警察Kanon」に戻ってやりますね。

 

 

2001.06.12

 

 

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