WizardryONE〜乙女たちの試練場

 

 

 

第3話

 

 

 

 なぜ“狂王の試練場”が“乙女たちの試練場”へと名前を変えるに至ったのか。

それには主たる要因があった。

それはダンジョンに挑む者が男よりも女の方が圧倒的に多かったからである。

むろん初めからそういう風だった訳ではない。

最初の頃はやはり男の方が冒険者は多かったのだ。

だがこの乱世の世のこと。

男たちの多くは戦場へとかり出され戦場へ行く。

それ以外の男たちは官吏や農家など力仕事へと移っていった。

そこで必然的に社会的地位が低く、社会進出の進んでいない女性たちが冒険者へとなり始めたのである。

なんせ冒険者は一発当てれば大きかったのだ。

 

 

 

 

 翌日、浩平たちは六人でダンジョンへと足を踏み入れた。

まず目指すはモンスター配備センターである。

ここで昨日、酷い目にあった時の教訓から早々にブルーリボンを入手することにしたのだ。

ちなみにここに進入するには熊の置物が必要であるが浩平たちはすでに獲得済みである。

 

 「それではマポーフィック(防御魔法)とラテュマピック(モンスター識別魔法)を・・・。」

茜の言葉に浩平たちは頷いた。

危険にならない限りは手を出さない、という約束で仲間に入ってくれた茜ではあるがこういうサービスありのようだ。

無論、誰も文句をつけたりはしない。

というわけで魔法を唱え終わったところで浩平たちは普段よくダンジョンの通路を歩き始めた。

 

 

 「ここを突っ切るのか・・・・。」

浩平はそうつぶやいた。

目の前には完全に視界を遮るダークゾーンが広がっている。

今まではあまりに広いダークゾーンであったために途中で引き返してしまっていたのだ。

だがすでに階段で行けるところはあらかた行き尽くしている。

とならば新たな活路を見出す為には危険も仕方がない、というわけなのである。

 

 

 「それじゃあ行くか・・・」

浩平の言葉に茜を除く四人は頷いた。

そして全ての光を遮るダークゾーンへと足を踏み入れる。

 

 

 

 「みゅ〜、暗くて怖い〜!」

「本当・・・、ちょっとこういう雰囲気は慣れないわね・・・・」

「そのとおりだよ。私もちょっと嫌だよ・・・・」

パーティーの女の子三人の言葉に浩平は口にしようとしていた言葉を飲み込んだ。

一応彼にも見栄というものも存在するのだ。

そこで浩平は何も言わないみさき先輩に声を掛けた。

「なあ、みさき先輩はどうだ?やはり長森なんかと同じでダークゾーンは嫌か?」

するとみさき先輩は首を横に振った。

「うんん、平気だよ。だって私には関係ないからね♪」

「・・・そういえばそうだっけ。」

浩平はみさきの目が見えないことをすっかり忘れていたのだった。

なんせダンジョン内を普通に歩き回り、宝箱の罠を解除し、モンスターの攻撃をひょいひょいかわすのだから無理もあるまい。

っとそこで浩平はあることに気が付いた。

「それじゃあ先輩、ここの先導というか案内できるか?」

「うん、もちろんだよ。私にはダークゾーンなんて関係ないからね。」

そこで浩平たちはみさき先輩に先導されてダークゾーンを突破したのであった。

 

 

 

 ダークゾーンの先には小さい小部屋があった。

まったくの正方形で部屋の大きさはせいぜい四畳ぐらいだろうか?

とにかく入ってきた入り口しかない不可思議な部屋であったのだ。

 

 

 「ここは一体何なのかしら?」

七瀬は不思議そうな顔でそう言った。

確かに一見すると何の変哲もない小さな小部屋だ。

しかしダークゾーンの一番奥にポツンとある部屋が何にもないと言うことはあるまい。

そこで浩平たちは手分けして部屋を調べてみることにした。

すると壁に小さなボタンが四つ並んでいる事に気が付いた。

「・・・これはいったい何だ?」

浩平は初めて見る何かに不思議そうな顔をして尋ねてみた。

しかし誰も答えることは出来ない。

みんなこのボタンがなんなのか分からないのだ。

とそれまで黙りこんでいた茜が口を開いた。

「・・・この部屋はエレベーターです。」

「「「「「エレベーター!?」」」」」

茜の言葉に五人は一斉に声を上げた。

まったく聞いたことがない言葉であったからである。

「・・・そうです。このボタンをこのように押しますと。」

そう言って茜は壁の上から二番目のボタンを押した。

すると五人にちょっとした違和感を与える、がすぐに収まった。

しかしこれと言って変わった様子はない。

相変わらずの小さな部屋のままである。

「一体何が変わったんだ?」

浩平の言葉に茜は部屋の扉を大きく開け放った。

するとそこにダークゾーンはなく、二個の扉が並んでいるのが目に付いた。

「・・・ここは一体何処なんだ?」

浩平の言葉に長森はすぐにデュマピックの魔法を唱えた。

そして驚いたように叫んだ。

「こ、浩平!!ここ地下二階だよ!!!それもどうしても行けなかった空白の部分!!!」

 

 そう、このエレベーターというのは階段ではないものの別のフロアーに移動できる施設であったのだ。

 

 「この上から二個目のボタンを押したら二回と言うことは三個目・四個目はやはり三階・四階に?」

浩平の言葉に茜は頷いた。

「それじゃあ今度からはいちいち階段を使って下まで降りなくても良いだ。」

七瀬は嬉しそうに言ったがこれはまあ無理もあるまい。

なんせ鎧に盾に武器、さらに道具や食料を持って階段を上り下りするのは非常に難儀なことなのだから。

「まあそう言うことになるな。それよりここ二階から捜索開始するぞ。」

というわけで浩平たちはブルーリボン獲得のために行動を開始した。

 

 

 

 二階は何もなかった。

小さな部屋が二つあるだけであり、何の関係もなかったのだ。

ただ二階のマッピングが完了しただけなのであった。

 

 三階も似たようなもので何もなかった。

ただちょっと大きめなフロアーをグルグル回されるだけ。

結局はモンスターとやり合うだけであったのである。

 

 そして最後の四階。

ここにはエレベーターの北と南に通路があったのである。

これではどっちに進んだら良いのか皆目見当も付かない。

そこで浩平はみんなに尋ねてみた。

「なあ、どっちに進んだら良いんだ?」

と。

すると茜を除く四人は口々に自分の意見を述べ始めた。

「う〜ん、私にはちょっと分からないわね。」

「みゅ〜、コインの裏か表かで決めたら良いと思う。」

「あっ!繭ちゃんの意見良いね。私もそれにしよ♪」

「う〜ん、私にも分からないんだよ。繭の意見で良いんじゃないかな?」

そこで浩平はコインの裏表でどっちに進むのか決めることにした。

ちなみにコインの表が北、裏が南ということに決めた。

それから一枚の銅貨を取り出すと天井高く飛ばした。

コインはくるくる回転しながら落ちてきたので浩平はそれを受け止めると見た。

するとコインは表を指していた。

「それじゃあ北から捜索するぞ。」

浩平の言葉にパーティーのみんなは頷いたのであった。

 

 

 北に進み始めたパーティーはやがてドアにぶち当たった。

そこで万全の戦闘準備を整える。

なぜならば扉の向こう側にはモンスターが待ち伏せしている可能性が非常に高いからだ。

 

 先頭に刀を抜いて構えた七瀬がつき、その次が浩平、みさき・長森・繭・茜と続く。

「行くわよ。」

七瀬の言葉に五人は声を立てずに頷いた。

その様子を確認した七瀬は扉を蹴破る。

そして六人は一気に扉の向こう側へとなだれ込んだ。

するとそこには急襲であたふたして行動出来ないモンスターたちがいた。

もちろん相手が態勢を整える暇など与えてやる必要はない。

そこで七瀬と浩平は相手が立ち直る前に攻撃、あっという間に全滅させた。

 

 

 「・・・一体どっちなんだ?」

モンスター配備センターへと足を踏み入れた浩平たちは悩んでいた。

なぜならそこからは三方向へと進むことが出来る。

すなわち正面と右手と左手、以上がそうでありいずれの方向にも扉があるのが見える。

しかし迂闊に動くわけには行かない。

仮にもここはモンスター配備センター、モンスターはウジョウジョいるのだ。

 

 「とりあえず片っ端から開けて調べてみたら?」

七瀬の言葉に浩平は反論した。

「馬鹿言え!確かにここいらのモンスターはそんなに強くはないがそれでも回数相手にするのはしんどいぞ。」

その言葉に七瀬はうぐぅ!と黙り込み、瑞佳はうんうんと頷いた。

ちなみに繭はよく分かっていないようだ。

するとみさき先輩が手を挙げて提案した。

「私はこっちの右側だと思うよ。だってこっちの方が怪しい気配、プンプンするからね。」

勘にかけてはパーティーNO.1のみさき先輩の言葉に行動は決した。

 

 

 浩平たちは慎重にそろそろと足を進める。

これは無論、奇襲をかけて優位に戦闘を進めるためである。

だがそうは問屋が下ろさなかった。

六人が扉の前に立ったとき、突然ブザーが鳴り響いたのだ。

どうやら奇襲を避けるために警報機が仕掛けられていたらしい。

そこで浩平たちは武器を構えると一気に突入した。

するとそこにはあたふたとこちらをむかえ撃とうとしているモンスターたちの姿があった。

 

 

 浩平たちの目の前にいるモンスターたちはみな人間型であった。

すなわちワードナーに魂を売ったレベル7ファイターとレベル7メイジ、それにハイプリースト。

そしてクリティカル能力をもつハイニンジャが相手だ。

いずれも中堅どころの冒険者にはなかなか手強い相手である。

しかもモンスター共は万全とは言わないまでもそれなりに準備を整えていたのである。

こうして浩平たちのブルーリボンを賭けた戦いが始まった。

 

 

 「みゅ〜、カティノ(睡眠魔法)!!」

「モンティノ(呪文封じ魔法)だよ!!」

繭と瑞佳の呪文が先に発動する。

たちまちレベル7メイジがバタバタと眠りこけ、ハイプリーストは慌てて口をぱくぱくさせた。

これで手強い魔法の使い手を一時的に押さえ込んだわけだ。

しかしそのお返しとばかりにハイニンジャとレベル7ファイターが浩平たちに襲いかかる。

慌てて浩平と七瀬は刀剣や盾を使ってその攻撃を受け流す。

そして反撃に斬りつけるのだ。

だが非常に素早く強いハイニンジャはその反撃をひらりと交わした。

そして強力な手刀をふるってクリティカルを狙ってくる。

「させるか!!」

浩平はそう叫ぶとカシナートの剣を振るった。

するとハイニンジャを胴車に切り裂いた。

それに対して七瀬は次々と襲いかかってくるファイターとハイプリーストを次々ときりきり舞させては斬り殺していく。

ちなみにみさき先輩はカティノで眠りこけているレベル7メイジにとどめを刺すのだった。

 

 

 やがて戦闘は終了し、モンスターたちは全て殲滅した。

そしてその後にはモンスターたちの亡骸と一つの宝箱が残される。

「私の出番だね♪」

盗賊のみさき先輩が喜び勇んで宝箱へと駆け寄っていく。

そしていつものように盗賊七つ道具を使って罠を解除する。

そして宝箱を開けると中から幾つもの正体不明の宝箱が出てきた。

 

 「茜、鑑定を頼む。」

浩平がそう頼むと茜は頷き、鑑定を開始した。

アイテムを手に瞑想する可のように目をつぶっている。

が、やがて大きく頷くと目を開いて息をついた。

「分かりました。これらはブルーリボン・炎のロッド・死の指輪です。」

 

 

 こうして浩平たちはついに地下9階までのエレベーターを使用する権利を得たのであった。

 

 

 

おまけ

茜:「この炎のロッドはいかがしますか?」

みさき:「私が使うよ。どうせたいした武器持っている訳でもないしね。」

浩平:「そうだな。後衛の三人は魔法が使えるんだ、みさき先輩で良いだろう。」

 

繭:「みゅ〜、OKだもん。」

七瀬:「ところでこの死の指輪、どうするのよ!!」

瑞佳:「・・・私、嫌だよ。一歩歩くだけで体力を失っていくアイテムなんて。」

みさき:「捨てちゃえば?」

茜:「・・・250000GPで売れますが。」

繭:「みゅ〜。すごい大金だもん。」

七瀬:「・・・それだけ有ればしばらくはロイヤルスイートで過ごしても大丈夫よね。」

瑞佳:「それはすばらしいんだもん。でも誰が運ぶんだよ?」

 

女性五人は一斉に浩平に視線を向ける。

 

浩平:「な、何だよ!!まさか俺に運べっていうのか!!」

瑞佳:「そうだもん。」

七瀬:「やはりここはリーダーにやってもらわないとね。」

繭:「みゅ〜、繭痛いの嫌だもん。」

茜:「・・・嫌です。私にやれなんて言わないですよね。」

 

こうして浩平は何度と無く死にかけつつ(回復魔法はちゃんとかけてもらった)無事にボルタック商店へと持ち帰り、パーティーは大金を手にしたのであった。

 

 

 

あとがき

ちかごろ仕事が忙しくて思うようにSSが書けません。

はぁ〜、時間が欲しい・・・。

 

 

2001.06.05

 

 

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第04話へ続く