WizardryONE〜乙女たちの試練場

 

 

 

第2話

 

 

 

 とりあえずダンジョンを出た六人は大きく深呼吸した。

ダンジョン内のこもった空気をずっと吸っているとたいていの空気は美味く感じるのだ。

それからおもむろにみさきがにこやかに言った。

「お腹空いたからご飯食べに行こうよ♪」

これはいつものことなので浩平たちは何も言わない。

そのままギルガメッシュの酒場に行こうとする。

と浩平はふと気が付いて三つ編みの少女に言った。

「茜、一緒に来ないか?助けて貰ったし奢るぞ。」

すると茜は速攻で断った。

「・・・嫌です。」

「また何で?」

浩平が尋ねると茜は言った。

「あそこの料理はおいしくありません。甘い物もありませんし。」

茜の言葉を聞いたみさきはその言葉を否定した。

「大丈夫だよ、茜ちゃん。それは先代の話、今のギルガメッシュの酒場はリルガミン一おいしい料理を出してくれるよ。もちろんおいしいデザートもね♪」

「・・もちろん行きます!」

みさきの言葉に速攻、茜は態度を変えたのであった。

 

 

 ギルガメッシュの酒場に着くとそこには多くの冒険者たちが酒を飲み、料理に舌鼓を打っていた。

昔のギルガメッシュの酒場の料理は体操酷い代物であった。

そのころは冒険者の大半が男と言うこともあったし、客が多すぎたので細かいメニューなど用意しても実際に作ることなど出来なかったのである。

しかし冒険者の大半が女へと移行するに連れてギルガメッシュの酒場は廃れていった。

由緒ある冒険者の店とはいえ客のニーズに合っていなくてはつぶれてしまうと言うわけだ。

ところがついこの間、オーナーが変わった。

このオーナーは元冒険者、それも女性であったので客のニーズを痛いほど理解していたのである。

そこでオーナーは豊富なメニューを用意、つねに粗食を強いられる冒険者の為においしい料理を食べられるように改善したのだ。

これでギルガメッシュの酒場の人気は向上、もとの冒険者の店という立場を復活させたのであった。

 

 なぜダンジョン内で食べられる食事は粗食なのか?

なんせダンジョン内では火をおこして料理することが出来ない。

いや別に出来なくもないかも知れないがモンスターに襲われること必至である。

しかもモンスターと戦っている最中に生物だとぐちゃぐちゃになってしまう。

そういうわけで冒険者たちがダンジョン内に持ち込めたのは乾燥させたものと相場がなっていた。

乾パン・干し肉・薫製の類・干し果物、それに水筒に入れた少量のワインなど。

これでは満足に料理を味わうことなど出来ない。

純粋に腹を満たすだけの代物である。

だから冒険者たちはダンジョンの外、すなわちリルガミンの酒場でおいしい、温かいものを食べて鋭気を養うのであった。

 

 

 『いらっしゃい〜なの。』

六人がギルガメッシュの酒場に入ると一人のちびっこいウェィトレスが出迎えた。

そのウェィトレスはなぜかスケッチブックで挨拶しているのだが誰も気にとめようとはしない。

みんなこの少女が喋られない事を知っているのだ。

とは言え初対面の茜だけは理由が分からなかったが。

それでも甘いデザートに目のくらんだ茜はまったく気にしていない。

だからみんな笑顔で言った。

「澪ちゃん、おいしいところいっちょ頼むね♪」

「いつものやつ、忘れないで頼むんだよ。」

「みゅ〜♪テリヤキバーガー〜。」

「・・・甘いのをお願いします。」

「乙女らしいのをよろしくね。」

「今日のお薦めを頼む。」

六人の注文にウェィトレス上月澪はうんうんと頷いた。

そして元気よくパタパタと厨房へと駆けていく。

そんな澪を見送った浩平たちは空いていたテーブルに着いた。

 

 

 「まだかな〜。すごく楽しみだよ〜。」

みさき先輩は心底うきうきした様子で料理が運ばれてくるのを楽しみに待ち望んでいた。

そんなみさき先輩を後目に先客たちはぱくぱく料理を食べている。

たとえば隣の席にいる冒険者たちはイチゴサンデー・たい焼き・肉まん・牛丼にバニラアイスのみが異常に運ばれてくる。

そんな様子を察知してみさき先輩はうらやましげに言った。

「いいな〜。私も早く食べたいよ〜。」

 

 

 『お待たせなの〜。』

やがて澪が両手に抱えんばかりの料理をテーブルまで運んでくる。

もちろんみさき先輩の注文が圧倒的に多いのは言うまでもない。

それでも一回には運びきれずに何度も何度も運んで来て、それでようやくと完了したのであった。

ちなみにみさき先輩が頼んだのはメニューの端から端まで全部。

七瀬が頼んだのはフレンチトーストとフルーツサラダなど腹の足しになりそうもない物。

瑞佳が頼んだのは何が無くともまず牛乳、というわけで牛乳パック2本とその他。

繭が頼んだのは照り焼きを始めとするハンバーガー全種類と飲み物。

茜はワッフル・クレープ・ケーキ・アイス等々デザートだけ。

唯一浩平だけがごく平凡な焼肉定食大盛りを注文したのであった。

 

 

 

 やがて料理は食べ終わった。

相変わらずみさき先輩が健啖を見せてくれたが殆どの冒険者たちは驚いていない。

なぜならばみさき先輩の底なし胃袋は有名なのだ。

ただし茜はそのごく一部例外に入っていた。

「・・・よく食べますね・・・」

茜が驚いたようにそうつぶやくとみさきは頷いた。

「そうなんだよ。ここの料理はおいしいからね、ついつい食べ過ぎちゃうんだよ。」

「・・・そうですか、よく太りませんね。」

 

 

 その時店の奥からここギルガメッシュの酒場のオーナーが出てきた。

そして一直線に浩平たちのパーティーの座っている席へと向かってくる。

「おや?オーナーだな。」

浩平がつぶやくとみさきは嬉しそうに笑った。

「へぇ〜雪ちゃんがお店の方に顔を見せるなんて珍しいね。」

確かにその通りであるがそのみさきの親友深山雪見の形相が怒っていたのを浩平は黙っていた。

 

 

 やがて浩平たちの席にたどり着くと雪見はみさきに怒り心頭な顔で、しかしいつものやさしい言葉でみさきに言った。

「・・・みさき、よく来たわね。」

「うん♪雪ちゃんのお店の売り上げに貢献しに来たよ♪」

すると雪見はより怒りの形相に、しかしより口調が優しくなった。

「・・・それならたまりにたまったツケ、払ってくれないかしら。ここ数ヶ月みさきのツケの影響でずっと赤字なのよね。」

「えっ!?そうだったの・・・?」

雪見の言葉にみさきは心底びっくり、といった表情を浮かべて驚いた。

みさき先輩が数ヶ月遠慮無しに飲み食いすればそれはもう膨大な金額になるのは分かり切っているのだが肝心の本人は全く分かっていなかったらしい。

「というわけだからみさき、耳をそろえて全額支払ってちょうだい!!」

「うん、分かったよ。」

みさきはあっさり頷くと懐に入った財布を取りだした。

そして雪見に手渡す。

「いくらツケがあるのかな?それで足りれば良いんだけど。」

そこで雪見は中からお金を取り出した。

金貨・銀貨・銅貨など様々なお金がテーブルの上に積み上げられる。

そして雪見は一枚ずつ丁寧に数え始めた。

 

 

 「1枚・・・2枚・・・3枚・・・・」

雪見の数える姿を笑いながら浩平たちは見ていたがやがて顔が引きつってきた。

 

 

 「2480枚・・・・2481枚・・・2482枚・・・」

ちなみにこれは全て金貨で数えた数である。

ちなみにここリルガミンの通貨は金貨1枚=銀貨4枚=銅貨400枚。

ここギルガメッシュの酒場で普通に酒と料理を頼んでも銀貨一枚ほどでまあ楽しめるのだ。

それなのにみさきの飲み食いした金額は金貨2500枚を超える勢いである。

これは戦士が装備することが多いプレートアーマー一領よりも高いのだ。

現にまだ新人、といった感じの冒険者たちが目をむいている。

自分たちの装備全額よりも高い料理を食べたみさきが信じられないのであろう。

やがて雪見は数える手を止めた。

「それじゃあツケの金額全部頂いたわ。合計は金貨3015枚、明細書いる?」

「うんん、いらないよ。」

みさきは首を振ってそう言った。

「だって私、ここで何を食べたのかなんて全て把握しているからね♪」

 

 恐るべきはみさき先輩の食事に関する執念である(笑)。

 

 

 まあ食事も取り終わったことだしと浩平たちはギルガメッシュの酒場を後にした。

あとは冒険者の宿で疲れを癒し、明日に備えるだけである。

だから茜は一人で帰ろうとした。

なぜならば浩平たちとはこれで終わり、の関係であったからである。

すると浩平たちは顔を見合わせ、そして一斉に頷いた。

 

 「・・・ねえ里村さん、ちょっといいかな?」

瑞佳の言葉に茜は振り返った。

その顔は何の用?といった表情をありありと映し出している。

「・・・何の用でしょうか?」

その独特の雰囲気に気圧されしたのか瑞佳は切り出すことが出来ない。

そこで浩平が茜に切り出した。

「なあ茜、俺たちの仲間にならないか?」

「・・・嫌です。」

茜は一瞬の躊躇もなく即座にそう答えた。

だが浩平はひるまずに続けた。

「そこを頼むよ。なんせ俺らのパーティー、一人戦士が欠けてしまったからな。」

「・・・それならば戦士を一人補充したらいかがですか?」

茜の反論に浩平は首を横に振った。

「一から戦士を鍛え上げるのは面倒で嫌だ。それに茜ならアイテムの鑑定も出来るし、かなり強力な魔法が使える、長森のやつや繭よりもな。」

ちなみに浩平のその言葉を聞いた瑞佳と繭はむくれているが浩平はとりあえずは無視した。

 

 「・・・どうしても、とおっしゃるのですか?」

「ああ、その通り。」

浩平の言葉に茜はちょっと考えた後、頷いた。

「・・・わかりました、ただし条件があります。」

茜の言葉に五人は耳を澄ませた。

すると茜は淡々とした言葉で言った。

「私はとりあえず何もしません、危険になるまでは。私に頼られるとみなさんが成長しませんからね。」

その言葉を聞いた五人は頷いた。

「たしかに茜ちゃんの言うとおりだよね。私たちももっと強くならなくちゃいけないし。」

「みゅ〜、確かにその通り。」

「まあ一理あるわね。」

「里村さんの言うことは的確だよもん。」

「・・・まあ言われてみればその通りだよな。」

というわけで五人は茜の条件を受け入れた。

 

「ところで茜、アイテムの鑑定はしてくれるんだよな?」

浩平の言葉に茜は頷いた。

「それくらいなら構いませんよ。さすがに何もしないというのは心苦しいですからね。」

 

これによって浩平たちのパーティーに新たなメンバーが加わったのであった。

 

 

 

ただいまのパーティーの構成

 

七瀬留美         侍      LV.07    中立

折原浩平         戦士     LV.08    善?

川名みさき        盗賊     LV.10    中立

長森瑞佳         僧侶     LV.07    善

椎名繭          魔術師    LV.07    善

里村茜          司祭     LV.34    善

 

 

あとがき

第二話をお届けです。

今回で完全メンバー、そろい踏みです。

というわけで後はダンジョンで色々ばたばたやらせる予定です。

ちなみに雪見&澪の演劇部コンビの出番はもう無い予定。

 

 

2001.06.02


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第03話へ続く