Fire.04
「久しぶりのゆったりとした休日だな」
日曜日のうららかな朝、コーヒーを飲みながら祐一はくつろぎながらそう言った。
すると祐一の娘の若菜は頷いた。
「父さん、このごろ休みでも会社に行っていたからね、最近働き過ぎじゃないの?」
そんな娘の言葉に祐一は首を横に振った。
「そうは言ってもいられない。なんせ今重要なプロジェクトを任されている身だからな」
「過労死しても知らないよ?」
「心配してくれるのはありがたいがそういうことは言わないでくれ。気持ちが萎える」
「そういうつもりじゃなくて父さんが死んだら私たち家族みんなが路頭に迷って困るから言っているんだけど」
「・・・それでもお前、娘か?」
娘の薄情な言葉に恨めしそうに言う祐一。
すると若菜はちょうど膨らみかけた胸を張って頷いた。
「誰もが認めるように間違いなく父さんの娘よ」
父親・母親の友人たち誰もに「姿はともかく性格は父親そっくりね」と言われる相沢若菜13歳であった。
その時タンタンタンという階段を人が降りてきた音がした。
すぐにリビングの扉が開き、一人の少年が入って来る。
そしてリビングにいる祐一の顔を見て怪訝そうな表情を浮かべた。
「・・・父さんが休みに家にいるなんて珍しいね」
11歳になる息子相沢祐喜の言葉に祐一は笑いながら言った。
「朝はおはようだよ、祐喜」
「・・・父さん、気持ち悪いから母さんの真似はやめてくれ」
「つまらないやつだな。もう少しノリが良くってもバチは当たらないぞ」
つまらなそうに祐一がそう言うと祐喜は反論した。
「あいにくとそう言う点では父さんに似ていないもんで。それはそうと姉さん、朝食は?」
「自分の分ぐらい自分で作りなさいよ。それくらい出来るでしょ」
「へいへい」
祐喜は軽い返事をすると台所へと歩いていった。
「これで名雪の奴がいれば相沢家全員集合なんだけどな」
テーブルについている若菜と祐喜の姿を見て祐一は言った。
すると祐喜が尋ねてきた。
「そういえば母さん、今何しているんだ?ここ一週間ぐらい姿をみていないんだけど」
「相変わらずラボにこもりっきりよ。今何を開発中なんだろう?」
「さあな?」
家族の誰もが研究中の名雪のやっていることを知らないのだ。
もっともこれはここ最近のことではない。
すでに十数年間つづいている出来事に過ぎない。
だから三人はすぐに関心を無くした。
「別に名雪が何を研究中だとしても構わないさ。
むしろこのまま一生終わらずに研究し続けてくれる方がよっぽど被害を被らない良い」
そう言う祐一の言葉に頷く二人の子供たち。
端から見ているとちょっと酷い気もするがまあそれだけ彼ら三人が被害を被っているのであろう。
だから開発中の何かが完成しないことが彼らにとって幸せなことだったのだ。
しかしその幸せはすぐに脆くも崩れ去った。
するとその時突然「バシュー」というけたたましい音があたりに鳴り響いた。
そして満面の笑みを浮かべて手に何かを持った名雪が出てくる。
その姿を見ておもわずうんざりというか嫌そうな表情を浮かべる三人。
だが名雪はそんなことにはお構いなしだった。
鼻歌交じりで三人の座っているテーブルにやってくると自分の席に座り、そして言った。
「若菜〜♪お母さんにもご飯よろしくね〜♪」
「ご飯、それともパン?」
「私の朝食はいつもパンだよ〜」
その言葉にすたっと立つ若菜。そして台所へと歩いていく。
「お母さん〜、ベーコンとか卵付ける?」
すると考え込む名雪。そして頷いた。
「お願い、若菜。それとサラダもよろしくね♪」
「はいはい、それとジャムはいつもので構わないよね?」
あえて聞くほどではない事を若菜は尋ねた。
すると名雪は三人が思わず耳を疑ってしまう様なことを言い放った!!
「あっ、今日はイチゴジャムいいよ。それよりもお母さんの特製ジャムお願いね」
「「「え〜っ!!!!!!」」」
思わずハモってしまう三人。
それ程名雪の言った内容が信じられなかったのだ。
「な、名雪。お前熱でもあるのか!?」
「お、お母さん!!人生を諦めるにはまだ早いよ!!!」
「しょ、正気か母さん!?」
口々に言う三人の言葉に名雪は苦笑いした。
「みんな、酷いよ。お母さんが一生懸命作ったジャムなんだよ」
「だ、だがお前だって嫌がっていたじゃないか!!」
すると名雪はコクンと頷いた。
「だってアレは人間が食べるものの味じゃないよ〜」
「それをお母さんは好んで食べるというの!?」
すると名雪はラボから持ってきた瓶を三人に高らかと自慢しながら披露した。
「じゃ〜ん!!これが21世紀最大の発明品、『対お母さんの謎ジャム用ジャム』なんだよ〜」
「「「お〜っ!!!!」」」
思わず感動の声を漏らす三人。
秋子さんの娘である名雪だけではない、義理の息子である祐一、孫である若菜と祐喜。
みんな秋子さんの謎ジャムの前に完敗していたからである。
「これはね、私が長年研究してとうとう完成させた最高傑作なんだよ〜」
すると祐一はいきり立って名雪に尋ねた。
「前置きはおいいから早く使い方を教えてくれ!!」
「そ、そうなんだよお母さん!!」
「頼むから教えてくれ〜!!」
そこで名雪は珍しく自分の発明を感謝してくれている三人に説明することにした。
「このジャムをお母さん特性オレンジ色のジャムの前に食べれば良いんだよ〜♪」
「実験の結果は!?」
祐一の言葉に名雪は答えた。
「まだ試していないんだよ〜。だからこれから実験するところ〜♪」
「それじゃあお母さん、私も協力するよ!!」
「ぼ、ボクも!!」
「俺も愛する妻のためなら協力するぞ!!!」
かくして相沢家一家四人は『対秋子さんの謎ジャム用ジャム』の実験することとなった。
「これでOKだよ」
そう言う名雪が手にしているトーストには紫色!!のジャムがデンとてんこ盛りに盛られている。
その色を見た祐一はおそるおそる名雪に尋ねた。
「すまんがこのジャムの原材料は何だ?」
「え〜、原材料?それはもちろん秘密だよ〜」
「・・・原材料は何だ!?」
「え〜っとね、ブルーベリーに青汁に紅しょうがに・・・(中略)・・・、まあ他にも色々入っているけど食べられないものは入っていないよ」
「そうか、安心した・・・」
「それなら大丈夫だね」
「それなら安全か」
名雪の説明にホット安心する祐一&若菜&祐喜。
名雪が言った食材はどれも食べられるものばかり、毒物やら意味不明な物は全く入っていない。
やはり紫色のジャムというのが相当気になったのだろう(笑)。
「それじゃあ実験開始するよ。ちゃんと食べてね♪」
名雪の言葉に頷く三人。
「それじゃあ食べてみるか」
「・・・頂きます」
「頂きま〜す」
そして相沢一家四人は一斉に紫色のジャムがたっぷり盛られたパンにかぶりついた。
「「「「・・・・・・・」」」」
思わず無言になる四人。
そしてばったりテーブルの上に倒れ込んだ。
「・・・な、名雪・・・これは・・・」
「・・・か、母さんのバカ・・・」
「・・・これ・・・謎ジャムよりも強力・・・」
祐一と若菜と祐喜は完全にグロッキー状態だ。
しかし名雪は開発者の責任感をもって実験を続行した。
「・・・うぅ・・・こ、これでお母さんのジャムを食べれば・・・・」
そして必死になってオレンジ色のジャムの塗られた食パンにかぶりつく。
「・・・お、おいしいんだぉ・・・・」
名雪謹製紫色の『対秋子さんの謎ジャム用ジャム』、それはあまりの不味さ故に秋子さんの謎ジャムをもおいしく感じさせるという画期的な物であった(笑)。
だから名雪は実験の成功を確認した。
「これでお母さんの特製ジャムは怖くないんだぉ〜!!!」
そして名雪はそのまま意識を完全に失った。
今回の一件により名雪の『対秋子さんの謎ジャム用ジャム』の開発研究は永久に凍結された。
理由は・・・言うまでもあるまい。
名雪一人は実験の成功を主張したのだがそれは相沢家の中では全く受け入れられなかったのだ。
「秋子さんの特製ジャムより強力でどうするんだよ!!!」
「お母さん、私たちを殺すつもり!?」
「いいから母さん、もう止めてくれ!!!」
こうして名雪が開発した『対秋子さんの謎ジャム用ジャム』は厳重な容器に封印された上、地下奥深くへと埋められたのであった。
本日の実験、失敗!?それとも成功・・・?
あとがき
とりあえずネタ切れなので「マッドドクターなゆなゆの危険な研究」は完結です。
もっともネタさえ有ればいくらでも続き書けますけどね。
しかしこのシリーズはどれも落ちが弱かったな。
2002.03.05