第01話「戦場の飢狼たち」

 

 

 

 そこは戦場であった。

彼らは皆、自らの命を担保に血と汗にまみれつつ自らの出世を賭けて戦っている。

それは人間の、いや男のどうしようもない性なのかもしれない。

しかし今までがそうであったように戦争は有り、そして永遠に無くなることはないであろう。

それは戦争こそが人間の本質を暴き出す唯一の方法だからである。

 

 

 

 ダァーンー  ダァーンー



遠くの方から野砲が火を噴いている音が響いてくる。

そしてそのけたたましい砲声に混じって銃声や人が死ぬ断末魔の声が聞こえてくる。

だが十分に訓練された傭兵たちは怯えの色すら見せない。

ただ黙ったまま前方を凝視するだけである。

「いいか、敵が近づくまで十分に引きつけるんだぞ」

ついに言葉を発した指揮官の言葉に兵たちは無言のまま肯定した。

効果的に敵を一掃するには近すぎず遠すぎず、引きつけて放つ。

これに勝る方法はないのだ。

 

 

 そうこうしているうちに敵の一団がどんどん接近してくる。

すると指揮官は号令を下した。

「総員、構え〜筒!!」

すると傭兵たちは皆、手にしていた銃を構えた。

そしておのおの接近してくる敵兵に照準を定める。

あとは引き金さえ引けば間違いなく何百人という人間が命を散らす。

 

 敵の一団はいよいよ近づいてきた。

騎兵を先頭にパイク・マスケット銃・ハルバードらを携えた歩兵が一気に襲いかかってくる。

敵兵の先頭が兵たちからあと150mぐらいまで接近したとき、とうとう指揮官は号令を下した。

「放てー!!!」

と。

 

 指揮官の号令とともに銃兵たちは引き金を引いた。

それと当時に一斉にマスケット銃が火を放つ。

すると対面にいた敵兵は一斉にバタバタと倒れていく。

数百人を一度になぎ払った銃兵たちは、だがそれにも気にもとめずに次弾を最装填する。

熟練された素早い手つきで最装填が完了すると銃兵たちは再び引き金を引く。

すると懲りずに突撃してくる敵兵はふたたび銃弾の餌食となって地面にバタバタ倒れていく。

 

 それからしばらくの間はずっとその繰り返しだった。

いくらなんでもむちゃくちゃな戦いっぷり、と感じるがこれはなかなかいい手であった。

数十発もの弾丸を放ったマスケット銃はやがて加熱してしまい、冷却しなければ使用不可能な

状態になってしまったのである。

こうなってしまっては銃は役立たずだ。

すかさず銃兵の背後の控えていたパイク兵がパイクを構えて銃兵の前に並ぶ。

そして槍ぶすまを築くとつっこんでくる敵兵たちに襲いかかった。

こうなってしまうと敵兵たちはもろかった。

長距離突撃しながら走ってきたうえに野砲・銃の十字砲火で散々に蹴散らされていたためにまともに

組織だって応戦することすらままならない。

あっという間に敵先陣隊は敗退、敗走し始めた。

そこで傭兵たちは一気に追撃を開始した。

さんざんの十字砲火に士気を失っていた敵兵たちは背後からの攻撃に次々と討ち取られていく。

そこへ最後まで温存されていた戦力、すなわち騎兵を主力とした突撃隊が一気に襲いかかる。

これで戦いの趨勢は完全に決した。

 

 

 

 「…これで今回の戦いは終わりだな」

立派な口ひげを生やした東洋人風の男はつぶやいた。

するとその脇に控えていたちょっと小柄な、それでいて身のこなしの良い男が相づちを打った。

「これで100戦100勝か。俺たちも強くなったもんだよな」

「ああ、そうだなグイズノー」

傭兵軍団「イクサオン」の軍団長戸田為政は部下であるグイズノー・ファルケンの言葉にうなずいた。

そこへ30代中頃であろうか、見事な銀髪の持ち主の男が話しかけた。

「軍団長、敵を追撃して殲滅しますか?」

しかし為政は首を横に振った。

「いや、これ以上は雇い主に任せておけばいいだろうよ。それくらいは残して置いてやらんとひがむからな。

というわけで集合命令を出してくれハウザーよ」

「分かった、そうする」

昔と同じポジションである副軍団長オーシン・ハウザーはうなずき、その場を立ち去った。

するとまもなく狼煙があがり、そして戦場で戦っていた傭兵たちがわらわらと集まりだした。

 

 その様子を感慨深げに見ていた為政はつぶやいた。

「これだけの戦力、あのころあったらどんなに楽だったろうな」

その言葉を聞いたグイズノーは同感とばかりにうなずいた。

「それはそうだな」

それなりに年を取ったのにも関わらず若い頃と同じような口の効き方をするグイズノーに為政はくすりと笑った。

 

 

 

 

 傭兵軍団イクサオン。

スィーズランドを拠点に置くこの傭兵軍団は10年前まで存在していた旧ドルファン傭兵隊を中核として

結成された比較的新しい傭兵団である。

軍団長である戸田為政は当時最強の傭兵団と言われたヴァルファバラハリアンとの3年あまりの戦いにおいて

その中心メンバーであったヴァルファ八騎将を一人でうち破り、その結果ドルファンに勝利をもたらし「聖騎士」の

称号を得たほどの剛の者であり、またそのほかにもきわめて優秀な傭兵たちがそろっていた。

それゆえに結成された当初はたかだか数百人人たらずであった傭兵団も、十年経った今ではちょっとした小国の

軍隊と同じぐらいの戦力を保有する南欧、いや欧州もしくは世界最強の傭兵団へと成長していた。

その傭兵軍団イクサリオンは国から依頼を受けるたびに部隊単位で戦場に赴き戦う。

その戦力は今や国家間における戦争の趨勢をも決するほど強大なものとなり、南欧に限らず欧州にて戦争が

勃発するたびに様々な国から誘いが来るほどであった。

 

 

 「…おい、ユキマサよ!!」

「ん? どうした」

「それはこっちの台詞だぜ」

グイズノーは肩をすくめてそう言った。

「すまん、ちょっと考え事をしていたんでな」

為政の言葉にグイズノーは笑った。

「そんなことは分かっているさ。それよりもこれからどうするんだ?」

「スィーズランドへ帰る」

「もういいのか?」

「ああ。もはや戦場での俺たちの仕事はおしまい、後は国同士で賠償金なり領土割譲なり話し合いですむ話だろ」

「それもそうか。第一いくら頑張ったところで報酬に色が付く訳じゃないんだしな。

早くスィーズランドに帰って酒なり女なり人生を楽しむことにしますか」

「そうしろ、そうしろ。第一、部隊を戦闘配備しておくと経費がかさんでいかん」

「お前もしぶくなったよな」

グイズノーの言葉に為政は空を見上げながらつぶやいた。

「ああ、あのころが懐かしい……、経費も何もかも考えずに戦っていただけの日々が……」

 

 

 

あとがき

 掲示板に予告していた「Condottiere〜傭兵隊奮戦記」の続編のお目見えです。

ただ前作は間違いなく「みつめてナイト」のSSでしたが今回はどうなんだろう?

みつナイキャラはそんなに出すつもりないし。ほとんど戦争・政治・謀略を扱うつもりだし。

ちょっと考え込むところですね。

 なお今回の話は前作終了時より約10年後、ドルファン歴40年前後です。

ですからみつナイのヒロインたちも結婚したり、あるいは死んでいたり。

まあそう言うことになっている予定です。

自分のご贔屓のキャラが過酷な運命にあっていてもあまり苦情は送りつけないで下さいね。

 ちなみに更新は前作ほど急ピッチに行う予定はありません。

一月に2.3本更新出来たら良いなと思っています。

おまけ

イクサオンというのは「火焔の車輪」という意味があります。

 

 

2001.02.22

2003.09.09改訂

 

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