#0 穿孔貝とは何か  Introduction of Boring shells

#0-1岩に穴をあける貝 Bivalves boring into rock


 みなさんは「穿孔貝(せんこうがい)」という用語を聞いたことがありますか? 穿孔貝は「穴掘り貝」とも言いう人もいますが、聞いたことあるという人や知っているという人は大変少ないでしょう。

房総半島や三浦半島など岩石海岸 rocky shore に出かけると岩(岩盤やレキ)に丸い穴があいていることがあります。 これは岩に穴をあける能力をもった貝類(ほとんど二枚貝)が作ったものです。このような貝を一般に 穿孔貝・ボーリングシェル boringshell
と呼んでいます。

岩石に穴をあける貝には二枚貝が多いので 岩石穿孔性二枚貝類 rock boring bivalves
、単に rock borer と呼ぶ場合もあります。 岩石穿孔性二枚貝類の代表は、カモメガイ(図1a)・ニオガイ(図1b、図2)・ニオガイモドキ(図1c)・イシマテガイ(図1d、図3)・ヨコヤマスズガイ(図4a)・ヤエウメノハナガイ(図4b)などですが、すべて海の貝類(海棲)です。




Fig.1 Four species of boringshells. a:Penitella sp., b:Barnea manilensis, c:Zirfaea, d:Lithophaga curta (broken;This is anterior half). All from Manazuru Peninsula. one cent coin is ca.19mm in diameter


【文章の追加】
 ながらく私は岩石穿孔性二枚貝類は海産のみと思っていたのですが、この webpage を立ち上げ後ネットで情報検索・文献検索を継続していたところ、汽水 brackish water 淡水 fresh water に棲息する穿孔貝が発見されたことがわかりました。

つい最近、Lignopholas fuluminalisというニオガイ科 Pholadidae の二枚貝がミャンマー Myanmar Kaladan River の河岸のシルト岩層に棍棒状の穴を作って棲息していることが報告されました(Bolotov, et.al,2018)。 つまり、現生の淡水棲の岩石穿孔性二枚貝 rock-boring bivalve in fresh water がいるというのです。私の好奇心が一気に高まりました。

Lignopholas は、Turner(1955)によって初めて設定された属(新属 new genera )ですが、 動植物等のinternational encyclopedia の一つである"Bio Lib: Biological Library""Taxon, Tree:family piddocks Pholadidae Lamarck, 1809 "によれば、この種を含めて現在4種(淡水種・汽水種)いるそうです。

また、この論文では空になった穿孔痕には非穿孔性の二枚貝類などが棲息していることを報告するとともに DNA RNA シーケンス分析 sequense analysis の結果から系統分類 phylogenetic classification について考察し、さらにこの淡水性生態群集の由来、つまり相対的な海面低下による海水から汽水・淡水への環境変化への適応についても考察しています。
概要はつかめましたので、今後さらに時間をかけて論文を読み込みたいと思います。
なお、この論文のPDFはオープンアクセス open access ですから、容易に取得できます。

I have read the following paper: Bolotov, et.al(2018) after about two months from this website's opening.
I was very surprised that boring shells live not only in marine water but also in fresh water.
The discovery of them is very significant for an understanding on the evolution and diversity of boring shells, I think.

○文献 Reference
Ivan N. Bolotov,Olga V. Aksenova,Torkild Bakken,Christopher J. Glasby,Mikhail Yu. Gofarov,Alexander V. Kondakov,Ekaterina S. Konopleva,Manuel Lopes-Lima, Artyom A. Lyubas,Yu Wang,Andrey Yu. Bychkov,Agniya M. Sokolova,Kitti Tanmuangpak,Sakboworn Tumpeesuwan,Ilya V. Vikhrev,J. Bruce H. Shyu,Than Win & Oleg S. Pokrovsky , 2018, Discovery of a silicate rock-boring organism and macrobioerosion in fresh water,Nature Communications volume 9, Article number: 2882 (2018)




Fig.2 Living Barnea manilensis, replaced in a transparent plastic tube(*) from rock, anchors its foot on the inner wall and protrudes the siphon for the entrance. These shell are originally boring into soft siltstone in the intertidal zone from the Pacific coast. Ventral side image. *The plastic tube is actually a cap from a ballpoint pen!

穿孔貝の巣穴は穿孔痕 boring と呼ばれますが、水管が伸び縮みする空間 Neck と貝殻が収まる部分 Main chamber の2つの部分で構成されます(図2)。 穿孔対象は岩石ばかりではなく、サンゴ骨格、カキなど厚めの二枚貝の貝殻(図3のイワガキ)、巻き貝の貝殻等といった石灰質の基層やクジラなど動物の骨の場合もあります。


また、二枚貝ばかりではなくサンゴの骨格に穿孔する巻き貝(たとえばイシカブラ Magilus antiquusムロガイ Magilus striatus )も知られています(#45参照)。しかし、砂岩や泥岩といった岩石に穿孔している巻き貝の例はありません。サンゴへの穿孔は、内部寄生 endoparasite ですから、たぶん砂岩等へ穿孔はないのでしょう。




Fig.3 "Japanese date shell"; Lithophaga curta in an edible oyster;Crossostrea nippona from the Pacific Ocean, Tokushima Prefecture. Each of eleven yellow arrows show the shell of L. curta, which were alive until the dinner time. Left valve(right side shell) may attach to the submarime natural or artificial rocks, because it is flat. The anterior part of the shell in L. curta is rouded, but the posterior part are pointed with calcareous deposit. The body of this oyster, which was sold in 2017 summer at "fish market" located in Nakaminato, Hitachinaka City, Ibaraki Prefecture, has been eaten in raw by my family. I know how to open the shell of living oyster with the special tool. It is easy for me to cut the adductor muscle.
The shell of L. curta in the rightside photo is picked up from star symbolized boring in the leftside photo.


Fig.4 Adult Zirfae subaconstricta in siltstone. Yellow arrow shows the entrance. The excavation created by rock-borer consists of two parts, i.e. Main chamber and Neck. This species has a long neck and makes unusually deep excavations in comparison with other rock-borers. That is, the boring created by this species has a long Neck. Japanese coin \100 is about 23mm in diameter.

軟質の岩石に穿孔する穿孔貝の中で最も小さいものはヨコヤマスズガイ Nettastomella japonica ではないでしょうか。成貝でも1cm前後のようです。下図は真鶴町の海岸で得られたもので、軽石層由来の礫に穿孔していました。

一方、穿孔貝の中で最も大きいものはシャコガイの仲間 オオシャコガイ Giant Clam Tridacna gigas でしょう。大きいものでは、貝殻の重量が200kg超、大きさは120cmあるそうです。この貝は食用になるとともに貝殻は装飾品や標本として利用されています。 シャコガイの仲間は珊瑚礁 coralreef (サンゴの骨格)に穿孔しています。また、シャコガイ類は、藻類を共生 symbiosis させていて、「サンゴと褐藻類」同様に、共生のいい教材になります。

図5cは、沖縄県那覇市の国際通り近くの第一牧志公設市場で私が食べたヒメシャコガイ Tridacna crocea の貝殻です。魚屋さんにお願いしていただいてきました(少し嫌な顔?珍しい客だな〜というリアクション?をしていたと記憶)。
沖縄県やパラオではこのような貝の養殖が試みられています。

●シャコガイに関するお勧めサイト Recommened site
@" 『シャコガイ図鑑』(PDF)"
沖縄県庁HPより次の順序でお入りください(リンクは貼りません)。
「農林水産部 栽培漁業センター」・「海の生き物と種苗生産作業などの紹介」 → 「生き物図鑑」・「貝たち」・「ヒメジャコ」 →「資料」・『 シャコガイについて図解』(PDF)をご覧ください。

●シャコガイに関するお勧め動画 Recommened movie
@"Farming Giant Clams in Palau"
女性キャスターが太平洋パラオの養殖場the Palau Mariculture Demonstration Centerを訪ねて担当者から説明を受けるという、voice of the sea TV さんの YouTube 動画です。オオシャコガイなどが養殖されています。
なお、YouTube には、他にもオオシャコガイに関する動画がたくさんあります。


Fig.5 Nettastomella japonica from Manazuru, Kanagawa Pefecture (a). This bivalve bores into soft rocks, but can not bore into hard rock, for example, andesite. This bivalve may be smallest of boringshells in size.
Phlyctiderma japonicum from Tateyama City, Chiba Pefecture (b) bores into soft sedimentary rocks, and lives in holes created by other rock-borers.
Tridacna crocea (c). This shell was brought back to my home after being eaten by me at Makishi Public Market, Naha City, Okinawa Prefecture. The adductor muscles and mantle of this bivalve is very delicious!
   
岩石等硬い穿孔対象物を硬質基層 hard substrate
といいますが、これに穴をあけるのは貝類ばかりではなく、ゴカイの仲間、ある種のフジツボ、ある種のウニ、カイメンなどが知られています。
穿孔性の生物が海岸〜浅海に露出する岩石やサンゴなどに繰り返し穴をあけていくと、波の侵食作用と相まって岩礁は次第に縮小し、海岸は後退していきます(=陸地が減ります)。このような生物の働きを生物侵食 bioerosion と呼びます。 生物の働きでも地形は変化していくことがあります。

穿孔貝は現在の海に生きているだけではなく地質時代にも生きていたことが化石からわかっています。
貝殻の化石(体化石 Body fossil
が見つかることもありますが、レキや岩盤に残った巣穴が痕跡(生痕化石 Trace fossil)として見つかることが多いのです。

地層や化石を調べて地質時代の生物侵食を専門的に研究している古生物学者が日本にはほとんどいませんが、世界には多数います。日本は地層の露出が海外に比べて貧弱で、関心が薄いからでしょうか・・・ しかし、今後ていねいに調べていけば、生物侵食の記録は増えていくのではないかと私は思っています。

手前味噌になりますが、私は埼玉県秩父盆地中新統 Miocene in Chichibu basinにみられる穿孔貝 Lithophaga sp. Adula sp. Penitella sp.について報告しました(千代田、1994、2009)。 これらの穿孔貝も当時の海岸域、狭めた表現をすれば岩礁において生物侵食を担っていたと言えるでしょう(下図)。



Fig.6 Miocene borings created by Lithopaga sp. in many boulders of siltstone or sandstone among the basal conglomerate of the Nenokami Formation(Fig.a & Fig.b). On the floor of Akabira river, Chichibu City, Saitama Prefecture. All borings are filled with greenish clastics; sand, mud, shell fragments, etc. or orange calcite. These angular greenish clastics of matrices in the conglomerate and within the borings may contain a lot of glauconites. Chiyoda(1994) described the occurrence of these boring shells among the basal conglomerate of Nenokami Formation. These occurrence are very similar to the modern association of Lithophaga curta. Please compare this figure with Fig.2 in #2. I can identify most clavate borings as Gastrochaenolites torpedo Kelly and Bromley
(Fig.c). scale bar=1 cm.


本来の深さがなくなってどんなに浅くなっていても(逆に、もちろん貝殻を伴ったものでも)穿孔の痕跡を穿孔痕
、英語では単に boring といいます。 岩石穿孔性で、棍棒状やフラスコ状といった特徴ある形態の化石穿孔痕グループに対して Gastrochaenolites という生痕化石属 ichnogenus の名称が付けられています。

図6の穿孔痕(雌型 mold )は、中央部が膨らみ、両端が細いという砲弾形ないし葉巻形と表現できる形態をしていますが、 Gastrochaenolites torpedo Kelly and Bromley
という学名 scientific name がつけられています( Kelly R.A. and Bromley, 1984)。 種名にある torpedo とは、魚雷を意味します。

*雌型 mold とは、凹んでいても、出っ張っていても本来の型(雄型 cast )に堆積物が充填してできた固形物全体をいいます。したがって、両者の凹凸は、逆になります。


●岩石穿孔性二枚貝に関するお勧めサイト Recommened site
@" Jessica's Nature Blog" → こちら;click here
  イギリス南西部の岩石穿孔性二枚貝類を紹介しているJessicaさんのブログ(当然、英語)ですが、写真がきれいです。ご本人の了解を得て "Stones with holes made by Wrinkled Rock Borers (& other seashore creatures)" に直接リンクを貼ってあります。他にも穿孔貝や化石などたくさん紹介しているページがあります。
 
A" The Harzel Tree" → こちら;click here
  イギリス北部スコットランド Scotland にお住まいのJo Woolfさんのブログ(当然、英語)ですが、岩石穿孔性二枚貝類や穿孔痕について紹介しているページ "Piddocks-anything but boring" があります。ご本人の了解を得てリンクはそこに直接貼ってあります。
他に、スコットランドの風景や地質・化石・植物・文化についてていねいに紹介しているページがありますのでご覧ください。

B" Friends of Fitzgerald Marine Reserve" → こちら;click here
  アメリカ合衆国カリフォルニア州サンフランシスコ San Francisco の南西約20kmに位置するモスビーチ Moss beach の一角にある Fitzgerald Marine Reserve 「フィッツジェラルド海洋保護区」では様々な磯の生物が観察できます。それらをていねいに紹介しているホームページは、写真や図表、パンフレットを眺めるだけも楽しい。

約13分間のビデオでは、海岸の風景や多様な海の動植物とともに、観察活動や保護活動の様子が紹介されています。中でも 2'40''〜3'09''間は、Penitella penitaという穿孔貝が紹介されるとともに、まさに「人面石 facelike cobble」に見える、穿孔痕のあるレキが紹介されています。 "welcome to FMR" → "watch the introductory vedeo〜"の順序で、ぜひご覧ください。

 私がモスビーチに注目している理由があります。
貝類の研究者・C.M.ヨング博士が、論文(Yonge,1955)の中でモスビーチから穿孔貝の一種であるBotula ( Adula ) falcata をたくさん採集したと述べているからです。博士によればこの貝は、一般名をthe hooked pea-pod shell と言うそうですが、英語の"falcate" と "hooked" はそれぞれ「鎌形の」、「カギ状の」を意味します。 一方、pea-podとはエンドウの鞘(さや)のことです。形がよく似ているのでその表現がうなづけることでしょう。 この穿孔貝について保護区のホームページでは紹介されていないのがとても残念です。今後、紹介していただけることに期待しましょう。
 なお、現在この貝の学名は、Adula falcata となっていて、北海道などでみられるマユイガイの仲間になりますが、日本のマユイガイはどうも明確には穿孔貝に位置づけられていないようです。

 この保護区は、水に入らない、生物を取り上げない、石をひっくり返さないなど厳格なルール strict regulations のもとに岩礁の生物群と地形が保護されていることがわかります。パークレンジャー park ranger(生物保護・観察指導員)やボランティア活動 volunteers activity が充実しています。ただ、学術的な調査・研究が十分行われているかどうか不明です。 将来に向けた保護や生涯学習(普及活動)のためにも調査・研究は必要と言えるでしょう。


C" Invertebrates of the Salish Sea"→ こちら;click here (the link directly to pages of A. californiensis)
アメリカ合衆国ワシントン州南部にあるワラワラ大学 Wala Wala University の生物学教授である David L. Cowles 博士が作成されているホームページです。多種多様な海の無脊椎動物 invertebrates(甲殻類〜軟体動物など)が検索できる図鑑的なホームページですが、同定に役立つ詳しい解説が載っているので私は Adula californiensisをはじめ、 Penitella penita Penitella turnerae Parapholas californica Zirfaea pilsbryi のページを参考にしています。

無脊椎動物を知るのに大変役立つページです。Very useful webpages on the invertebrates, I think.
リンクはトップページではなく、上記Bのマユイガイとの関連から考えて A. californiensisに直接貼ってありますが(博士の了解取得済み)、砂岩に穿孔しているようすがよくわかりますので、写真だけでもぜひご覧ください。

他の穿孔貝や無脊椎生物をご覧になりたい場合にはそこから生物の検索ページに戻って学名からたどってください。

 なお、Salish Sea とは、シアトル Seattleバンクーバー Vancouver といった大都市が面し、アメリカとカナダの国境にまたがる、太平洋に続く内海(南北約500km、東西約200km)のことです。

【岩石穿孔性二枚貝類に関する追加情報】 【New Sentences】
 New information about rock-boring bivalves, photos presented by friendly blogers, with my explanation

 インターネットでは、穿孔貝について情報をブログ形式で発信している方が多数いらっしゃいますが、その方々と交流をさせていただく中で提供していただいた写真や情報を次に示します。

@ツクエガイ Gastrochaena cuneiformis
 ツクエガイは、サンゴ骨格や厚めの貝殻に穿孔する小さめの二枚貝ですが、三重県にお住まいの歌魚風月さんから軟体部の残っているツクエガイの写真を提供していただきました。 20mの海底から引き上げたサンゴ塊に穿孔していたそうです。

 この二枚貝は、写真のように二枚の殻をしっかりと合わせても前方が大きく開いています。それがこの貝の特徴とも言えますが、その部分を 開口 gapeと言います。 二枚貝によっては前方ばかりではなく後方(水管のある側)も開いていることもあります。
*「ギャップ」ではなく、「ゲイプ」と発音します。ただし、研究社の辞典では、米語では「ギャップ」とも発音することがあると記されています。

"gape"は、ラテン語では "chaena" となり、属名に取り入れられています。
この部分が貝殻全体に比して大きいので、左上の写真のように貝殻がバランスよく「机上に立つ」のではないでしょうか。

 さて、巻き貝類やカタツムリなどを腹足類と日本語で言いますが、英語ではgastropodです。 この言葉を分解すると"gastro-""-pod"の二つに分かれます。前者の"gastro-"は「胃の、腹部の」を意味し、後者の"-pod"は「足のある-」「-足の動物」を意味します。

したがって、Gastrochaena の"gastro-"も同じ意味になり、この属名は「腹部の開口」と解釈できるでしょうか。この属名をあえてカタカナに直すと(日本語的読み方)「ガストロシーナ」になるでしょうか・・・

この二枚貝には、カモメガイ等に見るようなヤスリ状彫刻はなく貝殻表面は平滑です。開口部分から足を出して穴の内壁に付着し、何らかのメカニズムで化学的な穿孔を行っていると思われます。

 実は、このページにおいてこの二枚貝を紹介するのは大きな理由があります。
岩石穿孔性二枚貝類による生痕化石の一つとしてGastrochaenolites属をすでに紹介していますが、この属名は現生のツクエガイ科の属名の一つであるGastrochaenaを用いて形成されているからです。
Gastrochaenolitesは、"Gastrochaeno" と "lites"の2語に分解できますが、"ites"は岩石や化石を表す語尾です。



Fig.ex-01 Dead Gastrochaena cuneiformis in the coral from the Pacific Ocean off Mie Prefecture, Japan. 【New photos】

●岩石穿孔性二枚貝に関するお勧め動画 Recommened movie
@"Piddock clams. Interesting facts about rock boring mollusks"
   アメリカ〜カナダの太平洋岸に棲息する穿孔貝Penitella penita について解説している Koi さんの YouTube 動画ですが、画像がきれいです。当然、英語のナレーション(女の子)ですが、字幕を表示することもできます。


#0-2 材に穴をあける貝 Bivalves boring into wood


  海岸では、浜辺に打ち上げられた材、丸太にも小さな穴がたくさんあいています。こちらは、フナクイムシ shipworm があけたもので、「舟喰い虫」といっても虫ではなく、正真正銘の二枚貝です。
材が海岸に打ち上げられてから穴があいたものではなく、海に漂っている時にあけられたものです。材はもともと陸地に生えていた植物の幹だったものですが、土砂崩れや台風 typhoon 等の強風で倒れた材が川を通じて海に達した後、海水に浮かんでいる間にフナクイムシがアタックしたものです。そして、海流に乗った材は台風等の大波で海岸に打ち上げられます。
日本の沿岸には、南の国から黒潮 the Black Stream に乗ってやってきた材が見られます。その中にもフナクイムシの仲間があけた穴が多数あいていて、中から比較的大型の貝殻も出てきます。
このように、材の小さな穴はやはり穿孔貝の仕業なのです。

ただし、材が陸上にある時に陸棲の甲虫(成虫や幼虫)があけた穴やトンネル、海に棲む甲虫・コツブムシがあけたトンネルの場合もありますので、注意が必要です。


Fig.7 Many borings created by shipwroms: Teredo sp. in the drifted log. The inner wall of holes are reinforced by thin calcareous lining. Right photo shows the cross section of this log. This sample was collected at Heisaura beach,Tateyama City, Chiba Prefecture.

トンネル状の穴の先には、やや薄い貝殻が二枚見つかります。この貝殻の部分から穴の入り口まで貝の身体(軟体部)が伸びていることになります。
フナクイムシは掘りクズを身体の中に取り入れて一部を栄養分として利用できるそうです。それは、材のセルロースを分解する細菌(酵素セルラーゼ cellulaseを持つ細菌)を身体の中に保有している、つまり共生 symbiosis
させているからですが、栄養の主体は海水中のプランクトンだと言われます。

昔の船は、鉄やFRP(ガラス繊維強化プラスチック)ではなく、木材でできていましたから、被害がたくさん発生しました(たとえば、敵と戦う前に戦艦が沈没してしまった!)。
他の被害例としては、波止場にあった木材製の杭が被害にあったため、岸壁が崩れて家屋が海に落ちるという被害が発生しました。

フナクイムシのように材を専門とするものは、材穿孔性二枚貝類 wood boring bivalves
、単にwood borerと呼びます。

●フナクイムシなどに関するお勧め論文 Recommened paper
@J. R. Voight(2015):シカゴにあるフィールド自然史博物館 Field Museum of Natural History J. R. Voightさんの総括的な論文ですが、英文は読まなくとも、図・写真、特に電顕写真がきれいです。ネットで検索すれば、論文のPDFが見られます。

Janet R. Voight, 2015, Xylotrophic bivalves: aspects of their biology and the impacts of humans, Journal of Molluscan Studies, Volume 81, 175-186

●フナクイムシなどに関するお勧め図鑑 Recommened "picture book" 【New】
上記のフィールド自然史博物館が発行している"Field Guides" は、哺乳類(コウモリなど)・鳥類・昆虫・魚類などの図鑑です。米国内の生物に限られたものではないその図鑑の中にJ. R. Voightさんの手による、大西洋の材穿孔性二枚貝の簡単な写真集(PDF、2p)"Common North Atlantic Wood-boring Bivalves"があります。2018年3月に第1版です。 きれいなカラー写真が載っていますので、ぜひご覧ください。すみませんが、リンクは貼っていません。
https://fieldguides.fieldmuseum.org/sites/default/files/rapid-color-guides-pdfs/1001_north_atlantic_wood-boring_bivalves.pdf



●フナクイムシに関するお勧め動画 Recommened movie
 YouTubeには、フナクイムシに関する動画が多数ありますので、"shipiworm"と検索入力して探してみましょう。マングローブ mangroveの材に穿孔する、生きているフナクイムシTamilokを採取する動画が面白いです。
@"Shipworm Teredo navalis discussion"
 ハドソン川のフナクイムシの例です。環境が改善して、フナクイムシが戻ってきたようです。
A"Collecting Bactronophorus thoracites temilok shipworm in Bangka Island"
 フィリピンでフナクイムシを採取するようすを紹介しています。 


 さて、カモメガイモドキも材穿孔性二枚貝類の一つですが、こちらは穴を掘るだけで、材のセルロースは栄養分として利用しない(できない)そうです。したがって、この貝の穴は、フナクイムシのように深く、長くはありません(図8)。

一口に「材」と言っても、深海に沈んだ材(沈木 sinked timber)もあれば、陸地から流れてきた竹 Drifted bambooにさえ穴をあけているものがあります(図8)。また、南の島から海流に乗って流れ着くヤシの実 Drifted coconut も対象となります。
海岸で破損の少ないヤシの実を見つけたら、タワシのような繊維部分(果皮)をよ〜く探してみましょう。穿孔貝のカモメガイモドキの仲間Martesia sp.がみつかるでしょう。
私はまだ良好なサンプルを採取していませんが、破損したヤシの実自体は千葉県の太平洋沿岸(磯)で見ています。そこには破損した穿孔痕の一部が認められました。

調べてみたところ、北海道の石狩浜では、穿孔貝の残ったヤシの実が漂着しているそうです。これは、北限の記録と言ってよいのではないでしょうか。いしかり砂丘の風資料館の『いしかり砂丘の風資料館紀要』第4巻の石橋(2014)に紹介がありますので、ぜひご覧ください。



Fig.8 Many borings created by Martesia sp. in the drifted bamboo. Two adult M. sp. appear by exfoliation of bamboo wall. Their borings are clearly shorter than that of shipworm: Teredo sp. The inner walls of holes are not reinforced by calcareous lining same as Teredo sp.

砂浜や磯で、漂着物を探す作業をビーチコーミングといいますが、熱心な人が多いですね。私も時にその beachcomber の一人となって、既述のような標本を得た訳ですが、ペットボトルなどプラスチックゴミや漁業関係のゴミ(網やウキ)、日本海側では他国のゴミが多いのには閉口しました。
Most Japanese can not bear the tremendous floating garbage(waste) crossing the border and overseas



Fig.9 SEM image of juvenile Martesia sp. in driftwood from Pacific coast, Minamiboso City, Chiba Prefecture. By courtesy of the Saitama Museum of Rivers.

図9は、埼玉県川の博物館において電子顕微鏡でみたカモメガイモドキの稚貝です。金属の台に接着した状態の画像のままで、特にトリミングはしていません。

 ●Martesiaに関するお勧めサイト Recommened site
@ APHOTOMARINE  →
こちら
   イギリスやアイルランドの海洋生物等を紹介する
David Fenwick
さんのウェブですが、とても写真がきれいです。特に、ヤシの実に穿孔するMartesiaの写真をご覧ください。ご本人の了解を得てリンクはそこに直接貼ってあります。



 深海性の材穿孔は、キクイガイモドキ Xylophaga が有名でしょう。深海に沈んでいる材は、底引き網漁の際に取得され、研究に供用されてきましたが、現在では潜水艇で直接取得することも可能になっています。 雌雄異体の場合には雄が極端に小さい(数分の1程度)、つまり矮雄(わいゆう)、dwarf maleだそうです。しかも、雌の貝に雄の貝がいくつか付着しているといいます。このような状況は魚のチョウチンアンコウのケースに似ています。雄のアンコウは雌の大きな身体に寄生するように付着しているそうですから。

参考:「白雪姫と7人の小人」は、英語で Snow White and the Seven Dwarfs と言うそうです。一方、高校地学の天文分野で習う「白色矮星」は、英語で white dwarf です。


 ところで、広くとらえればTeredoの仲間である Giant shipworm の生態も大変興味深いものです。エントツガイ・学名Kuphas polythalamiaですが、長い石灰質の管を作りながら泥底に潜っているそうです。軟体部は、食用に供されているようです。野球のバットほどの長さがあって、世界一長い貝とされています。

この貝は、エラに硫化水素を利用する化学合成細菌 chemosynthetic bacteria を共生させていることが最近解明されました(Distel D. et. al., 2017)。化学合成細菌を共生させて栄養している例は、深海底の熱水噴出孔 hydrothermal vent や冷水湧出口周辺の動物、 たとえばチューブワーム tubuworm シロウリガイ:Calyptogena などが有名ですが、棲息場所が異なりますが、この貝も含まれることになります。

したがって、どうやらエントツガイは、材穿孔性の種が硫化水素ガスが発生するという悪条件の泥底へ burrower として進出し、適応・進化したもののようです。悪条件下でも、材穿孔より大きな生物体となっている点は我々人類に何を教えてくれるでしょうか・・・

材穿孔性のフナクイムシも、泥底棲のエントツガイもフィリピンでは"Tamilok" と呼んでいるようです。You tubeに解説動画がいくつかアップされていますので、ぜひご覧ください。

 ●tamilokに関するお勧め動画 Recommened movies

@"Kapuso Mo, Jessica Soho: Giant 'tamilok' in Kalamansig, Sultan Kudarat"
 地元の女性アナウンサーがフィリピンのミンダナオ島の Giant Shipworm を大変詳しく紹介しています。現地語と英語が混ざっています。

A"The Giant Shipworm" Giant Shipwormを紹介するニュース番組です。英語。



【材穿孔性二枚貝類に関する追加情報】 【New Sentences】
 New information about the wood-boring bivalves, photos presented by friendly blogers, with my explanation

 インターネットでは、穿孔貝について情報をブログ形式で発信している方が多数いらっしゃいますが、その方々と交流をさせていただく中で提供していただいた写真や情報を次に示します。

@カモメガイモドキの仲間 Martesia sp.
 カモメガイモドキの仲間は、既述のように材や竹、ヤシの実に穿孔する二枚貝ですが、三重県の歌魚風月さんから生きているカモメガイモドキの仲間(稚貝)の写真を提供していただきました。

漁網に入り込んでいた、樹皮の残る材を割ったところ、内部に生きているカモメガイモドキが見つかったそうです。樹種はわかりません。

いただいた3枚目の写真に記号を付し、分かる範囲内でいくつかの部位の名称を紹介します。
UV:背ー腹の溝、B:殻頂、S:水管、F:吸盤状の足、V:腹側にある関節丘




Fig.ex-02 Living juvenile Martesia sp. in the drift wood from the Pacific Ocean off Mie Prefecture, 【New photos】 Abbreviation; UV:umbonal-ventral sulcus、B:beak、S:siphon、F:foot、V:ventral condyle



#0-3 硬いものなら何にでも掘っちゃう!? コプロライトや珪化木への穿孔
Fossil borings in coprolite and Living boringshell in petrified wood

 何とアフリカのマリからは、ウンチの化石糞石 coprolite)から化石穿孔貝が報告されています(Tapanila, et al.,2004 )。

残念ながらここでは図版を紹介できません。詳しく知りたい人はお手数ですが、ネットから手に入ますので、#2の末尾にある参考文献欄にある英語の論文を読んでください。スクラッチ痕のある見事な穿孔痕の写真が掲載されています。

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少年マンガ『名探偵コナン』”Case Closed”江戸川コナン ”Detective Conan”君よろしく、ここで「なぞ解き」をしてみましょう。

The following are chiyodite's try to solve the mystery of coprolites with borings created by rock-boring bivalves according to time-sequence as analytically as "Detective Conan" do. So, Detective Chiyodite come on!

 
@中生代にアフリカの大地である肉食動物が食後しばらくしてウンチをする。場所は陸地か水中か? 陸地ならばにおいがプンプン・・・(ハエやフンコロガシはいた?いなかった?)
Some kind of carnivorous animals defecated on the land near riverside or the lakeside during Cretaceous age. A lot of soft droppings became dry.
   ↓
Aウンチが砂や泥にすぐに埋没する。(つまり、化石として保存されるには微生物による腐敗や分解、流水による破壊から免れる必要がある。)
 A lot of hard droppings were rapidly buried in sediments. Preservation in sediments has an important meaning of protection from the decay and the mechanical destruction. If not, we are not able to look at coprolites now.
   ↓
B地層中で地下水の石灰分やケイ酸分が浸透してウンチは固結し、化石になる。 (=地層中でも長い間にウンチは地下水等で壊れなかった。「水洗」で流されなかった・・・)
 Droppings became harder and harder by the diagenisis and the fossilization for the long geological time.

  ウンチの化石の成分にはリン酸塩 phosphateも含まれるので、この物質も固結に関与していることだろう。
 Not only calcite but also phosphate might fill an important role in the construction of coprolites.
   ↓
Cウンチ化石が海岸等で地層から洗い出され、小石(レキ)となる。(または、小石となったウンチ化石が河川によって陸地から海岸まで運ばれる。)
 Coprolites were dug out from the underground, and washed out to the shore.
   ↓
Dその海、たぶん潮間帯〜20m程度の深さに棲んでいた穿孔貝 rock-borer が岩石状のウンチ化石(=レキ)を穿孔する。
 (穿孔貝は穴を掘っていて臭くはなかっただろうか? いやいや、化石ではもう臭いません)
 Rock-boring bivalves bored into coprolites in the intertidal zone.
   ↓
E穴をあけられたウンチ化石(のレキ)がふたたび砂や泥に早めに埋まる。そして、その地層は地下で数千万年眠り続ける。
 Coprolites were bured in sediment for long time again.
   ↓
Fそのウンチ化石を含んだ地層の一部が地殻変動や侵食・風化作用でアフリカの大地・地表に露出する。つまり、ウンチ化石が永い眠りから覚める。
 Coprolites appear on the ground of Africa by the weathering and the erosion. "Coplorite with borings woke up from very long sleeping.", an assistant to Detective Chiyodite says.
   ↓
Gアフリカの大地を調査していた科学者が偶然発見し、「理論的な解釈」をした後に科学論文として発表する。(原住民は不思議に感じていたかもしれないが・・・)
 Scientists encountered these mysterious coprolites while in the field work, and prisented a paper on them later.

    ・・・というプロセスが想像できますね。おもしろいと思いませんか?
 (あくまでもこのプロセスは個人的見解 であることをお断りしておきます。Excuse, personal opinion of Detective Chiyodite
 
 この化石となったウンチのもともとの持ち主(=落とし主の動物)はまさか穿孔貝の巣穴という装飾 ornament;生物彫刻 bioglyph が加わって、数千万年後に人類によって「珍品」扱いされるとは想いも寄らなかったでしょう。 (自分のウンチに穴をあけられた“肉食動物の気持ち”はいかほどに・・・)
ウンチ化石の中には、魚・両生類・哺乳類の骨が入っているとのことです。肉食動物とはいったい何でしょうか、は虫類か?恐竜か?(論文からは解読不能でした。もともと書いていない?)
Even Detective Chiyodite have not been able to solve the problem; What kind of animal defecated in Cretaceous?

ここで、確実に言えること、それは・・・「やわらかウンチに、穿孔貝は穴をあけない!!」

Coprolite is never simple, never nonsense stone. Palaeontologists or Ichnologists are so great that they can explain the significance of many mysterious trace fossils!
・・・"When the mind is absent, the eye is blind.", Detective Chiyodite has always said. And, "The job of Palaeontologists is very similar to ours", too.

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Fig.10 Coprolite, may be of Jurassic herbivorous dinosaur. Dinosaurs' faeces are silicified by the diagenesis for the geological time. This specimen was sold at the Tokyo Mineral Show, Ikebukuro, Tokyo. Fossilized droppings of any animal do not smell as this case.
図10は、参考までにコプロライト(糞石)を示しました。池袋のサンシャインで開かれている化石や鉱物の展示即売会で恐竜のウンチとして販売されていたものです。

また、カナダ・ブリティッシュコロンビア州 British Columbia の太平洋沿岸では珪化木 silicified wood or petrified wood (木質部分がケイ素の成分で充填置換したもの:木の化石)に Penitella の仲間Penitella penita が穿孔しているケースがあるそうです。詳しい産地は不明です。

“Penitella Piddocks in Peat and Petrified Wood by Bill Merilees”を参照して下さい。 http://www.bily.com/pnwsc/web-content/Articles/Penitella%20Piddocks%20in%20Peat%20and%20Petrified%20Wood.pdf#search=%27%E2%80%9CPenitella+Piddocks+in+Peat+and+Petrified+Wood+by+Bill+Merilees%27

その写真をみると、巣穴(穿孔痕)の形態は、真鶴のカモメガイのそれに似ていますが、長めですね。 カナダの例を援用すると、日本の海岸でも潮間帯付近に珪化木が露出しているところがあるとすれば、カモメガイ類が穿孔していてもおかしくないでしょう。

  ****** chiyoditeの戯れ言 chiyodite's joke *******************************
 フナクイムシは珪化木を穿孔できないけれど、カモメガイの仲間は穿孔できる。逆に、カモメガイの仲間は木を穿孔しないけれど、フナクイムシは穿孔する。 もし、珪化木化石にある材穿孔性二枚貝類の巣穴化石Teredolites(たとえば、オーストラリアの"Peanut Wood" のような化石:下図) を現生のカモメガイ類が穿孔していたら、 「時を超えたダブルボーリング」" double boring in defferent age" と呼べるのではないだろうか。
・・・これは、あくまでも、空想なので無視していただいてけっこうです。

A present boulder on the beach may contain both fossil and living borings created by rock-borer,for example Gastrochaenolites isp. and Penitella sp., in other words living boring shells can excavate fossil borings the same substrate as boulder, Detective Chiyodite can imagine. **************************************************************************************


Fig.11 "Peanut Wood"(Petrified wood with many borings, may be Teredolites) from Kennedy Ranges, Australia, may be in the deposit of Cretaceous Ocean floor. All whitish part inside bored holes and around the petrified wood is called Radiolarite, which is composed predominantly of the microscopic remains of radiolarians. This specimen was sold at the Australian dealer of Tokyo International Mineral Fair, Shinjyuku, Tokyo.

図11は、オーストラリアのケネディ山脈産の、たぶん穿孔貝によると思われる穿孔痕を有する珪化木です。地元では、色合いや模様から「ピ−ナッツ・ウッド」と呼んでいるそうです。カットのしかたによっては白い部分はピ−ナッツに見えます。白い部分は放散虫という珪質の殻を有するプランクトン(動物)の死骸が降り積もった軟泥が固まった岩石です。 新宿で開催されている岩石や化石の即売会でオーストラリアのディーラーから購入しました。
材穿孔性の貝類による穿孔痕を有する材化石(珪化木ないし珪化していない材)は日本各地から知られています。内部から得られる貝化石を検討して、深海性の材への穿孔か、浮遊性の材への穿孔か判断が必要ではないかと、私は最近考えています。

他には、ある種の穿孔貝がプラスチックに穿孔した例もあるようですが、まだ直接記載論文を読んでいませんので、詳しくは紹介できません。

粗悪なコンクリートやレンガにも穿孔貝は掘ると言われますが、真鶴港付近のテトラポッドを少々観察したことがありますが、穴はありませんでした。 テトラポッドは波消しブロックの一つでもあり、近づくこと自体が危険を伴うので、調べたくないですね。もし、陸に引き上げられた老朽化したテトラならぜひ見たいものです。

****** chiyoditeの戯れ言 chiyodite's joke *****************************
 我が家には、池袋・サンシャイン60で開催された化石鉱物の展示即売会で購入した恐竜の肋骨化石やフン化石があります。また、珪化木もあります。もし、それらを現在の海岸にしばらく放置したら穿孔貝が穿孔するのでしょうか?  実験してみたい気持ちが十分ありますが、小さい塊は何年も磯に放置すると行方不明になりそうですし、何よりもったいないので今のところ行動には移せません。

Detective Chiyodite can imagine that it is paleontologically significant for him to place dinosaur's bone or coprolite, which he bought at the Tokyo Mineral Show, into the intertidal zone of the Pacific Ocean experimentally. But he will not able to find out them from gravel scattered by wave action in several years. What a waste! **************************************************************************************


#0-4 発光する、不思議な穿孔貝. その意義は?  【準備中です】 
What is the purpose of the lumineferous boring shell? 【under construction】 





【補足】Supplementary explanation
 穿孔貝は、これまで紹介したように各種の岩石やサンゴ・貝殻といった硬質基層 hard substrates ないし材質基層 lignic substrates に機械的に、かつ(または)化学的な手段で穴を掘りその内部に棲息する貝類のことです。 分類学的な括り方では全くなく、生態や行動をとらえた表現ないし取り扱いになります。ゴカイの仲間、ウニの仲間など、穿孔動物という言い方も同様です。

一方、肉食性巻き貝の一部は吻を使って貝殻等に穴をあけて捕食するものがおり、このような所作自体をボーリングととらえて穿孔貝と呼称するケースがみられます。狭義にとらえれば間違いではないかもしれません。

ダイヤモンドビット を装着したドリルで地球に径10cm前後の穴をあける作業 drilling with diamond bitsをボーリング boring、その機械をボーリングマシーン boring machineと言います。 したがって、被捕食者に対して部分的に穿孔する習性を持つ肉食性巻き貝などを穿孔貝と表現するのは誤りとは言えないでしょうが、古生物分野では大変少ないと思います。
たとえば、このような意味合いで穿孔貝について解説している事例が、"関東地方のある県立自然史系博物館"の"某出版物"に見られました。そればかりか、そこには、硬質基層や木質基層内にみられる穿孔貝本来の説明や事例は残念なことに抜け落ちていました。

『新版地学事典』(1996、平凡社) p700の左段などをみても最初のような捉え方で穿孔貝は説明されていますので、皆さんには十分ご理解していただけると思います。

なお、肉食性巻き貝 carniborous snail などが捕食時に貝殻にあけた小さな穴も、地層中にあれば、りっぱな化石、生痕化石 Trace fossil の一つです(#3の【不思議 その3】参照)。このような化石は捕食痕 Oichnus と呼びます。図12のような現生生痕は化石ではないのでOichnusと呼びません。 その語源は、アルファベットの「O」のような痕跡 trace (ichnus) になります。

図12の穿孔された貝殻はウミギクの仲間 Spondylus sp. の左殻ですが、砂浜に打ち上げられていました。つまり、ビーチコーミングの成果の一つです。穿孔動物は特定できないものの、たぶん肉食性巻き貝でしょう。ウミギクの仲間はカキ(牡蠣)と同じように右殻で岩に付着していますが、もろい泥岩に付着していると右殻も岩つきで浜に打ち上げられることがあります。


Fig.12 Left valve of Spondylus sp. from Banda beach, Tateyama City, Chiba Prefecture. Yellow arrow in left photo shows a small round hole. Right photo is an image of this hole on my binocular microscope. This modern hole may be constructed by carnivorous mollusk. In case of fossil shell, these kinds of small hole created by carnivorous mollusk are named Oichnus. We do not treat modern traces as Oichnus. Spondylus attaches to the rocky bottom with biogenic cement.



【コーヒーブレイク Coffee break】

「地質マンガ」の紹介
穿孔貝を取り上げた日本初(たぶん世界初でもある)の「4コマ マンガ」があります。
それは、日本地質学会のホームページ「eフェンスター」内にある 「地質マンガ」のうち『穿孔貝とは・・・』です。→ こちら

The Geological Society of Japan release many "Geological Manga(Comic)" concerning the geological terms or concepts, fieldwork episodes, and etc. , in the webpages.
Please enjoy one of them; "What's Boring shell?"  →
click here

【The story of "What's Boring shells?"】

○1st frame
A professer gives a special lecture on boringshells hot, but a student is sleeping.

○2nd frame
Students learn about those bivalves on the seashore, but only two students ignore professer's explanation, and look down on boring shells.

○3rd frame
Professer gets angry with stupid students and teaches the geological and paleontological significance of these bivalves anew.

○4th frame
A shipworm tells the meaning of calcareous tube in wood, which led to the shield tunneling.
An intelligent student emphasizes that boring shells are our important teachers in a sense, instead.

私は埼玉県立××高校において「地学基礎」の授業の中でこのマンガを取り上げました。 私はできるだけ地震や火山に関する新聞記事を授業等に取り入れるように努めていますが、教育界では以前からこれをNIE(Newspaper in Education)と呼んで実践している教師は多いと思います。 私はNIEにならい、"地質マンガ in education" と呼んでいます。
とにかく、多くの方々に「地質マンガ」を楽しんでいただきたいと思います。


I have incorporated "Geological Manga(Comic)" as the teaching materials in my classes of Earth sciences at Saitama Prefectural high school, following "NIE", for three years. Please enjoy all of "Geological Manga(Comic)" on the website of the Geological Society of Japan, but there are not English versions, very sorry.

「地質マンガ」道場の紹介 → こちら:click here
Special lessons for creation of "Geological Manga(Comic)" by chiyodite

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last update: December.7.2018