■シンゲキジャーシリーズ4■



 ※拍手で回っていた現代パラレル設定の高校生リヴァイとちびっこエレンの小話をまとめてみました第4弾です。企画にも同設定の話があります。



16・苺狩り編。


 その日、母親に頼まれた買い物を済ませてリヴァイが帰宅すると、マンションの隣室の子供がとてとてと玄関先まで出迎えてくれた。

「リバイさん、リバイさん、おかえりなさい!」
「ただいま、エレン。来てたのか」
「はい。おかーさんもいっしょなのです」

 子供を抱き上げてリビングに向かうと、言葉の通りに子供の母親と自分の母親がソファーでくつろいでおり、リヴァイは軽く挨拶してから母親に買ってきたものを渡した。母親はリヴァイから頼んでいたものを受け取ると、丁度今からおやつにするところだったのだと告げた。
 準備が済んでいたのか、母親が運んできたものにリヴァイは少し呆れた顔をし、逆に子供は嬉しそうに顔を輝かせた。

「リバイさん、いちごです!」
「ああ、良かったな」

 春先になってよく見かける苺――今はビニールハウス栽培などもあって一年中買おうと思えば入手出来るが――は子供が一番好きな果物らしい。他の果物よりも明らかにテンションが上がっている。無論、子供はどんなものを出されても嬉しそうに美味しそうに口に運ぶが、好物は物凄く判りやすいとリヴァイは思う。子供が喜ぶのなら過剰にならない程度に好きなものを与えるのは反対しない。むしろ、何かを欲しがるということを滅多にしない子供が喜ぶならリヴァイだってやりたいと思う。思うが。

(……明後日、嫌という程食べられるっていうのに、何で苺にするんだ)

 リヴァイが呆れた顔をしたのは、明後日子供と一緒に苺狩りのバスツアーに参加することになっているからだ。子供が苺好きというのを知った母親が、それなら春休みに苺狩りに出かけましょうとさっさと決めてしまったのだ。勿論、リヴァイは強制参加である。子供が喜ぶことをリヴァイは断る気はなかったが、自分の都合を全く考慮せずに日時や場所などの何もかもが決められてしまったことに溜息を吐きたくなった。言ったところで、あなたはどうせ春休みに予定は特にないんでしょ、とあっさり返されるのは判っているので言う気も起きなかったが。

「リバイさん、はい、どうぞ!」

 にこにことした顔で渡されたのは練乳の入ったチューブだった。見ると、子供はこれでもかという程、苺に練乳をかけている。子供の母親も子供程ではないが、練乳をかけていたので、子供の家では苺には練乳をかける派らしい。
 リヴァイは苺には何もかけない。果物は果物自体の味や甘みを楽しむものだと思うので、生で出された場合は何もかけないのだ。逆に母親は甘党なので、苺には練乳と更に砂糖までかけて食べている。見る度に歯が浮くぞ、と思うリヴァイである。
 子供のうちは甘いものが好きなのは普通なので、特に注意するべきことではないと思うが、こんなに糖分を摂取して身体に悪影響はないのだろうか。肥満体になったりはしないだろうかと少々気がかりになってくる。

(イヤ、まだまだ成長期の子供だし、好きなものを我慢させる方が良くないか。エレンは別に太ってはいないしな)

 むしろ、我慢させる方がストレスになるか、などと考えていたら、子供に怪訝そうに声をかけられたので、リヴァイは礼を言いながら練乳を受け取った。普段はかけないが、かけたら食べられなくなるというわけでもない。折角の子供の厚意を無下には出来ず、リヴァイは軽くかけてからチューブに蓋をした。

「おいしいです、リバイさん!」
「ああ、そうだな」

 美味しいです、と身体全体で言っているような子供を眺めながら、リヴァイも苺を口に運んだのだった。



 苺狩り当日――空は真っ青に澄み渡り、行楽日和と呼べる快晴となった。
 母親に待ち合わせしているの、と言われたときからリヴァイは物凄く嫌な予感がしていたのだが、その予感は待ち合わせ場所に着いたときに見事に的中した――いや、今までも外れたことはなかったので判ってはいたのだが。

「苺狩りじゃー! 苺狩りまくるんじゃー!」

 両手に鎌を持って宣言する同級生の少女に、リヴァイは華麗に回し蹴りを決めたのだった。

「酷いな、リヴァイは。折角、苺狩りの気分を盛り上げてあげようと思ったのに」
「あれでどうして盛り上がれるんだ。……チッ、不審者として通報しておけば良かったな…」

 刃物を持った不審者がいるって今からでも通報するか、と呟くリヴァイに少女――ハンジはだから酷いよ、と頬を膨らませた。

「すみません、リヴァイ先輩。通報は勘弁してあげてください。かなり、楽しみにしていたみたいなので」

 ペコリ、と頭を下げたのは例によって彼女の部の後輩だ。どうやらリヴァイと子供と二人の母親とこの二人の計六人が苺狩りメンバーらしい。

「他も誘ったんだけど、日程が合わなくてさ。申し込みの締め切りとかもあるし、今回は六人でってことになったんだよ」

 先日、エレンの誕生日に合わせて集まったせいか、今回は都合が合わない人間が多かったみたいで、とハンジは続けた。どうやら母親とハンジが中心となって今回のツアーを探し申し込んだらしい。毎回、思うのだが、この二人を引き合わせてしまったのが悔やまれるリヴァイだった。

「あ、ほら、あれが乗るバスだよ」

 ハンジに促され、乗り込むバスを見た途端、リヴァイは固まった。反対にリヴァイの隣にいた子供は顔をキラキラと輝かせて、歓喜の声を上げた。

「シンゲキジャーです! すごいです、リバイさん!」
「………………ああ、凄いな……」

 子供ははしゃぎながらバスの周りを回ってバスを観察している。それもそのはず、これから乗る予定のバスの車体には子供の大好きなあの戦隊もの番組「討伐戦隊シンゲキジャー」のキャラがプリントされていた。

「シンゲキジャーバスに乗って行く苺狩りツアーなんだよ! もう、これしかないだろうと思ってさ!」

 そうハンジが説明する。どうやら旅行会社だか何か知らないが、あの番組とタイアップして作られたものらしい。バスや飛行機などにアニメキャラなどをプリントしたものがあるのはニュースなどで知っているが、まさかあの番組のものがあるとは知らなかった。個人でやれば痛車だが、企業がやれば良い商売となるのだから世の中は判らない。絶対に問題があるとしか思えないのに、何故あの番組は世間からこうも支持されているのだろうか。
 遠い目になっていたリヴァイだが、母親の皆で記念写真撮るわよーの一言で我に返った。あの番組のバスの前で写真など撮りたくはないが、子供はキラキラと顔を輝かせてリヴァイが並ぶのを待っている。リヴァイは断腸の思いでバスの前に並び、子供と一緒に記念写真を撮ったのだった。
 ――苺狩りに行く前からぐったりと疲れたリヴァイだった。

「苺にはやっぱり塩だよ! 塩!」
「それ、おかしいですよ、ハンジ先輩」
「だって、西瓜には塩かけるじゃないか。それと一緒だよ。そう言うモブリットは何なんだい?」
「自分は牛乳をかけて軽くつぶして食べます」
「イヤ、そっちの方がおかしいから!」

 バスの中ではどういうわけか苺には何をかけるかの談義を同級生の少女とその後輩がしていた。座席はリヴァイとエレン、二人の母親、ハンジと後輩で隣同士になっている。隣の子供と言えば、バスの中で流されているシンゲキジャーの画面に釘付けとなっている。どうやら目的地に着くまではあの番組を流すようだ。

「くちく、くちくしろ〜! きょじんはいっぴきのこらずくちくしろ! うらぎりもの! ぜったいにゆるさない!」

 子供は例のオープニング曲を歌い出したが、バスの中だというのを思い出したようで、その声はすぐに小声になった。この曲が流れると子供は歌わずにはいられないらしい。やはり、あの番組は人類の洗脳化を進めているのではないかと、リヴァイは思わずにはいられなかった。


「さあ、苺狩りだよ! 狩って狩りまくるよ!」

 バスが目的の苺のハウスに到着すると、張り切った声をハンジが上げた。

「エレン君、苺を頑張って一個残らず駆逐しよう!」
「くちくですか? がんばります! クソメガネさん!」
「うん、頑張ろう! でもね、私の名前はクソメガネじゃないからね! 何かもうお約束になっちゃってるんだけど、ハンジお姉さんだからね!」
「オイ、クソメガネ、変なこと言ってんじゃねぇ」

 変に言葉を覚えたら良くないだろうが、とリヴァイが言うと、ならクソメガネはどうなんだとハンジは唇を尖らせた。

「エレン、一緒に苺を採るか?」
「はい! リバイさんといっしょがいいです!」

 顔を輝かせてとてとてと自分の傍にやってきた子供の手を引いてリヴァイはハウスの中に入った。

「いちごがいっぱいです! リバイさん!」
「ああ、生ってるのは初めて見るか?」

 テレビなどで映像は見たことはあるかもしれないが、実際に目にするのは初めてらしく、子供はこくこくと頷いた。ぷちり、と苺を採るのを見せると、子供も見様見真似で苺を採ってみせた。

「とれました! リバイさん!」
「ああ、上手だな」

 嬉しそうに笑った子供はリヴァイに自分が初めて摘んだ苺をリヴァイに渡してきた。どうやらリヴァイに食べて欲しいらしい――リヴァイは笑ってそれを受け取り、自分が摘んだものを子供に渡した。齧ると、口の中に瑞々しい苺の甘さが広がった。

「旨いな」
「はい、おいしいです! リバイさん」

 二個目からは自分で摘んだものを食べたが、実際に自分の手で収穫したものを食べるのは違うらしく、子供は美味しそうに普段よりも多く食べていた。この後、まだ別の場所での食べ放題も組まれているので余り食べてはお腹に入らないかもしれないが、止めた方がいいだろうか。だが、子供が楽しそうにしている様子を見ていると止めるのも憚られる。
 ――結局、エレンに付き合ったリヴァイもかなりの苺を食べ、しばらくは苺は食べなくていいな、と思ったのだった。


 その後、シンゲキジャーバスツアーを発見する度にエレンを連れて行きたがる母親と、お土産として大量に買われた苺の消費にリヴァイは頭を悩ませたのだった。



2014.11.8up



 季節外れもいいところの苺狩りの話です(汗)。ハンジさんの「苺狩りじゃー!」とシンゲキジャーバスが書きたくて出来た話。作中に出てきた苺に何をかけるかは全部やってる人が実在します。ちなみに結城は練乳派です。





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