スタッフ・インタビュー
作詞家 岡田冨美子氏 |
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樋口さんとはアルバム「abc」以来のお付き合いで、「ステージ101」のオリジナル・ソングをはじめ、これまで実に1000曲を越える楽曲を数多くのアーティストに提供してこられた作詞家の岡田冨美子さん。『赤い砂漠へ行かないか』や『怪獣のバラード』は、そのドリーミンな歌詞の裏に社会への鋭いメッセージが込められていた。果たして『lonely,lonely』には、岡田さんのどんな想いが託されているのだろうか?お忙しい中、樋口さんのこと、作詞のこと、いろいろとお話していただいた。
-岡田さんは樋口さんのアルバム「abc」の作詞をされていますが、これが樋口さんとの最初のお仕事ということになるのでしょうか?
大昔のことなので、はっきり記憶にないのだけれども、ひょっとしたらそうなんでしょうね。
-私はステージ101を観ていたものですから、岡田さんというと「怪獣のバラード」の作詞家のかたというイメージが強いのですが。
「怪獣のバラード」を作詞したことがステージ101との最初のご縁なんです。だから、そこで知り合って「abc」とか作ったんだと思います。
-「abc」以降、樋口さんとお仕事をされる機会というのはあったのですか?
CMで。そんなにたくさんはやってないですけどね。
-では、そういったお付き合いがずっとあって、今回のアトムのアルバムへの参加ということになるのでしょうか?
そうです。思い出していただいたという感じですね、樋口さんに。
-なにぶん素人で、作詞家のかたがどうやって作詞するのかというのが、皆目、見当つかないのですが、曲を聞いて歌詞のイメージが閃くといった感じなのでしょうか?
そうですね。
-あらかじめ言葉のストックを持っていて、そこから言葉を選ぶといったようなことは?
他の人はどんな作詞のしかたをなさるのか、人それぞれだと思いますけど、私はあまりストックの中から考えたりというのではなくて、聞いたメロディーから何を感じるか、聞いたメロディーがどんな言葉を語っているか、というのを探る感じの仕事の仕方です。
-今回の「lonely、lonely」ですが、詞はすぐにできたのでしょうか?
ええ、わりとそういうのは早い方なので。
-「lonely、lonely」は曲が先と伺っているのですが、初めて曲を聴いたときの印象を教えていただけますか?
なんか、グチャグチャグチャグチャ長い曲だなと(笑)。それで「長すぎるんじゃないの?」って言ったのね。それで作曲の意図とか、なんでこういう構成になってるのかを聞いたときに「ああ、そうか」とわかって、「じゃあ、ここのところはドイツ語、フランス語、英語、なんだのかんだの、いっぱい、いろんな国の言葉が出てくる部分にしたらどうなの?」と。
-いろんな外国語を使うというのは岡田さんからの提案だったのですか?
ええ、たしかそうだったと思います。
-樋口さんの側から、詞の内容について具体的な注文のようなものはありましたか?
あんまりなかったんじゃないかな?リクエストがあったとすると、「この歌を好きになってほしい人たちの年代を決めたくない」というのがありました。「30代の人が聴いても20代の人が聴いても、はたまた50代の人が聴いても、同じように感じる言葉で聴けるような歌にしたい」というのが今も頭に残っていますね。つまり、若い人にはわからない、年のいった人にはわからないというのではなくて、"誰が聴いても納得できるような言葉の世界"ということだったと思います。ですから、最初からタケカワさんがお歌いになることも決まってましたけれど、タケカワさんがお歌いになるからといって、タケカワさんの年齢に近づけた詞の作りかたはしないようにと心がけました。
-今のお話の中でタケカワさんのお名前が出ましたが、作詞をされる場合、どなたが歌われるかということは念頭において作られるのですか?
はい、それはもちろん。どんないい歌が出来ても、その人がパフォーマンスしていらっしゃる姿にその詞が似合わないとダメですからね。それはプロで詞を書く者の、最低限気をつけなければいけない、一番のABCだと思いますよ。
-岡田さんはたいへんな数の作品をたくさんのアーティストの方に書いておられますが、これらは皆、アーティストひとりひとりに合わせて書かれたものということなのですね。
もちろん、そうです。基本的に注文が来た仕事しかしないので、詞や歌を持って売り込んだりとか、頼まれもしないのに詞を書いて売り込んだりは一切しないほうですので。
-今回のアルバムは、詞にもかなりこだわったと伺っているのですが、出来上がった詞に対する樋口さんの反応はいかがでしたか?「ここはこうしてほしい」といった要望はありましたか?
少しありましたね。でも、最初にプロデューサーの方から「今回は、樋口さんの好きにやらせてあげてくださいね」というのがあったので、普通だと抵抗するところも、「ああ、そうですか。樋口さんのお好きに〜」みたいなかんじで(笑)。でも、たいして私は直されなかった。うんと直されたかたもいらっしゃるような感じですけど、私の場合はあまり直されませんでした。
-では、今回は岡田さんの詞がほぼそのまま採用されたといった感じでしょうか?
いえ、少し樋口さんのご希望も入っています。ずいぶん素敵なご希望でした。
-どんなご希望だったか、教えていただけますか?
英語の部分ありましたでしょ?「♪Red light is on 交差点」という…最初は、「信号、赤」とかいう日本語が入っていたかもしれないのだけれど、あそこら辺が日本語だったところを英語にしましょう、と。
-私はこの詞を「愛」がテーマなのかなと思って聴いたのですが、岡田さんご自身がこの詞に託されたテーマというのは何だったのでしょうか?
世の中の風潮…というか、「人間」でしょうね。
-先ほど、曲の長さとか作曲の意図といったお話がありましたが、そういったものはテーマを考えるうえで考慮にいれていらっしゃるのですか?
いえ、そんなことは考えません。ただ、感想として「この曲、長いわね」と思っただけで(笑)。長い短いというのは、物理的にその曲が長いか短いかだけであって、その作品をどうするかということとは関係ないのね。長いから作品のテーマが変わるというようなことはなくて、それは作品の構成に係わってくることであって、テーマには係わらない。テーマは与えられている…というか、大きく「アトム」というものがあるわけだから、そこのところでこの長い部分はどう片付けようか、どう料理しようかということであって、テーマには一切、係わってこないんです。
-なるほど。そこでフランス語とかイタリア語ということになったわけなのですね?
そうです。あんまり言葉が多いと、歌というのは散漫になってしまいますから。日本人がフランス語を聞いたり、英語を聞いたり、ドイツ語を聞くと、その部分はBGMになるでしょ? 意味をわかって聞いていてる人たちというのはほんとに少しで、(あとの大多数の人にとっては)そこはコーラスみたいなものですよね、スキャットみたいなものですよね、言ってみれば。意味がわからなくてフランス語が聞こえてくる、ドイツ語が聞こえてくる、それはさっきから何度も申し上げますけれど、スキャットあるいはコーラスのBGM的な扱いになりますから。日本語でのメッセージをそこで伝えなくても…実はフランス語、ドイツ語の部分は無意味な言葉が入っているわけではなく、メッセージは入っているんですが…わかってくださる方には意味がわかり、わからない方にはただのBGM的な効果で、心地よく、間奏的な感じに聞こえてくれればそれでいいかなと思っています。
-作詞家の岡田さんがお聴きになって、樋口さんの曲についてはどのような感想をお持ちですか?
やっぱりお洒落ですよね。お洒落、お洒落、すごくお洒落!私は一番最初にお会いした時に「ああ、天才少年がここに居るなぁ」というふうに思ったんですけれども、今回、久しぶりにお仕事させていただいて「天才少年は健在だなぁ」と。
-今、「天才少年」というお話が出ましたが、岡田さんからご覧になった樋口さんとはどんなかたでしょう?
いつもにこにこして、お話好きで、素敵な人ですよね。屈託がなくてね。最近、お髭はやしていらっしゃるけど、いつ会っても「少年」ですよね(笑)。
-最後にこのアルバムを聴いてくださるみなさんに、岡田さんからのメッセージをお願いいたします。
「犬も歩けば棒にあたる」という諺があるけれども、音楽というのは流れてきてたまたま耳に入ってくる「犬も歩けば棒にあたる」的な音楽というのがいっぱいあって、そういう音楽を好きになったりすることも、すごく楽しいことかもしれないのだけれど、もしかするとこのアトムのアルバムは「犬も歩けば棒にあたる」的に、このアルバムの中の楽曲が巷にうんといっぱい流れて、大勢の人の耳に入ってくる状況にはないアルバムかもしれないと思うんです。そういった場合、歌を探しにいってほしいし、向こうから来る歌を聴く楽しさと、こっちから歌を探しにいく楽しさがあると思うんですけど、今回、このアルバムを新聞広告だのラジオの宣伝でちょっと小耳に挟んで、レコード屋さんに行って「あれ買ってみよう」と思って手にしてくださった人たちには、感謝の気持ちと親愛の情と、そして「あなたにきっといいことあるわよ、こんなアルバムを手にしたんだから!」と言いたいような気がします。
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