アーティスト・インタビュー
ピアニスト 金子詠美さん |
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「ブレーメン4」「小公女セーラ」など、子供の頃から樋口さんの音楽が大好きだったという金子さん。
今回、演奏家として、初めて樋口さんとご一緒にお仕事をされた感想を大いに語っていただいた。
-樋口さんとお仕事をされるのは今回が初めだと伺ったのですが、アルバムに参加することになった経緯を教えてください。
ウィーン留学時代の友人で、アシスタント・プロデューサーの岩田安代さんがお声をかけてくれました。私は、ブレーメン4や小公女セーラ等、子供の頃から!?樋口康雄氏の作品が大好きでした。又、手塚治虫さんの大ファンでもあったので、あの樋口氏がお書きになるアトム誕生のシーン(「四声の序奏」)を演奏出来る事が大変嬉しく、是非に!とお引き受けさせていただいた次第でした。
-樋口さんと初めてご一緒にお仕事をされた感想を聞かせていただけますか?
「四声の序奏」は、文字通り四声部の対旋律によって書かれている曲です。J.S.Bachのフーガ等でご存知の方も多いかと思いますが、各々が別個のメロディーを奏でながら、他声部と絡み合い、しかもそれを美しく構成させていく…、という事は、決して容易な事ではなく、それが二声、三声でなく、四声ともなると益々複雑になります。ですから、この様な作品をお書きになれる方というのは、きっと頭の中も、もの凄ーく複雑に出来ていて、きっとお話したら色んな「理論」が飛び出してくるような、少々お堅い感じの方なのでは、、、と想像していました。ところが、お会いしてみてビックリ!樋口さんは実に気さくで、自然体でいらっしゃる、本当に楽しいお方でした!(笑)
後に樋口さんから、「曲を作る時、音が(4つの声となって)空から降ってくる…etc.」というお話しをお聞きしましたが、確かになるほど!という感じ。樋口さんは、音楽が自然に体から湧き出てくるような、言わば「天才型」の音楽家なのだ、と感じました。こういうお方はオーラを発している…、というか、そこにいて下さるだけで「音」を「楽しむ」という、真の「音楽」をする雰囲気を醸し出して下さるのですよね。ですから、本当に楽しくお仕事をさせていただく事が出来ました。
-「四声の序奏」「緩やかな即興」を初めて聴いたとき(弾いたとき)の印象はいかがでしたか?
「四声の序奏」はアトム誕生のシーン、という事を事前にお聞きしていました。しかし、誕生と言えども、これは非常に暗い曲…。初めはなかなかイメージをつかむ事が出来ず、この暗く悲しくも美しいメロディーをどうとらえて良いのか、少々困惑していました。「緩やかな即興」は、楽譜に書かれた音の一音一音から、その暖かさ、柔らかさが伝わってくるようで、いざピアノで音を出してみると、心がフワフワと漂うような、とても心地良い感じを覚えました。
-ブックレットの書簡を拝見しましたが、演奏するにあたっては、事前に曲のイメージなどを樋口さんと綿密に打ち合わせされたのでしょうか?
「綿密に」という程ではありませんでしたが、レコーディングに入る前に一度、樋口さんに私の演奏をお聴きいただきながら打ち合わせをさせていただきました。先程申し上げたように、特に「四声の序奏」については、なかなかイメージをつかむ事が出来ずにいたので、この曲にどの様な想いが込められているのか充分に理解する必要がありました。楽譜を読んでいるだけでは分からない事がたくさんあったので、演奏しながらの打ち合わせで、樋口さんからたくさんの助言をいただく事が出来ました。でも、打ち合わせを終えて、これで納得のいく曲作りが出来る…、と思っていたはずが、家に帰って再び「四声の序奏」を弾いてみても、どうもしっくり来ないのです。後から思うに、少々遠慮があって、樋口さんにお聞きしたい事を全ては聞けぬまま打ち合わせを終えてしまった、、、という事だったのでしょう。まあでも、考えてみれば当たり前かもしれないですよね。だって、樋口さんとは打ち合わせの時点で、まだお会いするのが二度目だったのですもの。その時点で、憧れの作曲家をつかまえてズケズケと何でも質問できるほど、私はずぶとくない、ってことですわネ!(笑)
それで後日お送りしたのが、ブックレットに載せられた、あのメールでした。おそらく樋口さんは、そうなる事(私がまだ納得行くイメージを持てずにいる事)を分かっていらしたのでしょうね。打ち合わせを終えた帰り際に、「まだ聞きたいこと、疑問に思う事があれば、いつでもどうぞ。電話でもメールでも気楽にしてね。」とおっしゃって下さっていました。そのあと、あのメールに至ったわけです。
-なるほど。ところで、ベートーベンやシューベルトといったスタンダードではなく、書き下ろしの曲を弾くというのは、ピアニストのかたにとってはどんなものなのでしょうか?
現存される作曲家の作品を演奏出来る事は、もの凄く幸せな事です!だって、作曲家が何を感じ、どんな思いが作品に込められているのか、直接ご本人にお聞きする事が可能なのですから!作曲家の息遣いを、肌で感じる事が出来る…、これは本当に素晴らしい体験です。でも、それと同時に、時にはプレッシャーもありますね。
-プレッシャーと言いますと?
私は、例えば映画に置き換えると、作曲家は脚本家で、演奏家は監督兼役者だと思っています。残された作品を演奏家が解釈し、演出し、演じて行く…、というのでしょうか。でも、これは、クラシック音楽の多くの場合、作曲家が既に亡くなってしまっているからであり、現代の作曲家の作品を演奏する場合、多少異なって来ると思います。現存する作曲家の書き下ろし作品を演奏する場合、貴重な生の声をお聞き出来る、と同時に、自分とは別の、もう一人の監督が目の前に座っているわけですよね。時にはそれが、鬼監督だったりもする。(笑)
樋口さんの場合、演奏家の解釈や個性をとても尊重して下さる方でしたので、鬼監督にプレッシャーを与えられる、なんて感じでは全くありませんでしたけど(笑)、やはり普段は味わう事のない緊張感がありました。
-おっしゃることは、よくわかる気がします。金子さんご自身は日本人作曲家の創作曲を弾かれる機会というのは多いのですか?
「私はクラシックばかりを勉強して来ましたので、ベートーベン、ブラームス等、ヨーロッパの作曲家の作品を演奏する事の方が、圧倒的に多いのです。でも、欧州で演奏会をすると、「日本の作品も聴きたい」という声を耳にします。日本の童謡などを演奏すると、あちらでは大変喜ばれたりするのですが、邦人作曲家の作品も、たくさん取り入れて行きたいと思っています。
-先日、コンサートで「四声の序奏」と「緩やかな即興」を演奏なさいましたが、金子さんのファンの方々の評判はいかがでしたか?
どちらも大変な人気でした!楽譜を手に入れたい、とのご希望もたくさん聞かれました。クラシック好きには「四声の序奏」の方が受けるように思っていたのですが、「緩やかな即興」も幻想的で素敵、との声も多くありました。
-CDになったご自分の演奏を聴かれていかがでしたか?田鷲警部の声に中断され、ムッとしませんでしたか?(笑)
ホールではなくスタジオ録音というのは初めてでしたが、オーソドックスなクラシック物とはまた違った響きがして、おもしろかったです。田鷲警部のドイツ語が懐かしくて、とっても楽しかったですよ!(笑)
-「MUSIC FOR ATOM AGE」全体をお聴きになって、樋口さんの作品について、感じるところがあればお聞かせください。
樋口さんの作品には、ソウル(魂)を感じます。作品が、クラシカルな物でも、ポップスな物でも、それが感じらてしまう…。凄い事ですよね。このレコーディングのお話をいただいた時、岩田さんより、クラシックから、ジャス、ポップスまで、様々なジャンルの曲が作られ、一枚のCDに収められる、と伺っていました。私はクラシックのピアニストですが、ジャズもポップスも大好きなので、何て素敵な企画なのかしら、と思っていましたが、出来上がった作品を全て拝聴させていただき、益々樋口さんの大大ファン!になってしまいました。
-樋口さんの書簡に「アルバムが終ったら遊びましょう」とありましたが、 遊びましたか?(笑)
まだ遊んでいただいていませーん!(笑)
-お好きなピアニストや作曲家を教えていただけますか?
リヒテル、ギレリス(私の恩師・ゴットリーブは彼の弟子)、ルービンシュタイン、ミケランジェリ等、やはり、巨匠と呼ばれた人の中に好きなピアニストはたくさんいます。彼らの音楽の深さや天賦のセンスは全く素晴らしいですね。女流で、ハスキル、ヘブラー等のあの美しい音色にも魅了されます。
好きな作曲家、、う〜ん、これもたくさんいて挙げ切れないくらいですが、バッハ、モーツァルト、ベートーベン、彼らがいなければ後の偉大な作曲家達へとは続かなかったかも…、という事で、この3人を挙げておきます。
-最後にCDをお聴きになっている皆さんに、一言メッセージをお願いします。
アトムの世界、、、樋口康雄の世界、、、、でも、主役は聴いているアナタ。。。。 イマジネーションをふくらまして、自由な世界を、どうぞお楽しみ下さいませ。
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