Le Velvets
「You!Us!We!the Concert」

オーチャードホール 2012/09/29

第2部



第2部、ステージ中央にバイオリン4、ビオラ1、チェロ1で編成されたLe Velvets Stringsが登場。チェロソロから始まるボロディンの「ノクターン」が第2部の幕開けを告げると、続いて、チャイコフスキーの「弦楽セレナード」がメドレーで演奏された。この曲の冒頭の1小節の荘厳な一撃は、何度聴いても、聴くたびに心掴まれる。100年、200年後の今も、こうして演奏され続ける曲を書いた作曲家たちは、本当に皆、天才だと思う。

ところで、この時点では、私は樋口さんがLe Velvetsとどう関わっているのか、はっきりとは知らなかった。関わってるとすればストリングスのアレンジだろうと予想してはいたが、確信はなかった。しかし、「弦楽セレナーデ」が終わろうとする、まさにその瞬間、予想は確信に変わった。そう、最後の1音が、まさに彼のの代名詞(笑)、ピチカートで締めくくられる、実に印象的なものだったのだ。

Le Velvets Stringsの演奏に続いて、彼らの演奏をバックに「カバレリア・ルスティカーナ 間奏曲」、「闘牛士の歌」「Time Say Good-by」「の3曲が間然するところなく歌われた。5人は、それぞれで役割分担しながらも、ソリスト集団の実力を遺憾なく発揮。その圧倒的なハーモニーの美しさと迫力は息を呑むほど。なにか、第2部に入った途端、思わず居住まいを正したくなるほど、一挙に音楽の風格が増したと感じる。

そして、このコーナー最後に歌われたオペラの名曲「Nessum Dorma!」も圧巻だった。コンサート当日の演奏は、弦が加わったことで、さらなる深みを増し、メンバーの歌唱も持てる力を存分に発揮した感じ。
コンサート当日の歌唱は、この↓動画(いつだか知らんが)とは比較にならないほど進化のあとが窺えた。やはり、彼らの魅力がフルに発揮されるのは、この手の曲なのではないだろうか。


もっとも、私のように既存のオペラを大仰で取っ付きにくいと感じる者は、そのように感じたが、本格的なクラシック・ファンで、歌声に豊穣で熟成した濃厚ワインのような味わいを求める人は、彼らの歌を「迫力が足りない」「色気が足りない」と感じたかもしれない。なかには「音大卒なのだから、この程度は歌えて当たり前」「音大卒にしては力量不足」と不満を感じる人もいただろう。
しかしLe Velvetsは、「本格の定義」を求めるのとは全く違う次元にあって、あらゆるアプローチを可能にしたクラシック・クロスオーバーというジャンルを選択したところに、Le VelvetsのLe Velvetsとしての存在価値があると思う。「クラシック・クロスオーバーだから(この程度○○の水準が低くても)・・・・」と妥協するということではなく、「本格の定義」に捉われることなく、虚心坦懐にその音楽に耳を傾けたいと思うのだ。

クラシックコーナーが終了し、Le Velvets Stringsのメンバー紹介があった。そして、「このLe Velvets Stringsをアレンジして手掛けてくださっているプロデューサーは…」とアナウンスが。
来た、来た、来た来た、来た! これは樋口さんが紹介されるに違いない。まさか、そんな場面があろうとは、これっぽっちも予想していなかったので、まさに衝撃MAX! Le Velvetsのファンには聞かせられないが、私は、コンサートのどの場面よりも、この瞬間が一番興奮した(爆)。もう、これだけで感激!これだけで満足!この場に居合わせることができただけで、このコンサートに来た甲斐があったというものだ。そして、その瞬間をかたずをのんで待った。
「このLe Velvets Stringsをアレンジして手掛けてくださっているプロデューサーは、大河ドラマや・・・・」えっ?樋口さんは大河ドラマはやったことないはず。あれ?と思っているとさらにこう続く。「大河ドラマやアメリカのオー○○○○(聞きとれず)フィルの作曲やアレンジをなさったかたで…」ここで、ますます混乱する私。「オーなんとかフィル?? そんな名前の楽団の仕事、してたっけか?」この時、私の頭の中では、脳内データベースを高速参照して、該当データを見つけようとしていた。しかし、そんな名前は見つからない。「待てよ。私たちが知らないだけで、樋口さんは、そういう仕事をしてたのかもしれない」「いや、やっぱり、それはないな。そんな大きな仕事をしてたら、いくらなんでもファンである私たちが、気づかないわけはない」普段はろくに頭がまわらないのに、こういうときだけ、やたらと頭の回転のスピードが速くなる。
「そうか…。プロデューサーって、樋口さんのことじゃないんだ。プロデューサーは何人もいるみたいだから、きっと、これは別のプロデューサーの経歴なんだわ」その時は、本気でそう思っていた。無駄に興奮して損したと思った(^_^;) そして、次の瞬間、ガックリと落ち込まないよう、努めてアナウンスをいい加減に聞こうとしていた。と、その時、「作曲家でもあり、プロデューサーでもある樋口康雄先生です」
嗚呼、なんてこっちゃ。期待と失望を幾度となく行ったきたりして、私はここで、どっと疲れた。あとから「オー○○○○」は、オーケストラだったと気がついた。アメリカのオーケストラフィル…つまり、ニューヨークフィルのことだったのだろう。でも、オーケストラフィルなんて言い方、あんまり聞いたことないよなぁ~(^^ゞ

樋口康雄先生は客席にいらっしゃった。しかし、立ちあがるわけでもなかったので、観客はどういうリアクションをとっていいのかわからず、拍手が起きるまで、少し間が空いた。こういうとき、樋口さんが、ちょっと機転を利かせてくれたらいいのに、と思ってしまう私なのだった。

このあと、来春、Le Velvets StringsがCDデビューするというニュースが発表され、大きな拍手が巻き起こる。結成6か月、まだ大学在学中のメンバーもいる若いストリングスのデビューは非常に楽しみだ。が、同時に「何をやるのだろう?」という疑問が頭をもたげた。オープニングで披露したような弦楽の名曲集?弦楽の名曲集なら、何もLe Velvets Stringsの演奏でなくても、名演がいくらでもある。まさか、それはないだろう。では、歌なしのLe Velvetsの弦楽カラオケ?それもいまいちピンとこない。Le Velvetsのファンは彼らの歌が聴きたいのだから、歌のない弦楽カラオケには食指が動かないだろう。だとしたら、Le Velvets Stringsのオリジナルアルバム?それなら聴いてみたいと思うかもしれないが、それではLe Velvets Stringsと名乗る必要性がない。Le Velvets Stringsが、すでにLe Velvetsの専属ストリングスとして、Le Velvetsとは別に、自分たちのキャラクターを確立しているなら、それもありだと思うが、まだ、彼らはそういう存在ではない。あくまでも、Le VelvetsあってのLe Velvets Stringsだ。となると、彼らがどんなCDを出すのか、凡人の私には皆目、見当がつかない。でも、樋口さんのことだ。きっと私たちが思いもつかないアイデアを温めているに違いない。それがどんなものなのか、来春のCDの発売を楽しみに待ちたい。

このあとは、この日、お誕生日の観客をステージに上げてバースデーコーナー。プレゼントが贈られ、メンバーがひとりひとりの名前を呼んで、「ハッピー・バースデー」を歌ってくれた。このアカペラは、なかなかの聴きものだった。この日、お誕生日だった人には、忘れられないプレゼントになったろう。ベタなコーナーではあったが、ほのぼのとして心和む時間だった。

しかし、プレゼントソングが「Cant’take my eyes off of you~Going out of my head」とわかったときは、笑えた。この曲を誰が選曲したかは知らないが、シングアウト復活コンサート、坂東玉三郎チャリティーコンサート、そして今回と、数えるほどしかない樋口さんが関わるコンサートで、3度も、この曲を演るのは、何か裏があるとしか思えない。なぜ、「Cant’take my eyes off of you~Going out of my head」なのか? いつか私は、この謎を解明したい(笑)。

それはともかく、「Cant’take my eyes off of you」は、決して悪くなかった。が、私が期待したものではなかった。歌いだしこそよかったが、途中、音程が甘かったり、リズムがもたったりするのが気になった。フェイクも板についていない。ポップス系の曲は、やはり、その出来に不満が残る。こういってはなんだが、玉三郎さんよりは、音楽技術的には彼らの方が上に違いない。にもかかわらず、胸がキュンとなるのは、恋する男の子の気持ちが伝わってくる玉三郎さんの歌のほうなのだ(少なくとも私は)。勝手な想像だが、彼らは自分たちが専門にしないポップス系の曲に対して、「いかに上手く歌うか」という意識が強く働きすぎているのではないだろうか。上手く歌おう、それらしく聴かせようという気持ちが先走り、逆に不本意な結果になっているような気がしてならない。

NEXT