Le Velvets
Le Velvets メジャーデビュー記念コンサート
オーチャードホール 2012/09/29

第2部 その2



「美しき旅立ち」は、「死は悲しいものではなく、先に逝って しまった人に会える最高の日である」という言葉を遺して亡くなったプロデューサーの友人のエピソードをもとに、湯川れい子さんに作詞を依頼し作られたオリジナル曲。ブラームスの「ハンガリー舞曲第5番」に大胆なアレンジを施し、それとわからないくらい完全なポップス曲に仕上げている。そんなエピソードを聞いたせいかもしれないが、コンサートではCDで聴くより、はるかに良い曲に聞こえた。CDではツインリードで歌われているが、コンサートでは、ソロで歌われていたという違いもあるのかもしれない。このソロがとてもよかった。誰がソロをとっていたか失念したが、ポップス系の曲の出来に少々不満を感じていた私も、彼(誰?)の歌には、そんな不満を微塵も感じることなく、ごく自然に聴くことができた。

このあと、第1部からバックを務めるバンドメンバー(ピアノ、ギター、ドラムス、コンピューター)の紹介があり、次に歌う曲目「VIVERE」「The Beat Of Love」、そして「Mi ViDa」とアナウンスがあると客席から声が上がる。どうやら「Mi ViDa」は人気のある曲らしい。

ピアノをバックに歌われた「VIVERE」は、素晴らしかった。私は、アンドレア・ボチェッリの名は知っていたが、この曲は恥ずかしながら全く知らなかった。こんな素敵な曲があったなんて!もちろん、そう思えたのは、Le Velvetsの歌が素晴らしかったからだろう。前半もいいのだが、後半のサビのコーラスの高揚感が素晴らしいのだ。なぜか私は、途中からイタリア語の歌詞が韓国語に聞こえて困ったのだが、イケメン揃いのメンバーを韓流スターと錯覚したのかもしれない(嘘)。

「VIVERE」から一転、「The Beat Of Love」は「新世界」をモチーフに、ロック風のハードなアレンジを施したオリジナル曲。その振り幅は絶妙で、実に心地良い。ロックファンの私は、イントロのギターソロに思いっきりテンションアップ。頭のファルセットのコーラスまでは「うん、なかなかイケてる!」と思いながら聴いていた。少々歌にビート感が不足しているように思えたが、会場の手拍子にも助けられ、前半はまずまずの出来。しかし、後半はコーラスが微妙。会場は大いに盛り上がっていたが、私は、そこまでノリきれなかった。でも、まあ、これはこれでいいかなと思う。なんたって、ライブはパッションが大事なのだから。それより、家に帰ってこの曲をCDで聴き直してみて、歌より曲に問題があるのではないかと思ってしまった。古いんだな、サウンドが。これとよく似た曲調、昔どこかで聞いたよなあと思って記憶をたどってみたら…思い出しました。84年のヒット曲、アルフィーの「星空のディスタンス」。ね、古いでしょ(^_^;) 

続く「Mi ViDa」は、スペイン風の曲に乗せてドラマティックな恋を歌った歌だった。自分はこの手の曲は、あまり得意ではないのでピンとこなかったが、なるほど、ファンなら情熱的な歌声は胸キュンものだろうなと思った。「Mi ViDa」を歌い終えた後、Le Velvetsのメンバー紹介が行われる。ひとりひとり自己紹介するたびに、会場からは黄色い歓声があがる。メジャーデビュー以前から彼らを応援してきたファンにとっては、今日という日は待ちに待った日だったに違いない。

そして本編最後は、「Let’s Kiss Tonight」。彼らのデビュー曲だけあって、よく考えて作られており、メンバーそれぞれのソロとハーモニーの両方の魅力を楽しめる非常によくできた楽曲。メンバーも自信を持って歌っており、ラストを飾るにふさわしい圧巻のパフォーマンスだった。

そして、お約束のアンコール。1曲目はエルガーの「威風堂々」をアレンジした「勝利への道」。「威風堂々」は、私が子供の頃、好きだった3大クラシック曲のひとつ(あとの2つは、バッハの「G線上のアリア」とシューベルトの「ます」)。なかでも「威風堂々」は、「威風堂々」でありさえすれば、なんでもいいというほど、理屈抜きで、この曲が好きなのだ。「勝利への道」は、初めて聴いたときから、この曲の威厳と風格を損うことのないみごとなアレンジと、日本語の秀逸な歌詞に大いに感激した。今、私が、もっとも気に入っている1曲が、この「勝利への道」だ。CD以上に溌剌とした若さにあふれた、張りのある明るい歌声が爽快で、客席の拍手も加わった大団円は、まさに私にとって「絶品級」の1曲となった。

このあと、Le Velvetsを協力にバックアップしてきた湯川れい子さんが紹介され、大きな拍手が送られる。しかし、2階席にいる湯川さんの姿は、真下にいる私の席からはチラリとも見えず。その場から取り残されたようで、ちょっと寂しかった。そしてLe Velvetsのプロデューサーであるロビー和田さんが紹介され、舞台袖からステージに登場、というか、無理やり引きずり出された(笑)。シングアウト復活コンサートの会場でお見かけしてから、はや10年。ロビーさんは当時に比べると、まるで別人のように貫録がついていた(笑)。

そして、いよいよ本日最後の1曲、アンコール2曲目は「第九」である。Le Velvetsがオリコンのクラシックチャート第1位となったという報告のあと、メンバーの佐賀さんが、「僕たち、この曲を紅白の舞台で歌いたいんです。どうか応援してください」と呼びかける。その時、私は「見えた!」と思った。多分、彼らが狙っているのは、第二の秋川雅史(爆)。テノール歌手の秋川さんは、2006年の紅白で「千の風になって」を歌ったことがきっかけで、大ブレイク。Le Velvetsも紅白に出場すれば、そうなる可能性は高い。

夢を乗せて歌われた「第九~喜びの歌」は、名曲の魅力を上手に抽出したアレンジと、男らしさを感じさせる力強い渾身の歌唱で満員の観客を圧倒。場内割れんばかりの拍手で、最高のフィナーレとなった(バックの音が、もう少し生音に近ければ最高だったのだけれど)。

Le Velvetsの持てる力を余すところなく発揮したデビュー記念コンサートは、掛け値なしに「大成功」だったと言える。個人的に、今回のコンサートでの一番の収穫は、久しく忘れていた“声”や“ハーモニー”の魅力を堪能できたこと。細かな技術的問題や今後の方向性など、課題は多々あると思ったが、声もルックスもよい彼らは、今後に期待できる。Le Velvets Stringsとの絡みも含めて、今後の展開が非常に楽しみだ。

中高年が聴く音楽がなくなって久しい。そこに、ようやくLe Velvetsのような大人が夢中になれる若いアーティストが登場したことを嬉しく思う。そしてメジャーデビューコンサートという記念すべき場に居合わせることができた幸運と、樋口さんの音楽を生で体感する機会を得た幸せに感謝したい。