「お疲れさまでした」
赤城がベッドルームから出てくると、まず声をかけた人間がいる。
スウィートのリビングでゆったりとソファに座り、その手にはルームサービスを頼んだのかカップが握られていた。
茶葉の芳醇な香りが部屋中を満たしている。
赤城はそんな人間を気にすることもなく、カーゴパンツだけを履いた格好で後ろを通り過ぎた。
そして、備え付けの冷蔵庫を開けるとよく冷えたミネラルウォーターを取り出すと、一気に半分程度を飲み干した。
「ふー」
「お盛んですね」
「まあ、久しぶりですから」
「アレのどこがいいのか、さっぱり分かりませんが」
「別に理解されたい訳じゃないので」
お互いに決して目を合わさず、別の方向を見ながら話し続けている。
「で、どうなりましたか」
「それは当然」
前中がニッコリと笑うと、対照的に赤城は無表情のままに
「当然ですね」
と言う。
そして、言いながら2人はそれぞれ喉を潤す。
「バカな人間が考えることはどうしても浅はかで、短絡的だ」
前中が笑顔のまま辛辣な言葉を放つ。
「本当に・・・。
どうして私みたいな人間が洋の後見人に名前を連ねているのか、そして彼が今どんな生活をしているのか。
そんなところをきちんと調べれば、こんなバカな計画を思いつくこともなかったでしょうに」
「刑期を終えて出てきた。
その間にもアレは一言も漏らしていないというのに・・・
小心者はいつまでも、どこまでもノミの心臓しか持っていないと・・・」
「だからって、私を使って洋をどうこうしようと考えるなんて」
赤城の飲んでいたペットボトルが空になる。
「でも、私は少し楽しませていただけましたよ」
「ノミはどうするつもりなんですか」
「放っておきます」
前中はポットから少し濃い目の紅茶をコップに注ぐと、横に添えられていたミルクをたっぷり入れる。
「逃げようとするのを追いかけて潰していくのが楽しいんですよ。
一気に潰してしまえば、楽しみが減りますから」
赤城はそれには答えず、ペットボトルをゴミ箱に放り込むと
「じゃあ、また」
ベッドルームに再び戻っていった。
「な、何・・・し、失敗だと・・・。
ま、まずい・・・まずいぞ・・・。
このままだと・・・・こっちに被害が・・・
・・・・・い、嫌だ、死にたくない」
** あとがき **
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
実は、最後を読んでいただければ分かりますが・・・これは序章的な感じです。
本当に書きたかったのは、次の話です。
またそちらもお楽しみいただければと思います。
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