運動量と力の類推  

(2013年11月30日)


 ある質量mの物体が
一定速度vで運動しているとき、この物体は運動量p=mvを有している。これは運動量の定義である。速度は相対的であるから暗黙のうちに一つの座標が想定されている。


 例えば、野球でピッチャーの投げたボールの速さが
150Km/hというような場合、バッターまたは審判者から見ての速さである。あるいは、観客から見た速さと言っても良い。つまりこの場合、暗黙の座標は地面に固定された三軸直交座標系である。

 今、物体とはこのボールのことだとすると、運動量p=mvはキャッチャー・ミットに収まったときにその大きさを実感することが出来る物理量である。ミットに収まるまでは、運動量と言うのは単に速度に質量を乗じたという抽象的な量に過ぎなくて、実態のある量ではないことを認識する必要がある。

 つまり、ボールに固定した座標で見れば、そのボールの速度は常にゼロであり、運動量もゼロということになるからである。

 ピッチャーが秒速
150Km/hで走っている列車の中で進行方向と逆にボールを投げたのだとすると、地上から見てそのボールは静止してしまうことになる。地上で見たこのボールの運動量もゼロである。

 ニュートン力学における運動の第一法則である慣性の法則は次のことを言っている。物体に何も力が働かないとき静止しているものは何時までも静止しており、運動している物は一定速度を続ける。

 運動とは座標を決めないと静止と運動の区別がつかないものであると言って良い。自分が静止しているのか相手が静止しているのか、決めようがないということをガリレオの相対性原理という。

 
今、物体とは一定速度で走る列車であると想定したとき、この列車の室内では、列車が静止しているのか一定速度で走っているのか判定する方法はない。静止している列車内でも一定速度で運動している列車内でも全ての物理法則が同じであるから区別できないのである。全ての慣性系では物理法則が同じであるということをアインシュタインの等価原理といっている。

 ついでに、観測者が一定の速度で走る列車の中にいようと、地上にいようと光の速度は一定であるというのが光速度一定の原理である。物理法則の等価原理と光速度一定の原理を基にして矛盾のないようにするための推論から導かれたのが特殊相対性理論である。この理論の最も重要な結論が、エネルギーと質量の関係式
E=mc^2である。

 上述の例で一定速度で走る列車といっても、地上の列車は重力で下に動こうとしているのをレールからの反力で支えられている。このことを無視しているので、実際にはあり得ないが、想定されていたのは銀河鉄道のように、何もない宇宙空間で想定された列車の話であったことになる。

 地上では空間に投げ上げられた物体、あるいは上空に上がった飛行船から落とされた物体は、ほぼ一定の加速度gで落下していく。空気抵抗もない落下を自由落下という。この物体の質量がmであるとき、重力加速度gにこの質量mを乗じた量、W=mg は力の次元を持つ。果たして、このWを重力という力であると考えて良いのだろうか。

 このWが力であると実感することが出来るであろうか。運動量と同じように、重力加速度に抵抗したときに始めて、力と実感できるのである。重力加速度も座標に依存し、W=mgは見かけの力であることを意味している。

 
自由落下している物体がエレベータであると想定したとき、このエレベータの中では上述の慣性系のエレベータ内と全く同じ状態である。このことに初めて気がついたのがアインシュタインで1907年のことであった。彼は生涯最高のアイデアであったとまで言っている。

 地上における重力場でのように自由落下する空間と何もない空間で物理法則が同じであるという相対性原理と光速度一定の原理から帰結できることは何かを表現したものが一般相対性理論である。このためには難解な数学が必要であった。

 現在、
等価原理としてはいろいろな表現がなされているが、自由落下する空間と何もない空間での物理法則が同じであるということが本来の等価原理である。

 運動量は抽象的な量であって運動量そのものの存在を直接に実証することはできない。運動量は座標に依存するので見かけの運動量である。単に運動量と言うのは見かけの運動量しかないからである。

 
これに対して、力の場合は質量に重力加速度を乗じただけの抽象的な量(みかけの力)の他に、その物体内部に応力と歪を発生させる外力(実際の力)とがある。

 実際の力
Fは質量mの物体に働くと、内部に応力・歪を発生させると共に、その物体を加速度αで運動させる働きがある。このときの関係式F=mαがニュートンの運動の第2法則と言われるものである。

 
自由落下する物体は重力加速度gでの運動をするので、この運動が起こらないように静止を維持するためにはF=mgの外力が必要である。地面に置かれた質量mの物体は地面から反力=mgという外力を受けている。

 大自然には重力(Gravity)というすべての物体に加速度運動を起こす作用がある。この加速度に質量を乗じた量は力の次元ではあるが見かけの力である。つまり、ニュートンの万有引力はみかけの力である。

 

 運動量

 力

 見かけ(数式上のみ)の存在

 〇

 〇

 実際 (実測可能)の存在

 ×

 〇


(了)


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