(2017年3月16日)
力は目に見えないので力とは何かを説明することは簡単ではありません。しかし、だれでもが力についてのイメージを持っていると思います。何かを動かす元となっているものが力だという説明はどうでしょうか。多くの場合はこの説明で良さそうです。力という言葉は便利なのでいろいろな場合にどんどん拡張されて使われています。他人を睨みつけるだけで睨まれた人が怖いと思うような人は目力があると言います。心理的な影響を与えるだけであっても力がある人と言ったりします。
力とはもともとは物理の用語です。今、物体に力が作用する状況を想像してみましょう。物体もいろいろなものがありますし、力を発生するものもいろいろあります。物体に力が作用するとき、力はその物体の外から加わります。そして、必ず表面を通して力が加えられます。決して、力は点で加わるのでもなく線で加わるものでもありません。面を通して加わるということは常に圧力として作用するということです。物体には圧縮力として作用するということであって引き張り力として作用することは出来ません。
実際の例で少しあたってみましょう。野球の大谷投手は時速160kmを越える速さのボールをキャッチャーめがけて投げることができます。この速さは秒速に直すと40m程度です。ボールを持った手を振り上げて投げ始めてからボールが手を離れるまでの時間はどのくらいでしょうか。動画で撮って解析すれば正確に測れるでしょうが、仮に0.1秒であったとしましょう。つまりボールに0.1秒で40m/sの速さを与えたことになります。これは加速度400m/s^2が0.1秒間続いたことになります。
硬式野球のボールは質量が150g程度あります。このボールに加速度400m/s^2を生じたということは0.1秒間ボールに(150×400/1000=60)、60kg・m/s^2=60Nの力が加わったことになります。この値は6Kg重の力です。この計算は0.1秒間同じ大きさの力であると仮定した結果です。実際には瞬間的に10kg重程度の力が加わっているのでしょう。もう少し大きい力が瞬間的にかかるのかも知れませんが、100kg重を越えることはないでしょう。投手の手が壁を押すだけなら大きな力で押せても、相手がボールではあまり大きな力をかけられないということでしょう。
物体がボールで力を加えているのは投手の手の平でした。物体に力が加えられるとその物体に加速運動が引き起こされます。実はもう一つ変化があるのです。力を加えられた物体は必ず内部に応力とひずみを生じるのです。ボールが完全な剛体であればひずみは生じませんがこの世に完全剛体は存在しません。
力が物体に作用すると二つの効果があります。
@ 物体に運動変化を起こす。
A 物体内部に応力・ひずみが生ずる。
現在の力の定義は次のようなもので、ニュートン以後300年の歴史があります。力学の教科書には次のように書かれています。
「通常単位質量の物体に作用したとき、単位の加速度を生ずるような力を単位の力とし、このようにして定めた単位を力の絶対単位という.この絶対単位は質量、加速度の単位により、1sの物体に作用して1m/s2の加速度を生ずるような力を1ニュートンの力といい1Nで表す.」岩波講座基礎工学力学I、小野周著、(P.23)
明らかにこの定義では二つある力の効果のうちの最初の一つを使ったものです。この定義はニュートンの運動の第2法則「力は質量と加速度の積である」ことを使っています。
実はこの定義では不都合があるのですがこれまで誰も指摘していなかったようです。あまりにもニュートンが偉大な科学者であったからかも知れません。
不都合な点は次の通りです。
@
物体に同じ力が逆方向から作用したとき加速度はゼロで動かない。
加速度はゼロでも力はかかっているのです。
A
力が作用しているか否かが座標系に依存する。
ロケットがエンジンを作動させているとき、外から見ればそのロケットは加速度運動をしていることが判りますが、ロケットに固定した座標系でみると加速度ゼロですから力が働いていないことになってしまいます。座標系に依存する物理量として運動量もありますが、力の定義に座標系に依存することは不都合です。本来、力は座標系に依存しない量なのですから。
力の定義をAで決めた方が良いように思えます。フックの法則は物体のひずみは応力に比例するのです。これを使って力原器を想定するのです。力原器は温度変化の少ないイリジウム白金合金でつくるバネです。
力原器に1Nの力を加えたら1mの長さの変化が出るようにつくります。実際につくるなら、1Nのちからでは1oの変化のバネにする方が現実的でしょう。しかし、物理の概念としての定義を変えるだけですから実際に力原器を作る必要はありません。実務ではこれまでどうりの方法で力を決めれば良いのです。
質量の定義はこれまでkg原器で決められていました。現在は廃止されて原子の量などで決められようとしていますが、物理の定義としては質量の特性から決めるべきでしょう。質量の特性は力に対して運動変化に抗する程度、つまり慣性を示すことにあります。
これまでの力の定義をそのまま質量の定義に置き換えれば良いのです。
1Kgの質量のある物体に1Nの力が加わったときその力の方向に1m/s^2の加速度を生ずる。
この新しい力の定義によれば、重力は力ではありません。物体は重力により自然落下という加速度運動をしますがその物体内部には応力・ひずみは発生していないからです。
また、自然界に存在する四つの力はすべて新しい定義の力ではありえません。物理学者の中には既に自然界に存在する四つの相互作用と言い換えている人もいます。重力も四つの相互作用の一つであることには違いありません。
(了)
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