(2011年12月6日)
重力という自然界の現象は実際の力でなく見かけの力に過ぎない。見かけの力という用語は外力でないという意味で使われていることが多いが、ここでは見かけの力とは、数式上で力の次元を持つ量ではあるものの、実証できない力であるとする。
例えば、外力に釣り合う慣性力は見かけの力でなく、実際の力である。力は必ず釣り合い状態にあることは「暖簾に腕押し糠に釘」という諺にもあるとおりである。実際の力とは物体内部に応力を発生させる作用である。
ニュートンの運動の第2法則である
F=ma
を念頭において、力とは物体に作用するとその物体に加速度を与えるものと理解されていることの方が多いかもしれない。特に、質点系力学では物体の質量も1点に集中していると考え、応力の概念は無視している。軌道解析などでは質点系力学で十分用を足すのである。
質点系力学では見かけの力と実際の力を区別できないことも留意する必要がある。また、ニュートンの運動の第2法則は力の定義式でもなく、質量の定義式でもない。この法則はF/mが加速度に等しいということを定義しているものである。一つの式で二つの量を同時に定義することはできないからである。
これに対して材料力学で対象とする力は物体に生ずる応力や歪を問題とするので、実際の力である。重力が力でないという意味は重力が実際の力でないという意味である。重力加速度gに質量mを乗じた量mgは見かけの力であって、実際の力でないという意味である。
重力が実際の力でない証拠は二つある。
(1)
如何なる加速度計でもゼロであることしか検知できない
通常の加速度計はどのようなタイプのものも、力により生ずる変位を検知している。そして、換算により力の表示にしている。重力加速度計と称したものも、実は重力による運動を止めた反力による変位を計測しているのであって、重力を直接検知しているのではない。
(2)
座標の取り方により消えてしまう
アインシュタインが2007年にエレベータによる思考実験で気がついたことであるが、自由落下する物体には重力が消えているということである。実際の力は座標の取り方で消えたり現れたりしない。質量と同じく、座標の摂り方に関わらず、あるものはあるし、ないものはない。
自由落下するエレベータに固定した座標系で見れば、エレベータ内部の重力による加速度はゼロである。従って、質量を乗じてもゼロであり力は消えている(無重力)。宇宙ステーション内部も同じ状態である。一方、宇宙ステーション内部でも紐につけた重りを振り回せば、その紐には力が加わる。手で引っ張る実際の力と遠心力(慣性力)が釣り合っているからである。
(了)
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