同じデブリと再衝突するのは45分後  

(2014年1月7日)


映画「ノン・グラビティ」の中でひょっとすると作者の勘違いかと思われる場面がありました。

映画の設定の問題であるからとやかくいう筋合いのものではありません。特に宇宙から見た地球が美しく、国際宇宙ステーションで活躍する宇宙飛行士が見ているであろう光景を映し出していて素晴らしい映画です。ステーション内で無重力状態にある宇宙飛行士の様子も良く出来ています。しかもこの映画は3Dなのです。

映画は国際宇宙ステーション(ISS)に、ロシアの衛星の破壊によるデブリの1群に襲われてメディカル・エンジニア役のサンドラ・バロックだけが九死に一生を得て地球に帰還できたという物語です。もう一人の出演者であるジョージ・クルーニがベテラン宇宙飛行士役でこの二人は船外活動をしていたのです。宇宙ステーション内の人たちは画面に出た時はすでに死んでいます。

ジョージ・クルーニはサンドラ・バロックだけでも助けるために自ら手を放すシーンがあるのですが、これは明らかに説明不足で宇宙関係者なら手を放す必要性に誰もが首をかしげます。

国際宇宙ステーション(ISS)は高度約400Kmを回っています。一方、映画の宇宙ステーションは高度約600Kmの設定でした。何故、この設定が必要であったのでしょうか。

地球を回る高度が違うと周期が少し違います。JAXAのホーム頁に出ている式から計算してみると次のようになります。
400Km:V=7.67 Km/s、T=5550秒(92.5分)
600Km:V=7.56 Km/s、T=5800秒(96.7分)
http://iss.jaxa.jp/shuttle/flight/sts99/earthkam_01_2.html

さて、映画ではジョージ・クルーニーがサンドラ・バロックに次のように言って作業を急がせます。
「90分でデブリに再び襲われる!」
90でなく97分だろう、とのツッコミはお笑いです。ここは97分であろうと93分であろうと低軌道の衛星はすべて簡単に言えば90分で地球一周です。

宇宙ステーションもデブリの一群も同じ高度を回って、90分で一周するから衝突は90分ごとであろうと、この映画の作者は早とちりをしてしまったのではないでしょうか。

デブリの一群が宇宙ステーションを襲ったなら、次は45分後に反対方向からぶつかってくるのです。従って、ジョージ・クルーニは急がせるなら90分後でなく45分後だと言わなければならなかったのです。

衝突したデブリの1群が再衝突するという設定なら、宇宙ステーションの軌道とデブリの1群の軌道には次の関係があるということです。
・軌道高度は同じ(円軌道が仮定されています。)
・軌道面が交差している。

軌道面の交差角が大きいほど衝突時の相対速度が大きくなります。180度ですと同じ軌道面をデブリは逆方向に回っているということで、この場合相対速度は16Km/sにもなります。交差角がゼロですと、デブリは何時までたっても衝突しません。交差角が90度でも相対速度は11Km/sもあります。これほどの速度ですとデブリが衝突するときは目にも止まらぬ速さでしょう。却って近づいて来る怖さはないかもしれません。

交差角が何度であろうと、軌道面が交差するのは常に地球の反対側ですから、周期が90分なら半分の45分ということになります。宇宙ステーションから見ると、同じデブリの一群が45分後に戻ってきて衝突するように見えるでしょう。

サンドラ・バロックは最後に中国の宇宙ステーションに辿り着いて、その宇宙船を利用して地球に帰還します。この設定が成り立つためには、中国の宇宙ステーションも同じ軌道面にある必要があります。何故、中国の宇宙ステーションはデブリの一群に襲われなかったかという説明は軌道高度が低かったからという理由で良いでしょう。

モデルとしたISSの軌道高度は400Kmであるのに、主題の宇宙ステーションの軌道高度を600Kmに設定したのは、このためではないでしょうか。

(了)


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