ニュートンは万有引力をどのように発見したか  

(2016年3月9日)


 ニュートンはリンゴが木から落ちるのを見たとき万有引力の考えがひらめいたと伝えられている。この話は後世の人の脚色であるとする本も多く、事実かどうかは判らない。しかし、地上で落ちるリンゴと同じように地球から遠く離れた月も地球に落ちていると考えて万有引力の式を導き出したことは事実のようだ。

 月は地球から38万km離れて地球を周回している。月は地球を27.3日で回るから速度も計算できる。そして、月が地球に向かって落ちる程度は1秒間に1.3×10^-3 mであると計算できる。一方、地球の中心から6,400kmの距離にある地表面で物体が1秒間に落下する距離は4.9mである。
 
 地球が物体を引き付ける力は距離が遠いほど弱いから月が1秒間に落ちる距離は小さいのだとニュートンは考えた。そして、その比を計算すると
         1.3×10^-3/ 4.9 =1/3,800

 この値は同じ物体が月の距離で受ける地球の引力と地表面で受ける地球の引力の比であると考えた。すると、地球の中心からの距離の二乗の比は
         (6,400/380,000)^2=1/3,500

 大体、これら二つの比が等しいことから、地球の引力は距離の二乗に逆比例すると考えた。

つまり、地球の引力Fは比例乗数をAとして、次式の形になると考えた。
          F= A/r^2
このとき、Aは無次元定数ではなく、[kg・m^3/s^2]の次元を持つと考えれば良いことになる。          

さらに、大きな星の引力は小さい星の引力より大きい筈だから、この引力は地球の質量に比例していると考えるべきであろう。すると地球の質量をMとして、次式のように表すほうが良さそうである。
          F= BM/r^2
このようにすれば、比例乗数Bの次元は、[m^3/s^2]となる。

次に、地球上で物を落とすと小さい質量も、大きい質量も同じ加速度で落ちることはガリレオの実験で明らかだから、物体の質量をmとして、F=mgという形で表すこともできなくてはならない。つまり地球によって引かれる力はその物体の質量にも比例するはずである。こうして、ニュートンは万有引力の式(1)を得た。

          F= GMm/r^2                 ・・・(1)
比例定数Gは[m^3/(kg・s^2)]を持つことになる。これが万有引力定数と呼ばれる自然が決めた定数である。

F=mgで表すと、
          g=GM/r^2                  ・・・(2)
これは重力加速度と呼ばれ、その次元は[m/s^2]である。

ニュートンはこの(1)式が成立するならば、ケプラーの法則が成り立つことを確認した。ニュートンはこの結果を発表していなかったが、20年近く後にハレーから「なぜケプラーの法則にしたがって惑星は運行しているだろうか」との質問に対し、直ちに「それは万有引力があるからだ」と答えることができた。ハレーはニュートンを励まし、それまでの成果をまとめるように勧めた。この結果がプリンピキアである。

(ここで迄は次の資料を参考にしている)
教養のための物理学、楠川絢一、他、実教出版、1987年

ここで、万有引力の式に組み込まれた質量は重力質量と称するものであって、ニュートンの運動の第2法則であるF=mαに現れる質量(慣性質量)とは概念的に異なるとされている。

質量の特性としては動かしにくさがだけであって、その単位も[kg]である。従って、重力質量m(g)と慣性質量m(i)が異なるとしてもその違いは比例定数γ[無次元]として、m(g)=γm(i)となるだけである。

(1)式を導くときに慣性質量で置き換えたと考えれば、γは(Mの1個であろうと、Mとmの2個であろうと)、万有引力定数Gに含まれているとみなすことができる。つまり、重力質量なる概念は論理的に最初から不要であったことが判る。質量はその意味からも慣性質量でしかない。

物体の質量は、質量の単位を決めているキログラム原器と天秤で比較することで精度よく決めることができる。しかし、これは重力質量である。慣性質量が重力質量と異なるならば、慣性質量をどのように実測すれば精度よく決められるものであろうか。物体に一定の力を加えてその加速度を精度よく測定することによって質量を決めるというのは難しそうである。

エトヴェッシュはねじり秤を用いて、重力質量と慣性質量の比が1に近いことを示したとされている。もともと、違うはずがないのである。

重力質量が不要の概念であると指摘している人は小野健一ぐらいである。
アインシュタインの発想、小野健一、講談社、1981年

ニュートンは(1)式で表すような万有引力が働いていると考えればすべての天体の運動が説明できるとし、大成功を収めた。そして、惑星の観測データから見つけられたケプラーの法則がなぜ成立しているのか判らなかった謎が解けたとされている。
           
しかし、ケプラーの法則から万有引力の式を導くこともできるのある。「なぜケプラーの法則が成立するのか」という疑問は「なぜ万有引力の式が成立するのか」という疑問と等価である。

ニュートンが「ケプラーの法則を組み合わせると万有引力の式が導ける」とハレーに説明していたら、ニュートンの評価は少し下がってケプラーの評価が少し上がっていたかも知れない。

ニュートンは「なぜ万有引力が成立するのか」について、「howは説明できてもwhyは説明できない」として答えていない。

ニュートンの万有引力の式は実証されていると考えられている。ところが、実証されているのは重力加速度であって、力であることは実証されていない。そればかりかアインシュタインによって否定されている。このことが現在のニュートン力学では反映されていない。

天体観測などで、GMの数値は10桁程度の精度で求まっているが、GやM単独では4,5桁の精度でしか求まっていない。この事実は何を暗示するのであろうか。

(了)


戻る