(2017年5月1日) ニュートンばね秤というものがある。何のことはない。普通のばね秤のメモリをkgでなくN表示にしただけのもののようだ。 現在の中学、高校では重さと質量を明確に分けて教えている。大学ではどうなのか知らない。質量の単位はkgであり重さは力であるから単位はNなのである。ニュートンばね秤は時代にあっている。近い将来、体重計もN表示になるであろう。 ニュートンばねばかり ばねばかり 今の大人は体重500Nと言われてもピンとこないという人が多いかもしれない。しかし、これは質量50kgの人が体重計に乗ると約10倍の数字500で表されるだけであるから尺貫法からメートル法に切り替えたことに比べれば殆ど混乱は起きないだろう。 体重計に乗る人が知りたいのは本当は体の質量、つまり体質量である。重さは測る場所によって異なるからである。極端な場所として地球を周回する国際宇宙ステーション(ISS)の中ではどんな巨漢でも体重はゼロである。 地球の表面では重力加速度がどこでも大体同じなので、同じ質量のものは同じ重さである。この事実を利用して質量を測っている。 質量を測る計器は天秤である。天秤は片方の皿に測定したいものを乗せ、他方に質量の既知の分銅を乗せてバランスが取れた時に分銅の質量の和が目的とする質量である。同じ場所では重力加速度が同じであるから両方の皿に乗った質量が同じと判断できる。 天秤 昔のさおばかりも殆ど同じ原理であるが、重りの位置を変えることで左右のモーメントが同じになった点を読み取る。質量を重さ(力)に変えて測定している点では同じである。 さおばかり 皿さおばかり 体重計は重さを測る計器であるから力測定器(力センサー)の一種である。他に力センサーはロードセル、アナログ秤、料理秤、ゆうメール秤、など目的に応じて様々な種類がある。ばねの収縮を直接針の動きに変えるものであったが、最近は体重計もデジタル秤に変わった。デジタル秤ではひずみゲージを貼ってその収縮・伸長による抵抗変化を電流値に変えて読み取っている。 汎用電子体重計 ロードセル ゆうメールはかり 加速度計も実は力センサーである。慣性センサーと呼ばれることもあるように慣性力を検知しているのである。地上において使う体重計をロケットの搭乗員が使えばその体重計は慣性センサーである。 このように、力を測定するときに使う力センサーは、天秤を除き、ほとんどすべて物体が力を受けると歪が生じることを利用している。それならば、力の大きさを定義する基準となる秤を作る必要があるのではないだろうか。 ところが、現在の力の定義は、質量1kg の物体に1m/s^2の加速度を与える大きさを1Nの力というのである。加速度を測定して力の大きさを算出することはあるのだろうか。地球上ではまったくないといって良いだろう。 ロケットのエンジンが発生する力ですら地上に固定して点火し、ロードセルを使ってどの程度の大きさの力が発生できたかを知るのである。これをロケットエンジンの地上燃焼試験という。そして、実際に飛行させた時の飛行状態から地上燃焼試験で分かったとおりの力を出していることを知るのである。 国際宇宙ステーション(ISS)内で長期に活動する宇宙飛行士の健康管理のために体質量測定は重要である。ISS内で体重計は使えない。無重力環境での体質量測定は、ばねの強さと質量の大きさで振動数が決まることを利用している。ばねの強さが同じなら体質量の大きい人ほど振動数は低くなる。ゴム紐で引っ張って動きを見る方法もある。 宇宙ステーション内での体質量測定 力の大きさを加速度で定義しているのは歴史的な経緯がある。チコ・ブラーエによる惑星の正確な観測データを利用してケプラーは惑星の運動に関して三つの法則を打ち立てた。この三つの法則から演繹的に導き出せるのは惑星が常時加速度運動をしているということである。しかし、ニュートンは加速度運動があれば力が作用していると考え、力の式である万有引力の法則とした。 ニュートンの万有引力の法則は大成功を収めたものの、200年後にアインシュタインによって否定された。万有引力という力は働いていないのである。加速度運動があるだけである。 以上のことから、近い将来、力の定義は物体のひずみに着目して定義し直されるに違いない。また、質量の唯一の特性が動かしにくさであるから、質量の定義こそニュートンの運動の第2法則で定義されるべきであろう。現在の力の定義を質量の定義に読みかえただけであるが、「1kgの質量は1N の力を作用させると1m/s^2の加速度を生じる。」と。 (了)
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