モンティ・ホール問題  

(2009年9月145日)


1.オリジナルの問題

 米国のテレビで視聴者参加番組があります。司会者はモンティ・ホールという人です。スタジオにはA、B、C、と三つ部屋のドアがあってその各々のドアの後ろには賞品が隠されています。ゲストに選ばれた視聴者の一人がやることは自分の好きなドアの前に立つだけです。

 どれか一つの部屋の後ろには高級乗用車のキャデラックが置かれていますが、他の二つの部屋には山羊が一匹づつ繋がれています。もちろん、ゲストはキャデラックを当てたいと思っています。モンティはどの部屋にキャデラックがあるのか事前に知っています。

 さて、ゲストは三つのドアの一つを選んで、例えば、Aのドアの前に立ったとします。残った二つのドアのうち少なくとも一つは山羊のドアです。それをCだったとすると、モンティはそれを知っていますから、Cのドアを開けてゲストに次のように言います。

 「あなたはCを選ばなくて良かった。さて、あなたはAのドアを選んでいるが、今ならBに変えても良いですよ。」

 さて、ゲストはAのドアを選んだままで良いのでしょうか、それともBのドアに変えるべきでしょうか。あなたがゲストならどうしますかといのがモンティ・ホール問題です。問題1とします。

 最初のうちこの番組でゲストに選ばれた人の行動は、殆ど次のように考えてドアを変えませんでした。

 「ドアは三つあるのでキャデラックが当たる確率は1/3であった。司会者のモンティは山羊の居る一つのドアを開けてくれたので、当たる確率は1/2にまで高くなった。選ぶドアをBに変えても当たる確率は1/2だし、もし変えて外れた場合には後悔が大きいだろうから、選んだドアは変えないでおこう。」

 多くの人の直感的判断はこのようなものだったのです。しかし、正しい判断はこの直感に反するものなのです。

 正解は、ドアを変えるべきであり、変えなければ当たる確率は1/3のままであり、1/2までに高くなったのではないのです。ドアをBに変えると当たる確率は2/3に上がるのです。

 このことが広く知られてからは、ゲストは少しも迷わずにドアを変えるようになり、番組はつまらなくなってしまいました。ゲストは少しも悩まずにすぐドアを変えるからです。

 モンティ・ホール問題は、時々確率の本に紹介されています。情報をすべて組み込まないと正しい確率でないことの説明に使われているのです。モンティ・ホールが一つのドアを開けてしまったので、確率は1/2になったと考えるのは、事前情報としてドアが3つあったことを忘れているというわけです。

2.ゲストが二人なら

 さて、ここではモンティ・ホールの問題を少し変更します。有名な問題なので、変形もいくつか考えられています。これらを比較検討することによって本質が見えてくるでしょう。

 モンティ・ホールはテレビの視聴者参加番組の司会者です。スタジオにはドアが3つあり、その二つのドアの後ろには山羊がいるだけですが、もう一つのドアにはキャデラックが置かれています。今度はゲストが二人いて、一人はドアAを、他の一人はドアBを選んだものとします。

 モンティ・ホールは最後のドアCを開けて「あなた方は二人ともドアCを選ばなくて幸運でした。Cは山羊だったのですから。お二人は今ならもう一度ドアAとBを自由に取り替えても良いですよ。同じドアを選んでも良いですよ。」と言います。

 二人とも同じドアを選んでキャデラックが当たった場合には二人ともその車を貰えることになっています。果たして、前のように取り替えた方が確率は高いのでしょうか、取り替えなければ確率は1/3のままなのでしょうか。最初に、Aを選んだ人も、Bを選んだ人も条件は同じであることが判ります。この問題を問題2とします。

 今度の場合は、ドアを取り替えても、取り替えなくてもキャデラックが当たる確率は1/2に高まっています。ゲストが一人の問題1では取り替えた方が確率は2/3と高かったのです。この違いはどこから来るのでしょうか。

 問題2はモンティ・ホールがドアCを開けることができたというところに問題1との情報の差があります。もし、ドアCがキャデラックだったら、モンティ・ホールはドアを開けたらその時点でゲームは終了になってしまいます。従って、ドアCがモンティによって開けられたというのを知った時点で、ドアAとBは確率1/2に高まったのです。

3.100のドアなら

 モンティ・ホール問題の現在の常識は、直感に反してドアを変えることによって確率が2/3に上がるというものでした。直感的には1/2だからドアを変えても変えなくても同じと思う人が多いことがこの問題の面白さでもあったのです。しかし、直感的にドアを変えた方が正しいと思うために、次の問題を考えてみることでしょう。ドアを3つでなく100に増やしたもので問題3とします。

 ドアが100あって、キャデラックは1台だけどこかのドアの後ろにあります。残りの99のドアの後ろにはどれも山羊がいます。ゲストは100のドアから一つを選びます。そして、モンティはゲストが選ばなかった99のドアから、山羊のいるドアを確かめながら次々に開けていって、一つだけ残します。そして、モンティは同じように言うのです。

 「あなたは選んだドアを私が残したドアに変えて良いですよ」

 この場合もあなたならドアを変えませんか。それとも当然変えた方が良いと思うでしょうか。

 最初に100あるドアから一つ選んだときはキャディラックがあたる確率は1/100だと考えたでしょう。ここまでは誰も同じです。次に、モンティが98のドアを開けてしまった後、あなたが選んだドアは確率が1/2高まったのでしょうか、それとも1/100のままなのでしょうか。

 正解は1/100のままなのです。モンティが残したドアに変えることによって、キャディラックを手にいれる確率は99/100にまで高まるのです。やはり、直感的には1/2だと思うかも知れませんね。

 どちらが正しいのか実際に確かめる方法はありません。このようなゲームを1回しか行えない場合は、ゲストがドアを変えずにキャディラックを手にすることもあるでしょう。ドアを変えたために山羊だったということもあるかも知れません。しかし、同じゲームを何回も行うことができる場合には、毎回、成否の記録を残して、統計を取るとドアを変えた方がキャデラックがあたる場合が多いということを知ることができるのです。

4.モンティ・ホール問題を解く

 もう一度、モンティ・ホール問題のオリジナル版を繰り返します。

 米国のテレビで視聴者参加番組があります。司会者はモンティ・ホールという人です。スタジオにはA、B、C、と三つ部屋のドアがあってその各々のドアの後ろには賞品が隠されています。ゲストに選ばれた一人の視聴者がやることはまず自分の好きなドアを選んでその前に立つことです。

 どれか一つの部屋の後ろには高級乗用車のキャデラックが置かれていますが、他の二つの部屋には山羊が一匹づつ繋がれています。もちろん、ゲストはキャデラックを当てたいと思っています。モンティ・ホールはどの部屋にキャデラックがあるのか事前に知っています。

 さて、ゲストは三つのドアの一つを選んで、例えば、Aのドアの前に立ったとします。すると、モンティ・ホールは残った二つのドアのうち少なくとも一つは山羊のドアですから、それをCだったとすると、Cのドアを開けてゲストに次のように言います。

 「あなたはCを選ばなくて良かった。さて、あなたはAのドアを選んでいるが、今ならBに変えても良いですよ。」

 さて、ゲストはAのドアを選んだままが良いか、それともBのドアに変えるべきであろうか。あなたがゲストならどうするか、というのがモンティホール問題です。

 最初にドアの前に立ったとき、ゲストが選んだドアの後ろにキャデラックがある確率は1/3です。これには誰も異論がないでしょう。強いて、学問的に言うならば、ラプラスの確率定義により1/3であるといえます。

 モンティが残った二つのドアから確実に山羊のいるドアを選んで開けたということを知って、ゲストが選んだドアにキャデラックがある確率はどのように変化するかを論理的に求めることが出来るのです。

 途中の議論を省き結論を言いますと、それはベイズの定理を用いて計算できるということなのです。途中の議論というのは何故そうなるかということですが、後でベイズの定理の説明を読んでください。

 ここで、X、D、Hを命題とし次の内容であるとします。
 X:三つのドアがあって一つにはキャデラック、他の二つには山羊がいる(これが事前情報です)
 D:Cのドアには山羊がいた(これがデータです)
 H:Aのドアにはキャデラックがある
命題Hが眞である確かさ(つまり、確率)が問題です。データを見た後で変わるかどうかが知りたいのです。

 そして、条件付確率を次のように定義します。縦棒の右が条件です。
 P(H|X):Xが眞であるという条件の下に、Hが真である確率(=1/3)
 P(H|DX):Dを見た後にHが真である確率(求めるもの)
 P(D|X):Xが眞であるという条件の下にDが真である確率(=2/3)
 P(D|HX):Hが真であるという条件のもとにDが真である確率(=1)

 ベイズの定理によると、
 P(H|DX)=P(H|X)P(D|HX)/P(D|X)
       =(1/3)(1)/(2/3)=1/2

 つまり、Dを見た後の事後確率は1/2になっています。Cのドアについても1/2になっていることは同様に確かめられるので、ドアをCに変えてもAのままでも当たる確率は1/2で差はありません。だから、直感で良かったと言われそうです。

 実は、上の結論は早合点です。モンティはゲストが選ばなかった二つのドアのうち、少なくとも一つは山羊なので山羊のいるドアを必ず選ぶことが出来たのです。これがキーポイントです。
 つまり、P(D|X)=1なのです。

 従って、もう一度正しく計算し直すと、
 P(H|DX)=P(H|X)P(D|HX)/P(D|X)
       =(1/3)(1)/(1)=1/3

 ゲストはドアを変えなければ、当たる確率は1/3のままです!

5.問題3を解く

念のために、問題3もベイズの定理を用いて確かめてみましょう。

 X:100のドアがあって一つにはキャデラック、他の99には山羊
 D:モンティが開けたBから始めて99のドアには山羊
 H:ゲストの選んだAのドアにはキャデラック

 P(H|X):Xが眞であるという条件の下にHが真である確率(=1/100)
 P(H|DX):Dを見た後にHが真である確率(求めるもの)
 P(D|X):Xが眞であるという条件の下にDが真である確率(=0.99^98=0.373)
 P(D|HX):Hが真であるという条件のもとにDが真である確率(=1)

 ベイズの定理によると、
 P(H|DX)=P(H|X)P(D|HX)/P(D|X)
       =(1/100)(1)/(0.373)=0.026

 この解も問題の早合点です。モンティはゲストの選ばなかったドア99から山羊のドア98を確実に選んで開けることが出来たので、P(D | X)=1 としなければならないのです。
 
 従って、もう一度正しく計算しなおすと、
 P(H|DX)=P(H|X)P(D|HX)/P(D|X)
       =(1/100)(1)/(1)=1/100

 ドアを変えないと確率は1/100のままですからまず当たりそうもありません。逆に、ドアを変えれば確率は0.99です。

 

(了)


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