密度と質量  

(2019年7月18日)


 ニュートンは物体の質量を密度に体積を乗じたものと定義した。これを聞くと殆どの人は、ニュートンもおかしなことを考えたものと思うのではないだろうか。私もそうだった。なぜなら、私たちは密度は物体の質量を物体の体積で割ったもの、つまり単位体積当たりの質量が密度の定義であると習うからである。密度をρ、体積をV、質量をmで表すと、ρ=m/Vであると。

 これに対してニュートンはm=ρVであると。

今リンゴの質量を知るにはどうすればよいであろうか。天秤で計れば良いのは言うまでもない。

天秤の片方の更にリンゴを乗せ、反対側に分銅を釣り合うまで乗せれば良いのである。リンゴの体積はアルキメデスが王冠の密度を計るためにやったように鍋一杯に水を入れ、りんごをその水につけたときあふれた水の量を計れば良いだろう。

 こうして計った質量と体積から求めることが出来るのは平均密度である。リンゴは皮や芯は少し硬くて密度が大きそうである。密度は場所によって異なると考えるべきなのだ。すると、密度ρは、座標、x、y、zの関数であり、質量は密度を積分したものと考える方が正しいとニュートンは考えたに違いない。

 昨年まで質量の単位はキログラム原器であった。キログラム原器は白金ーイリジウム合金で作られた分銅である。この分銅を1キログラムと定めたものである。

 今年からキログラム原器でなく、1キログラムは原子の個数で定義されることになった。1モルの原子数をアボガドロ数と言うが、この数を定めて炭素なら1モルの炭素を12グラムとするというような決め方にしたそうである。実際には炭素でなく、ケイ素で決めることになったようである。自然定数だけで決めて置けば、キログラム原器のように人工物でないから経年変化の心配は無くなる。精度よく実測できるか否かは技術の問題である。

 ニュートンの質量に戻ると、質量の単位を決めるのでなく、密度の単位を決めておくべきなのである。新しい質量の定義に使ったケイ素を使って密度の単位を例えば、[dN]とでも決めて置く。すると質量の単位[kg]=[dN][m^2]となる。

 基準を決めるにあたって、同じケイ素を使うので技術上の困難さは全く同じである。単位の定義として密度を選ぶべきなのか質量を選ぶべきなのかの選択の問題にすぎないのである。全体は部分が集まったものであるから、部分を基準にすべきであるという考えならニュートンに分がある。

 同じような観点で見直すべきなのが力である。力は常に面を通して作用する。点や線では力を作用させることは出来ない。従って、力より圧力が基本的な量である。力は圧力に面積を乗じたものと定義すべきなのである。

             F=σ×A

 幸い圧力は既に基本単位がパスカルという名で定義されている[Pa]。

従って力の単位[N](ニュートン)は[N] =[Pa] ・[m^2] なのである。

(了)


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