(作成:2011年3月3日) ニュートン以来、地球の重力(gravitation)は万有引力を主体とする力(Force)であると説明されてきた。しかし、自然現象の観察から言えるのは重力が加速度(acceleration)であるというところまでである。ニュートンが万有引力の式として、重力加速度に質量を乗じた力の式として提示したが、これには説明が必要である。 確かに、加速度に質量を乗じると力の次元の量になる。しかし、重力の場合は見かけの力であって実際の力ではない。万有引力は見かけの力にとどまるのである。 犬井鉄郎「力学」(p.25)では、ニュートンの運動の第2法則、F=maで、外力Fに対して釣り合う慣性力maを見かけの力と呼んでいる。しかし、この場合の慣性力は実際の力であり、物体内には応力も発生している。従って、見掛けの力ではない。「見かけ」と言う言葉は「現実にはない」という意味であるから、実際の力が釣り合うためには実際の力でなくてはならない。慣性力が見かけの力であるという説明なら、式の上だけの力に対して別の呼び方が必要になる。(p.25の表現は修正されるべきであろう。) なお、ダランベールの原理は質量mの物体が、外力Fを受けて、加速度aの運動している状態において、F-ma=0 として、力の釣り合いにあるとみることである。外力Fに釣りあう力は、実際の力である慣性力maである。この場合は物体の内部に応力が発生する実際の力の釣り合い状態にある。 質量mの物体が外力Fを受けて加速度aで運動している状態を回転座標系(等回転とする)で表すと、その式の中にはF、ma、の他に遠心力を表す項とコリオリ力を表す項が現れる。この二つの項で表される力が「見かけの力」で実際に物体に働く力ではない。回転座標系で物体の運動を見るとあたかもこの二つの力も加わっているかのように見えるということなのである。 これまで重力も実際の力であるとみなされてきた。しかし、修正すべきである。重力加速度に質量を乗じた力は見かけの力でしかない。何故なら、物体内部に応力が発生していないからである。 物体に働く「実際の力」は慣性力と釣り合い、物体内に応力を発生する。従って、応力を検知することにより何らかの大きさの力の存在を実証できるものである。 見かけの力とは運動を記述する数式上で力の項目として現れるだけで、実際に物体に働く力ではない。従って、物体内に応力を発生することはない。即ち、常に応力はゼロである。逆に、応力がゼロであるならば、力が働いていないことの証拠となる。 今、窓のないエレベータの小部屋に人が入っているとする。このエレベータが1階で止まっている時、中の人は体重が足にかかって、エレベータが静止していることが判る。この場合、自由落下を静止させる地上からの反力(実際の力)に対して慣性力mg(実際の力)が発生して力の釣り合い状態にある。 一方、同じく人が入ったエレベータの小部屋を星から遠く離れた宇宙空間で小部屋の天井に取り付けられたロープを天使が丁度加速度1gで引っ張っていると考える。すると中の人は地上に止まっているエレベータの中に居るのと全く違いを感じない。 この二つの状況で前者はエレベータの中に居る人は重力質量mで重力加速度gによりmgに等しい地上からの反力を受けているとされ、後者の場合は天使の引っ張る力により慣性質量mの人が加速度gで動いている。 ところが、前者の場合で突然ロープが切れたとすると、エレベータは重力により1gの加速度で落下を始める。そして、中の人はエレベータの中で浮かんだ状態になる。即ち、足に力はかからない。重力による物体の運動はその物体に何も力を及ぼしていない。加速度1gで運動を始めたので、この値に質量mを乗じたmgという力の量を考えても、その量は見かけの力でしかない。 (了)
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