力と質量の定義変更試案  

(2016年11月18日)



 宇宙に存在するありとあらゆるものを万物という。昔の人は水、土、木、雨、など目に見えるものを数えて万もあれば足りると思ったのであろう。現在ではありとあらゆるものを数え上がれば万では到底足りない。

 万物に共通する特性は何であろうか。それは質量と大きさ(体積)である。どのような物体にも質量は必ずある。元素を構成する陽子、電子、中性子で見てもそれぞれが質量を持っている。

 工学の分野ではすべての物体には質量があるとして良いだろう。それでは質量を定義する特徴は何であろうか。多くの人は重さであると反射的に答える。しかし、重さは重力場に置いたときに生ずる(加速度)運動を静止させると生ずる力であって、質量自体が重さを有しているのではない。宇宙ステーション内では重さがないことは実証済みである。

 質量を定義する唯一の特性は力に対する抵抗である。普段誰もが経験する大きくて重いものは質量が大きくて動かしにくいということである。

ニュートンの運動の第二法則はこのことを表していて、力Fは質量mと加速度αの積であると言っている。

         F=mα

 この式から質量の単位を定義すると次のようになるだろう。

「質量1sの物体は(加速度に逆比例し、)力1Nを作用させたときに加速度1m/s^2を生じる。」

         m=F/α

 質量については最近までキログラム原器(質量原器)を1sと定義されていた。実際には精度よく測定できる方法が使われれば良いのであるが、質量の特性から定義をするならば上述のようになるだろう。

 ところがニュートンの運動の第2法則は次のように既に力の単位の定義に使われている。

 「1Nの力は質量1sの物体に作用させると1m/s^2を生じる。」

 
この力の単位の定義は長らく使われてきたものの、少し考えるとあまり適切でないことに気が付く。今、二人の力士が土俵上で組み合って動かない状況を想像してみて欲しい。二人とも全力で押し合っているのに動かない。動かないということは加速度がゼロである。しかし力は作用している。綱引きでも同じである。両者が同じ力を出して釣り合っていると力は作用しているのに動かない。

 このことから、力はバネで定義すべきであったと思われる。実際、力の測定はバネばかりやロードセルなど、原理的にはいずれもバネの伸長を測定している。この原理の背景はフックの法則であって、物体の長さの変化の割合が力に比例することを述べている。

 適当なバネを作ってニュートン原器(力原器)を作製すれば良いだろう。すると力の定義は次のようになる。

 「1Nの力はニュートン原器に作用させると1mの伸びを生ずる。」

 
1mの伸びを測るバネ原器は長くなりすぎるから、その1/1000で定義する方が現実的である。

 「1Nの力は力原器に作用させたとき1mmの伸びを生ずる。」

まとめると、質量と力の大きさ(単位)に対する定義変更は次のようになる。

(試案)

質量:「質量1sの物体は力1Nを作用させたときに加速度1m/s^2を生じる。」

力:「1Nの力はニュートン原器に作用させたとき1mmの伸びを生ずる。」

 

(了)
(注1)本稿は「質量と力の単位について」(2016年8月21日)と同じ趣旨である。
(注2)自然界に存在する「四つの力」は「四つの相互作用」であってここで定義する力ではない。
(注3)力の発生する直接の原因は四つの相互作用の内の電磁気力相互作用である。


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