(2014年11月5日)
宇宙エレベータは、現行のロケットによる宇宙への輸送費が高いので、ビルのエレベータのように宇宙へ行けないものかということで出てきたものである。現存する材料では絶対的に強度不足で理論的にも実現不可能なのである。 図-1 宇宙エレベータ想像図
ところが、カーボンナノチューブの強度が非常に大きいことが判った。カーボンナノチューブは極めて小さい繊維でしかないが、この強度を持った普通の大きさの建造材料ができたら宇宙エレベータも実現可能ではないかと、大林組など一部の人が熱心に検討をしている。夢の材料を仮定したら何でも出来てしまうのだが。 実は、この程度の速度で重力に逆らって垂直に上がるのでは重力損が大きくてエネルギー効率が極めて悪い乗り物となるのである。このことを少し説明する。 今、あるロケットの推力が小さくて、ロケット全体の重量に常に等しい推力しか出せないものとする。つまり、燃料が燃えるに従ってロケットの重量は軽くなっていくがそれに伴い推力も絞るものとする。するとこのロケットは発射台から浮き上がっても少しも上がることなく燃焼が終了してしまう。ロケットの燃料はロケットの重量を燃料が尽きるまで支えただけである。このようなロケットでは重力損が100%である。 ロケットの推力は重力に起因する重量より十分大きくないと重力に打ち勝って垂直に上昇することはできない。このため同じ量の燃料を使うなら燃焼時間は短くとも出来るだけ早く燃やして大きな推力を出した方がエネルギー効率は良いのである。このことから、殆どの大型ロケットは個体のロケットを束ねてブースタと称し、1段目が早く上昇するように設計されている。 新幹線が水平な地上に引いた真っ直ぐなレールの上を走っている状況と比較しよう。新幹線が出発してから加速し、速度200kmに達してこの定常速度を維持するものとする。この定常速度を維持するために車輪に必要な力は空気抵抗とレールとの摩擦力を打ち消すに等しい力である。 これに対して宇宙エレベータが時速200kmに達して、この速度を維持するには摩擦と空気抵抗は無視できるとして、常に重量を支えるだけの力を出していなければならないのである。下りのエスカレータを駆け上るようなものである。(ヘリコプタでさえ7日間継続して空中をホバリング飛行したままでいられるであろうか。ホバリングならヘリコプタは空中に静止しているので外部からのエネルギー補給も可能かもしれない。) 宇宙エレベータは推進力を電力エネルギを使うとしても時速200km程度ではエネルギー効率は非常に悪いものになる。ロケットよりエネルギー効率が悪くなることは計算するまでもないだろう。宇宙への輸送費を安くするという目的で考えられた筈の宇宙エレベータは看板を書き換えなければならないだろう。
ビルのエレベータでエネルギー効率が問題になっていないのは、カウンター・ウエイトが大部分の重量とバランスしているからである。地上を水平に走る新幹線とビルの壁を上下するエレベータをよく見比べて頂きたい。宇宙エレベータもカウンター・ウエイトでバランスを取るならば、一挙に長いロープは使えないので、乗り換えの回数が数百回にもなるだろう。
経済的な将来の長距離飛行機はスペース・シャトルをレールガンのようなカタパルトで一気に秒速8kmまで加速し高度200kmを飛行し、大気再突入により帰還する航空宇宙機である。この航空機は”カタパルト式航空宇宙機”と名付けよう。この航空宇宙機は大気突入時に小さなロケットを作動させるだけで殆ど燃料を持たない。また航空機の様に100%再使用可能である。東京からニューヨークまで1時間で行ける。 カタパルトでの発射能力は一気に人工衛星の地球周回速度の秒速8kmの速度を持たせることが出来るものとする。大気を通して宇宙に飛び出すのでもう少し大きくなければならないが、最大で地球半周しかしないので周回速度までは必要ない。 カタパルトはレールガンのようなもので、設計により自由に大きな一定の大きさの加速度で航空宇宙機を加速できるものとする。このカタパルトの実現性が最大の研究テーマである。デブリ・シールド研究用には秒速10kmで発射できる軽ガス銃が使われている。 地球表面の重力加速度の大きさを1Gとすると、この値はほぼ10m/s^2である。カタパルトの長さをジェット機の滑走路程度の4kmとすると、機体の速度として秒速8kmを得るには800Gの加速度を1秒間続ける必要がある。 加速度を100Gに抑えると8秒間の加速が必要になり、カタパルトの長さが32km必要になる。カタパルトの長さと加速度の組み合わせで丁度良い数値を検討する必要がある。 人間が数百Gの加速度負荷に耐える方法はあるのである。詳細は第58回宇宙科学技術連合講演会論文集「2K19 耐高加速度鎧の実現性」を参照のこと。
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