(2016年12月15日)
人工衛星を打ち上げるH-IIAロケットには加速度計を搭載している。ロケットがエンジンを吹かして上昇しているときも加速度計から出力された加速度値を刻々と積分することによりロケットの速度と位置を知り、あらかじめ設定した基準軌道から外れていないかを見ている。もし、外れていたらロケットを誘導・制御により修正する。
この加速度計がエンジンを作動させたことによる加速度分は検知するが重力加速度は検知できない。このことは、昔からロケットの誘導・制御設計者には周知の事実で、重力加速度分はロケットの高度から刻々計算して加速度センサの出力値に加えている。
何故、加速度計が重力加速度を検知できないかを説明している和書は今年の秋に発売された次の本までなかった。
「宇宙ロケット工学入門」、宮澤政文著、朝倉書店、2016年11月20日初版
p。142に次のように説明されている。
「慣性センサの1つである加速度計は,エンジン推力や空気力などの「重力を除く力」による加速度を検知するが,重力(万有引力)による加速度は検出できない.たとえば,真空の宇宙空間を自由落下する人工衛星や宇宙ステーションは,地球重力によって加速飛行をしているにもかかわらず,加速度計は何も検出しない.加速度計が重力加速度と同じ加速度をもつ「基準座標系」で計測しているからである.・・・」(引用終わり)
この説明の後、理解に役立つ図8.3も描かれている。
「加速度計が重力加速度と同じ加速度をもつ『基準座標系』で計測しているから」、重力加速度を検知できないというのは説明になっていない。エンジン推力はこの『基準座標系』であろうと計測できるからだ。実は、この説明の原典と思われる米国の次の文書でも同じ説明しかないのである。
"Handbook
of Astronautical Engineering", Heintz Hermann Koelle, 1961
宮澤氏はこの記述の後に加速度計とロケット本体の動きの差に触れて何故重力加速度を検知できないかについて正しく説明されてはいる。
しかし、このことはロケット搭載の加速度計が本質的に力検知器であるから、力でない重力を検知できないということなのである。(重力は力であると固執するとつじつまを合わせるために等価原理が必要になってくる。)
(了)
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