慣性の法則の変遷  

(2011年11月20日)


  ギリシャのアリストテレスは紀元前4世紀の哲学者である。万学の租と言われるだけに運動についても学説を残している。アリストテレスは次のように考えた。
   「物体に運動を続けさせるためには力が必要である」
歩いていても足を止めれば前に進まないからそのように考えたのであろう。弓を離れた矢が飛んでいくのは空気が後ろから押すからという説明があるがこれは少し苦しい。惰性による運動は考えつかなかったようである。

 ニュートンが生まれたのは1642年であるからアリストテレスの後、2000年も経っている。この間、物体の運動について思索をめぐらした人は大勢いるに違いないが、名を残したのはニュートンである。ニュートンは運動の第一法則として次のようにした。
  「物体は、力が作用しないかぎりは静止あるいは一様な運動の状態にとどまる」
これが慣性の法則とも呼ばれる法則である。

 力が作用しない静止している物体が何時までも静止したままであるというのは誰もが納得しそうである。しかし、運動している物体は何も力が作用しなければ直線等速運動を続けるということは、よく言い切れたものと思われる。地上では慣性の法則が成り立つ光景を見ることは何も無かったはずである。アイスホッケーで使う氷上のパックがよく滑ることを見て、もし抵抗がなければどこまでも滑っていくと思いついたのかもしれない。ニュートンはギリシャと違って冬には氷も張る英国の人である。

 ニュートンは投げた石が地球に落ちて行くのを見て慣性の法則との整合性をどのように考えたのであろうか。それは地球上にある全ての物体には重力と呼ばれる力が作用していると考えた訳である。この力は地球により生み出される万有引力である。この考え方が古典力学またはニュートン力学であり、現在この考え方で少なくとも工学の世界では間に合う理論である

 ニュートンは万有引力は遠隔力であり、瞬時に伝わるものとした。しかし、何故万有引力があるのかまでは考えず、自然はそうなっているという記述に留めている。

 アインシュタインの一般相対性理論により、重力は物体に近接作用として働く重力場であり、光速で伝わるものとされている。 もはや重力は力でないので、ニュートンの慣性の法則は次のように書き換える必要がある。
  「重力場にある物体は、力が作用しない限り、重力加速度を持った運動を続ける」

 重力が力でないことは一般相対性理論を待つまでもなく、ニュートンがケプラーの法則から万有引力を導いた時に、加速度があれば力が働いているとの早合点に気が付けば納得できることである。


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